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野村克也の『執着心』~真のプロなら、ここまでやれ。



2013年01月17日 公開

野村克也(野球評論家)

『執着心 勝負を決めた一球』  より》
写真:黒瀬康之

ID野球の前提になる「勝利への執着心」

1990年にヤクルトの監督に就任するにあたり、私は「ID野球」というスローガンを打ち出した。「Important Data(データ重視)」―― すなわち、「この投手はカウントが 3ボール-1ストライク になるとカープでストライクをとってくる傾向がある」といった情報を収集し、実戦で活用する野球である。幸いなことに現在この言葉は野球フアンの間に広く浸透しているようだが、なかには「感情を排した機械的な野球」というイメージをもたれている方もいらっしゃるかもしれない。

しかしそれは全くの誤解である。ID野球の前提になるもの、それは勝利への執着心である。妥協なく勝利を追求することが、データ重視や、個人本位のプレーを控えてチームのために尽くす姿勢を生む。特に、戦力で劣るチームが強者と戦って勝つためには、この執着心が絶対に欠かせない。

では2012年、日本一に輝いた巨人に挑んだ他球団は執着心を十分に発揮したか。残念ながら、クライマックスシリーズの中日には機械的な継投やバント、「神頼み」としか思えない配球が見られ、日本シリーズでの日本ハムも、第1戦と第5戦で同じ失敗を繰り返すといった淡泊さが目についた。

一方巨人にも、勝利への執着心が足りないと思われる場面は随所にあった。巨人には初球からどんどん振ってくる打者が多いが、投手をゆさぶったり、1塁ランナーを進塁させるための「待球」も重要な「攻撃」である。1球が待てなかったことで、チャンスを潰したり、作れなかったりした局面は少なくない。来季はどのチームにも、プロらしい「勝利への執着心」を発揮してもらいたいものだ。

本文にも記したが、「待球」の大切さを「サンケイスポーツ」の試合評論「ノムラの考え」で指摘したら、橋上戦略コーチは長野に対して「野村さんの言うことも正しいと思うよ」と諭したというし、主将の阿部は2番の藤村に対して私の指摘を伝えてくれたと聞く。野球評論家としてありがたいことである。

本書はその「サンケイスポーツ」の評論をまとめたものである。2011年の評論集( 『理想の野球』 PHP新書)につづき、2012年の評論も本として刊行させていただくことになった。

さらに本書では私の過去の日本シリーズの評論も一部収録した。私が南海の選手兼監督として評論を執筆した日本シリーズ、1976年の阪急-巨人につづき、「江夏の21球」が生まれた広島-近鉄(1979年)、タイガースフィーバーに沸いた1985年の阪神-西武、森監督率いる西武がその強さを見せつけた1987年の西武-巨人、そして「3連敗のあとの4連勝」、1989年の近鉄-巨人である。

1976年のシリーズは全盛期の阪急がついに巨人を倒した忘れがたいシリーズである。1979年の「江夏の21球」では、当時の評論には掲載しなかったが、「ニタツと笑った西本監督」が強く印象に残っている。満塁のチャンスを迎えたとき、一塁側のペンチに目を向けると西本監督が“ニタッ”と笑顔を浮かべられたのだ。それを見て私は“危ない”と直感した。監督はゲームセットまで喜ばない立場なのだから……。ちなみに1979年は「西武ライオンズの捕手」として執筆した(1979年にロッテから西武に移籍、翌年に現役引退)。

改めて初期の評論を読むと、まだまだ未熟で恥ずかしい思いもする。だが王や江夏、東尾らがいたころの野球をたまに振り返るのも悪くない。オールドファンには懐かしんで、若い方には昔の名勝負を楽しんで読んでいただければ、と思う。と同時に、この評論で往年の名選手の「執着心」のすばらしさを伝えることができれば幸いである。

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阿部が日本一の捕手になるために必要なこと

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