腸は「食べて出す」だけの臓器...多くの人がそう思いがちですが、近年の研究では、腸が体と心の両面に深く影響していることがわかってきました。小腸や大腸では、消化に関わるホルモンだけでなく、気分の安定に関わる"幸せホルモン"や、食欲や代謝の調整に関わるホルモンまで作られています。こうしたホルモンが正常に働くためには、腸自体が健やかな状態であることが欠かせません。
では、腸が元気に働き続けるための条件とは何か。その鍵を握っているのが、腸のぜん動運動と、自律神経との密接な関係なのです。書籍『コンパクト版 結局、腸が9割 名医が教える「腸」最強の健康法』より解説します。
※本稿は、川本徹著『コンパクト版 結局、腸が9割 名医が教える「腸」最強の健康法』(アスコム)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
腸のぜん動運動は自律神経の働きと連動している
腸は「食べて出す」ための働きだけでなく、体や心の健康にプラスの作用をもたらすホルモンまで作っているすごい臓器です。ですから、できるだけ腸に負担をかけるようなことをせず、その機能を十分に果たせるようにサポートしてあげましょう。そうすれば、腸が元気になる→さらによく働いてくれる→「食べて出す」がスムーズになる&いいホルモンがたくさん出る→体や心がさらに健康になるというよいサイクルが生まれます。
そのためには、何よりも腸のぜん動運動が適切に行われるようにすることが大事です。腸がいい状態を保つためには、腸を波のようにくねらせる動きが欠かせないのです。
では、どうすればぜん動運動は正常に行われるのでしょう。
実は、腸のぜん動運動は、自律神経と深く関わっています。
自律神経という言葉は、健康に欠かせないキーワードとしてよく耳にしますね。そのバランスが大切で「自律神経を整えれば健康になる」と言われたりしますが、腸の動きが活発になるか、鈍くなるかは、主に自律神経の働きに影響されるのです。
自律神経というのは、私たちの意思と関係なく、体を動かすために働いている神経です。この体中に張り巡らされた神経が臓器に信号を送っていて、呼吸をするために横隔膜を動かしたり、心臓を動かすなど、生きていくために必要な体の動きに関係しています。
自律神経には、交感神経と副交感神経の2種類があり、常に両方が働いているのではなく、1日の中でどちらかが優位に働いている時間帯がだいたい決まっています。
簡単に言うと、交感神経が優位に働いている時は、体は活動的で緊張感を持っている状態。副交感神経が優位になると、体はリラックスした状態になって休息のための動きをします。
ですから、太陽が昇っている朝から昼間の間は交感神経が優位に、夕方から夜は副交感神経が優位になるというのが正しいリズムです。
腸のぜん動運動と自律神経がどう関係しているかというと、交感神経が優位になるとぜん動運動は鈍くなり、副交感神経が優位になるとぜん動運動は活発になります。
ですから、排便は副交感神経が優位のリラックスした状態の時に起こりやすく、常に緊張状態で交感神経が優位なままの人は、ぜん動運動が鈍いために便秘になりやすいのです。
また、交感神経が優位になりすぎたり、いわゆる自律神経の乱れが起きていると、便秘になることもあれば、逆にぜん動運動が激しくなりすぎて下痢が起こる場合もあります。
例えば、旅行に行くといつも便秘になる、緊張する場面になるとお腹が痛くなって下痢をする、といったような症状は、どちらも自律神経の乱れによるものです。
いずれにしても、腸のぜん動運動は、私たちが自分の意思で強弱をコントロールできるものではなく、自律神経がそのカギを握っています。腸と自律神経は、とても密な関係なのです。
交感神経と副交感神経のバランスが取れていて、優位になる時間帯も一日のうちで自然に切り替わっていれば正常な状態。このように自律神経が整った状態であれば、腸のぜん動運動は適切に行われ、「食べて出す」のプロセスも正常に行われます。
つまり、便秘でも下痢でもなく、ほぼ毎日スムーズな排便がある人は、自律神経も整っていると言えるでしょう。
とはいえ、ストレスの多い現代社会において、そんな人の方が少ないかもしれません。日常の忙しさから、食事も生活習慣も乱れがちです。そうした生活を続けていると、自律神経のバランスが崩れ、腸のぜん動運動が適切に行われなくなり、当然便秘、下痢といったお腹のトラブルにつながります。
それだけでなく、疲労感、めまい、食欲不振、冷え、頭痛などの不調や、不安感、イライラ、集中力の低下、情緒不安定など、メンタル面の不調も起こります。
腸の健康のために、そして全身の健康のためにも、自律神経のバランスを整えておくことはとても大事なことなのです。
気になった時にいつでもできる「自律神経整えツボ押し」
緊張した時、不安な時などに、いつでもどこでもできるので、覚えておくと役立つツボを2つご紹介しましょう。
1つめの「合谷(ごうこく)」は、精神を落ち着かせるほか、目の疲れ、歯痛、首や肩のコリ、頭痛、胃腸の調整など、さまざまな部位と症状に効果的なツボです。
2つめの「神門(しんもん)」は、気持ちを安定させるのに効果的なツボ。何かが不安でドキドキしてしまう時や、気分が落ち込んでいる時にも有効です。ツボを押しながら同時に深呼吸も意識的に行うと、ダブルの効果で自律神経が整います。








