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「たかが疲れ」と侮ってはいけない 放置した疲労が招く“6つのリスク”

市原淳弘(東京女子医科大学 高血圧・内分泌内科教授)

2026年02月02日 公開

「たかが疲れ」と侮ってはいけない 放置した疲労が招く“6つのリスク”

「1日しっかり休んだはずなのに、全然疲れがとれない...」今までにそんな経験をしたことがあるかもしれん。そうした疲労に「ホルモンバランス」が深く関わっていると、日本内分泌学会内分泌代謝科専門医なども務める市原淳弘氏はいいます。

多くの人が感じている「疲れ」――その疲れを放置するとどうなってしまうのか。本稿では、市原淳弘氏の著書『疲れとり大図鑑』より、疲労を放置するリスクなどについて解説します。

※本稿は、市原淳弘著『疲れとり大図鑑』(世界文化社)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

「一晩寝る」だけで疲れをとるのは難しい

疲労には、単なる休息だけではとれない複雑な仕組みがあります。そのカギを握るのが「ホルモン」です。現代医学で解明されているホルモンは少なくとも50以上ですが、実際には600以上が存在するとされ、未知の領域も多くあります。

なかでも疲労と深く関わるホルモンは数多く、うまく働けば疲れを和らげ、逆にバランスを崩せば、回復に時間がかかる原因にもなります。たとえば、本格的な疲れが出る"ステージ3"の状態では、すでにホルモンが「危険信号」を出しています。

この段階になると、単に寝るだけでは回復せず、体の内部では複雑なプロセスが始まっているのです。運動による疲労も例外ではありません。軽い筋疲労なら数時間で回復しますが、筋肉の損傷による炎症には24~48時間が必要です。

ほかにも、ストレスに反応する「コルチゾール」や、気分と睡眠を安定させる「セロトニン」も疲れに大きく影響します。その回復には数週間〜数か月かかる場合もあります。「疲れた」と感じたとき、それはホルモンの過剰分泌や枯渇のサイン。無視すれば、元に戻るまでに数年かかることもありうるのです。

 

脳や筋肉の疲れがとれるのは3日後から

「なぜかやる気が出ない」「ミスばかりで小さな判断にも不安を感じる」「集中しようとしても頭が重い」──これらは典型的な脳疲労のサインです。

毎日、私たちの脳はフル稼働しています。気づけばストレス対応ホルモンのコルチゾールが増え、やる気をつかさどるドーパミンやセロトニンのバランスが崩壊。結果、バランスが崩れて、不安や思考の鈍りが生まれてしまうのです。

軽度の脳疲労なら、コーヒー片手に10分ぼーっとするだけでも回復しますが、会議&メール攻撃の連続パンチを食らうと、6〜8時間寝ただけでは足りません。数日〜数か月レベルで"脳のリハビリ"が必要なことも。

同時に、心が疲れる「精神疲労」も見逃せません。情報処理や対人ストレスでたまった心の疲れは、軽度の疲労なら2時間ほどのリフレッシュで一時的に回復しますが、根本から癒すには5〜8日間のまとまった休息が必要なことがわかっています。

そして、筋肉疲労。トレーニングで生じた筋線維の損傷による炎症は、24〜72時間でピークを迎え、その後回復します。ただ負荷の強いトレーニングを行うと、その後回復に5〜7日かかるケースも。一晩寝ただけでは痛みや張りが消えないのは、このためです。つまり、疲れは「一晩寝れば万事解決」ではありません。

・身体疲労:炎症ピークは運動後1〜3日、完全回復には5〜7日かかる。

・脳疲労:短い休憩で軽度は回復、中等度以上なら数日〜数週間の休息が必要。

・精神疲労:2時間程度のリフレッシュで一時的に改善。完全リセットには5〜8日の休息を。

 

疲労は放置すると大問題!!

「たかが疲れ」となめてはいけません。疲労を放置すると、じわじわと体に大きな影響を及ぼします。いったいどんなリスクが起きるのか見ていきましょう。

【心血管のリスクが3.2倍以上!】

「ちょっと疲れただけ」と油断は禁物です! 疲労を放置すれば活性酸素が増え、血管をじわじわと傷つけます。実際、週55時間以上働く人は週35~40時間の人と比べて疲労が蓄積しやすく、その結果、脳卒中リスクが1.33倍、冠動脈疾患リスクも1.13倍にも。

慢性疲労症候群になると、心疾患リスクは一般の人の約3.2倍も高く、寿命も2〜3年短いという報告もあるほどです。なるべく早く疲労を解消し、「たかが疲れ」と見過ごさないことが大切です。

【慢性疲労で失われる約2,800万円!】

慢性疲労はうつ病を併発することが多く、日本では、慢性疲労の人の最大45%がうつ病を発症したという研究もあります。また、慢性疲労症候群をきっかけに退職した人はおよそ50%、そのうち退職後に再就職できた人は30%程度。

これは、1人あたり約2,800万円もの生涯賃金が失われる試算(生涯賃金損失額=400万円×20年×0.35 =2,800万円)。とくに女性が多く、妊娠・出産に伴う仕事との両立が困難になって発症した人が2割弱にも上ります。

【慢性疲労になるとうつ病になる率3倍!】

体のみならず、精神的な疲労をも抱える慢性疲労は、うつ病とも深い関係を示しています。カナダのある研究では、慢性疲労患者の最大70%がうつ病を発症しているとの報告も。また、一般的な人の5倍以上も自殺率が高いともいわれているのです。

精神的疲労は、脳内のホルモン・セロトニンと大きく関係し、心の安定やストレスに影響します。意欲の低下やイライラ、悲しみ、不眠などを感じたら、疲れを早めに自覚して対応を。

【ウイルス感染リスク約3.5倍】

ボルナ病──主にウマやヒツジに感染するウイルス性疾患で、ヒトへ感染すると頭痛や記憶障害を引き起こすことが知られています。このウイルスに慢性疲労症候群患者が感染するリスクは、健康な人より約3.5 倍も高いことが2023年の研究で判明しています。

原因は、ウイルスを攻撃するNK細胞の働きが低下し、排除に通常の約2倍かかるため。その間にウイルスが脳に侵入し、神経を乱して、疲労を慢性化させる悪循環を生むのです。

【腸内ビフィズス菌が減少うつ病リスク3倍!】

なんとなく続く体のだるさ──もしかすると、それは腸からのSOSかもしれません。最新の研究によると慢性疲労症候群の人は腸内のビフィズス菌が健康な人の数10%も減少していることが報告されています。

この腸内環境の悪化が、脳の炎症を引き起こし、幸せホルモン・セロトニンの産生を大きく抑制してしまうんです。すると、うつ病を発症するリスクも3倍以上にはねあがってしまうことに!あなたのだるさは腸内からのSOSかもしれません。

【NK細胞が通常の約60%も激減!】

慢性疲労の人の体では、ウイルスを撃退するNK 細胞の数が健康な人の40%以下に激減!このため、通常1日で退治できるウイルスの処理に3日以上かかり、風邪やインフルエンザのリスクが3倍以上に跳ね上がります。

深刻なのは、疲れた免疫システムが機能不全になり「ウイルスを素通り」状態にすること。実験では、慢性疲労マウスにウイルスを投与すると、健康なマウスが1日でウイルスを撃退したのに対して、慢性疲労マウスは72時間後でも48%のウイルスが残存していたという報告もあります。

プロフィール

市原淳弘(いちはら・あつひろ)

東京女子医科大学 高血圧・内分泌内科教授

東京女子医科大学 高血圧・内分泌科教授。日本高血圧学会理事・評議員、日本内分泌学会評議員なども務める。慶応大学医学部卒。高血圧や内分泌疾患を診る専門医として数々の実績を重ねてきた国内屈指の存在。内分泌疾患や、高血圧を「管理する」から「治療する」、病気に変える挑戦を続けている。併せて、企業との連携で減塩食の開発に携わったり、市民向けの講座を開いたりと、様々な活動を展開。メディアでも数多く取り上げられ、反響を呼ぶ。著書に『血圧リセット術』(世界文化社)。

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