佐伯ポインティが深夜の紀伊國屋書店で「無責任選書」 占い師バトルから叶恭子の恋愛本も? 【KINOFES2026】
2026年1月31日の閉店後20時30分から翌朝6時にかけて、紀伊國屋書店新宿本店にて初のオールナイトフェス「KINOFES 2026」が開催されました。近年、オンライン化によって「本屋で本を買う」という体験が転換期を迎える中、リアル書店にしかない「想定外の出会い」や「ライブ感溢れる場」を再定義するために企画されたイベントです。
館内各所ではライブトークやミステリーイベントなど多彩なイベントが実施されました。その中でも、0時から「佐伯ポインティの無責任選書」は、マルチタレントの佐伯ポインティさんが来場者の相談に乗りながら、読んだことのある本はもちろん、時には読んだことのない本すらも"無責任"に紹介するという、まさにフェスの醍醐味を凝縮したような時間となりました。本稿では、その様子をお届けします。
本屋は「アウェー」? 無責任選書の幕開け

【ポインティ】本を読むのが好きなので、今回お呼びいただきました。おすすめしたい本をいろいろ集めてきたんですけど、書店を歩いていたら、本当に読んだことのない本のほうが多くて。「読んだことない本だ!」ってなりながら歩いていました(笑)。
自分の家の本棚を見ていると、「あー、読んだことあるわ」とか「知ってるわー」みたいな感じですけど、本屋に来ると急にアウェーな感じになります。
一応いろいろ集めてはきたんですが、ここにない本もおすすめしていこうかなと。さらに、読んだことのない本もおすすめしちゃうぞ、というぐらいファジーな感じでやりたいです。
もう0時も回っていて、眠い人もいると思うので、全然寝ちゃっても大丈夫です。
今回は質より量。ポンポンいければなと思っています(笑)。
占い師同士のバトルってあるんだ
【相談者】おすすめのミステリーがあれば教えてください。
【ポインティ】『Nの逸脱』って読んだことあります?
【相談者】いや、ないです。
【ポインティ】よかった~(笑)。これ、前回の直木賞候補作なんですけど、ミステリーっぽいテンションの短編が3つあって、3本目がめっちゃ変な話なんですよ。主人公は占い師で、年配の、細木数子みたいな女性です。
モノローグでは、占いで使われるコールドリーディングっていう、実際にあるテクニックについて書かれています。「この人は多分冷え性で、睡眠と体調に問題があるんだろうな。だから、あなたはあったかいお湯を飲んだほうがいい」とか、「このタイプの人には高額な数珠を売りつけるのがいいんだよな」とか、そういうことをずっと考えている。
あんまり占い師の視点って見ないので、そこが面白いんですよ。あと「占い師に必要なのは体力!」って言って、めっちゃ朝ランニングしてるんです。細木数子みたいな人がね(笑)。
そこに変な女性が来て、「弟子入りしたいです。私には本当に超能力があると思うんです」って言う。最初は「変な人来ちゃったな」って思ってたんですけど、目の前で「あ、これガチで超能力あるわ」ってなるんですよ。そこからが面白くて。
主人公は努力型なんですよ。頭を使って占いをしてきた人。だから天才型を見た瞬間、「こいつに勝ちたい!」ってなるんです、占い師同士で。本物に勝ってやる、っていう話で、そこからちょっとミステリーっぽい展開になるんですけど。
「本物に勝ちたい」って、占いのジャンルでもあるんだ...みたいな(笑)。奇妙で、面白い本です。
お得感のある? 旅エッセイ
佐伯ポインティさんが選んだ本
【相談者】今、エッセイを読むのにハマっていて、おすすめを教えてもらえたら嬉しいです。
【ポインティ】エッセイにどんなものを求めているんですか?
【相談者】西加奈子さんの『くもをさがす』というカナダでの闘病の話を読んだのですが、そういう海外での日本人のマイノリティの部分など、自分が生きている世界との違いが見られると面白いなと思います。
【ポインティ】なるほどですね。『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』は、好きなタイプのエッセイだと思います。オードリーの若林さんが煮詰まっている状態でキューバに行くんですけど、現地の人たちとのコミュニケーションを通して、だんだんほぐれていくんです。「旅ってこれがいいのよ」と思わせてくれます。
しかも家族のこととか、自分の考えていることもガッツリ書いてあって、本当にキューバに行かなくて済む!それは言いすぎか(笑)。文庫で800円なんですけど、めっちゃお得感があります。あんまりお得感で旅エッセイをおすすめすることはないですけど(笑)。一時的な旅行だけど、日本との違いがビビッドに感じられる本です。
突っ込んでいるうちに元気になる 叶恭子さんの異次元な話
【相談者】ポカポカするような、人の優しさが分かる本が読みたいです。
【ポインティ】ちょっとずれちゃうんですけど、叶姉妹の恭子さんの『トリオリズム』って読んだことあります? これ、マジで変な本です。恭子さんがグッドルッキングガイとか、世界中の大富豪と恋愛するんですけど、本当に訳が分からないスケールの話をずっとしていて(笑)。
ホテルに帰ったら木とレンガが置いてあって、レンガを開けたら札束が入ってた、みたいな。「これ何の話?」「なんで木にレンガ?」っていう(笑)。
あと、恭子さんも優しいっちゃ優しいというか(笑)。ポカポカとは遠いんですけど、「こんな人もいるんだな」って、世界の広さを感じられます。
ずっと次元の違う話をしていて、「何言ってんの?」って思うところがめっちゃあるんですよ。読んでいて、ツッコんでいるうちに元気になる本です。
スマホを忘れて没入する心理ミステリー

【相談者】本を読むのは好きなんですけど、スマホばっかり見ちゃって。いま読んでいる本も全然読み終わらなくて。よっしゃ、本読むぞ!という気持ちになれる本が欲しいです。
【ポインティ】ちなみに、今は何を読んでいるんですか?
【相談者】京極夏彦さんの『魍魎の匣』です。
【ポインティ】そうっすね、それはスマホと一番遠いですよね(笑)。
短くて一気読みできるなら、アガサ・クリスティの『春にして君を離れ』がおすすめです。
どういう話かというと、完璧超人のお母さんがいるんですよ。夫ともうまくいっていて、子どももきちんと育てて、「私ってもう最高!」ヒールでカツカツカツ、みたいな(笑)。
その人が娘のお見舞いに行ったものの、面会謝絶になって会えなくて、戻ってくる。その帰り、電車に乗る前に女子校時代の同級生と会って、不穏なことを言われるんです。「あの人と結婚したら大変でしょう」とか、「娘さんといろいろあると思うけど」とか言われて、「何言ってんだこいつ」って思うんです。「昔はマドンナだったのに、醜くなって、何この人、最悪の人生!」って、心の中でまずめっちゃ悪口を言います。
それで帰りの電車に乗るんですけど、その電車が砂漠の中央で止まっちゃって、完全に暇になっちゃう。スマホもなければ友達もいないし、本もなくて、娯楽がない。完全に何にもない一人になる。
その時に、さっき同級生が言っていたことを思い出すんです。嫌なこと言われたなと思いつつ、「そういえば夫、変な時あったな」とか、「娘に『お母さん、全然分かってない』って言われたことあったな」とか。不都合だから見ないようにしていたことが思い当たるようになってきて、だんだん視界がぐにゃーってなっていく。
最後がめっちゃすごくて、目が離せないんですよ。だんだん「自分が思ってた人生と違うかも」となっていって、かなり緊張感があります。
アガサ・クリスティは、この作品がミステリーじゃないので、当時は別の名義で出版していて、それがたしか数作ある。そのうちの2作品を読んだんですけど、どっちも人間のイヤなところ、嫌な人間あるあるをガッツリ描いているんです。「最後どうなるの?」っていうのを、ぜひ追ってみてください。
読んだら頭が良くなる? 言葉の力で災害に挑むハードSF
【相談者】あんまり頭が良くないので、読んだらちょっと頭が良くなりそうな、ほんのり語彙力がつきそうな本をお願いします。
【ポインティ】「読んだら頭が良くなりそうな感じの本」っていいですよね。『自生の夢』っていうハードSFがあるんですけど。
生まれてからずっと、自動のツイッターみたいな、自分の人生を筆記してくれるプログラムが常に自分についている世界の話で、アプリやスマホが流行るみたいに、そのデバイスがめっちゃ普及している。みんな生まれた時から、行動とかがずっと記述されてるんですよ。自動日記帳みたいな感じですね。便利でもあるし、自分のことも把握できる。
そんな中で奇妙な災害が起きるんですよ。文字にまつわる災害みたいな。ちょっとハードSFすぎて、全然説明できないんですけど(笑)。とにかく、文字に関係する災害が起きる。
この災害に対応するために、過去に73人を言葉の力で殺した詩人がいて、その文字の災害に対して、「文字のやばいやつ」をぶつけるっていう作戦が始まるんです。
それ自体も面白いし、本題に入る前に、主人公であるその詩人の子が、プログラムやAIみたいなものを使って詩を読むと、どんどんその詩の情景が空間に表示される、みたいな描写があって。その詩のラップバトルみたいなことを友達とやってるんです。空間がどれぐらい、詩の情報量で埋まったかを競うバトルで、めっちゃ複雑なんですよ。
本当に今、噛み砕いて説明してますけど、ざっくり言うと、詩のラップバトルみたいな要素もあって、いろんな言葉がどんどん出てくる。なので、語彙力っていう意味だと、かなりいいかもです。
真実に取り憑かれたジャーナリストの執念
【相談者】読書スランプなので、夢中になってまた読書を再開できるような本が知りたいです。
【ポインティ】なるほど。読書スランプって、すごい造語ですよね。でも、そういう時ありますよね。
『対馬の海に沈む』っていう本があります。ノンフィクションなんですけど、対馬で起きた、半端ない額の詐欺事件を扱っています。22億円を超える横領で、「まず対馬で22億横領できるの?」「対馬でいけるの?」みたいな驚きが、もうあるじゃないですか。
横領の手口とか、JAがどういうふうに腐敗していたかみたいなことをちゃんと取材して書いているノンフィクションです。
途中、半端ないシーンがあるんですよ。めっちゃ横領して、友達とか同僚とか、JAのメンバーにお金をばらまいていた主犯の人が、じゃあ本人は何にお金を使ってたの?っていう場面があって。
残されたガレージみたいな場所を開けたら、ちゃんと温度管理されて保管されたワンピースのフィギュアだったんですよ。「え、何あれ、宴ってこと?」みたいな。その絵面から、「横領も海賊的な精神だったの?」みたいなのが一瞬香る。マジで意味わかんないシーンがあって、何て面白いんだ...と。「人間って奥深すぎるだろ」って思わされます。
あと著者の窪田新之助さん自体もすごくて、これまでずっと、こういう本を書いてきたわけじゃないんですよ。もともとはJAの新聞の記者で、「JAって何?」みたいな本や、社内広報的な作品を書いていた人なんです。
それが急に『対馬の海に沈む』を出して、真実に取り憑かれたルポライターになっちゃった、っていうのもおもしろい。事件の関係者にも「真相を聞かせてください」って凸ったりしていて、最後にはすごい文章力になるんですよ。最後の描写が良すぎて、「この人どうしちゃったの?」と感じた本です(笑)。
深夜から始まった「佐伯ポインティの無責任選書」では、まさに今回のKINOFESのテーマである「今まで知らなかった本との出会い」を体現していました。会場からは笑いが起こり、紹介された本をさっそく棚に探しに行く人々の姿も見られました。












