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進むべき道を選び出す「直感力」の磨き方

2013年01月25日 公開

羽生善治(将棋棋士)

『THE21』2013年1月号より

IT技術の進展などにより、変化のスピードが速くなり続けている。新しい知識や技術もどんどん登場する。過去に得た知識が陳腐化するのも早い。しかし、せっかく積み上げてきた経験がムダになるわけではない。むしろ、いまこそ、経験によって磨かれた直感が羅針盤になるのだ。
<取材・構成:川端隆人/写真:永井浩>

 

直感で方向性を定めロジックで詰める

 ある局面で、「この手しかない」と最善手が一瞬にしてひらめく。直感が判断をする際にどれほどの力を発揮するか、いかにして直感を磨くかが、羽生氏の近著『直感力』(PHP新書)のテーマだ。羽生氏は、キャリアを積むなかで、直感力の重要性は徐々に増していったと話す。

 「局面をみて最初に思いついたことは、ある意味で邪念がないアイデアです。

 もちろん必ず正しいとはかぎりません。しかし、自分の発想や考え方が端的に現われているアイデアのはずです。さらにじっくり考えるにしても、そこから出発して考えを組み立てていくほうが自然で、やりやすいのです。

 私が直感に重きを置くようになったのは棋士になってある程度経験を積んでからのことです。10代でプロになったころは、ロジックが8~9割を占めていました。というのは、直感的に判断しようにも、直感のもとになる経験がないからです。そこで、いわば物量作戦のように、考えられる手をしらみつぶしに考えていくしかなかった。

 それが、10年、15年と経験を積むうちに、思考の最初の段階でおおざっぱに『だいたいこのあたりかな』と予測して、そこから細かいところをロジックで詰めていくという方法に変わっていったのです。

 若いころのやり方といまのやり方の、どちらが優れているということはありません。ただ、多くの選択肢があるなかで一手を選ぶとき、しらみつぶしに考えていくと時間がいくらあっても足りなくなってしまいます。将棋の対局は時間制限がありますから、だいたいの目星をつけることが重要なのです。

 それはちょうど、地図を使って目的地にたどり着くプロセスのようなものです。たとえば日比谷公園にいきたいとして、東京中をくまなく歩きまわるわけにはいきません。まずは地図で目星をつけて、近くまで電車やクルマでいく。そのうえで、最後は自分で一歩一歩歩いていかなくては目的地には着かない。直感とロジックの関係はそういうものだと思います。

 ただ、直感は便利で使い勝手のいいものではあるのですが、あまりに頼りすぎるのは危険です。いいところは突いているけれど、正確さに欠ける、ということになってしまいますから。

 ほんとうはロジックと直感の両方を伸ばしていくのがいいのでしょうが、この2つは『片方を伸ばすと、もう片方が疎かになる』という関係にある気がします。『最近、直感が冴えてきたな』と思うと、読みが雑になる(笑)。そのあたりをどうコントロールするかは、私も悩ましいところですね」

 

知識が陳腐化しても経験はムダにはならない

 直感力を支える土台として、羽生氏が繰り返し強調するのは経験知だ。考え、判断した膨大な経験を積み重ねることで、それを土壌にして一瞬のひらめきが生まれる。変化が速く、知識や経験が陳腐化しやすい現代においても、そこには大きな価値があるという。

 「近年は将棋の世界もデータベースが充実してきて、定跡の研究も進んでいます。戦略の研究も効率化、合理化されてスピードが速くなり、対処するのが難しくなっています。

 誰でも過去の棋譜などのデータを研究できるようになると、事前準備の比重が上がってきます。私がプロになりたてのころは事前に作戦など考えませんでしたが、いまは非常にシビア。事前準備が足りず、ある一手を知らなかったがために負けるということさえあります。将棋の質が変わりました。

 そういう現状ですから、たとえば私が子供のころに覚えた定跡は、ほとんど使えません。それは仕方がない。

 ただ、変化が激しい時代だから経験はムダなのかというと、そうではないと思います。

 新しい局面に対処しなくてはならないとき、『過去にこういうやり方で遠回りしてしまった』『こういう方法でブレイクスルーできたことがある』といった経験にもとづく方法論が役に立つからです。あるいは、何をやったらいいのかわからないときに、過去の成功や失敗の経験が進むべき方向の指針になることもあるでしょう。

 たとえば私の場合なら、まったく新しい戦法が現われたときに『こういう新しい戦法が出てきたときには、一生懸命研究すれば、半年ぐらいで理解できるようになるかな』『このテーマなら理解に一年はかかるな』といった目星をつけられるようになりました。これは過去に何かを成し遂げたときの“経験の物差し”があるからです。そうすると、少なくとも目星をつけた1年なり、3年なりのあいだは、不安にならずにやるべきことに邁進できます。

 ですから、役に立つのは、直接的な知識や技術というよりは、それを身につけるに至ったプロセスの経験です。1週間ではこのくらいのことができる、1カ月ならこれくらい、1年ならここまでいける……といろいろな“経験の物差し”をもっていると、新しいテーマに出合ったときも落ち着いて対処できる。もちろん、ときには『自分の経験の物差しで判断するに、これは無理だ』と方向転換を決断することもあるでしょう。それが経験知の力だと思います」

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著者紹介

羽生善治(はぶ・よしはる)

将棋棋士

1970年、埼玉県生まれ。二上達也九段門下。85年、中学3年生のときにプロ入り。89年、19歳で初のタイトル竜王を獲得。96年、史上初のタイトル7冠(名人・竜王・棋聖・王位・王座・棋王・王将)を果たす。2017年、永世7冠を達成。18年、国民栄誉賞受賞。著書に、『決断力』『大局観』(以上、角川書店)、『直感力』『捨てる力』(以上、PHP研究所)など。

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