「毎日頑張って日記を続けよう」「失敗しないように注意しよう」こうした心の中で繰り返す自分との会話を「脳内トーク」といいますが、一見前向きな言葉でも脳に余計な負荷になってしまうことがあると、脳科学者の西剛志さんは語ります。
では、どんな言葉が自分自身にストレスを与えてしまうことになるのか――本稿では、「無意識に使っている3つのストレスが溜まる言葉」と、その対処法について紹介します。
※本稿は、西剛志著『脳科学でわかった仕事のストレスをなくす本』(アスコム)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
真剣にやらなければいけない
何かに真剣に取り組んでいる人は恰好よく見えますし、パフォーマンスも上がりそうに思えるかもしれません。しかし、何事も真剣にやりすぎると、脳にマイナスに働きます。過度な集中は脳の疲労物質「グルタミン酸」を溜め込み、かえってパフォーマンスを下げてしまうからです。
もちろん、真剣に取り組むことで一時的に成果が出ることはあるかもしれませんが、それを長く続けると脳が疲れ、脳内トークの質も落ちてしまうのです。
被験者を「真剣に考えよう」と脳内トークするグループと「肩の力を抜いてやってみよう」と脳内トークするグループに分けた実験では、後者のほうが前者よりも、複雑な作業の効率が平均10〜25%ほど高まるという結果が出ていますし、私も研修や個人サポートの現場で、それを実感しています。
スポーツやビジネスの世界で成果を出す人を観察すると、「真剣にやりすぎる」というより、むしろ肩の力が抜け、リラックスしているように見えます。ゾーンに入っているときの状態(フロー状態)は、リラックスと集中が共存するゲームをしているときの感覚に近いかもしれません。
どの分野においても、うまくいく人ほど遊んでいるように見えますが、彼らはまさにゾーンに入っている状態に近く、すべてをゲーム感覚で楽しんでいるのです。あらゆることをゲーム感覚で楽しむようになると、脳内トークも自然と前向きになり、効果も大きくなります。一つの方法でうまくいかなかったとしても、「やり方を変えてみようかな」「これを組み合わせたらどうだろう?」と柔軟に考えられるからです。
逆に、「真剣にやらなければいけない」という脳内トークにとらわれていると、脳が緊張で固まり、ストレスが溜まりやすくなります。もしあなたが「いつも全力で頑張らなきゃ」と思っているなら、その言葉こそがストレスを消えにくくしている原因かもしれません。
だからこそ、この脳内トークを少し緩めて「今日は肩の力を抜いて、ゲーム感覚で一度試してみよう」と言ってみることが大切です。そのたった一言が脳をリラックスさせ、ストレスを和らげるきっかけになることがあるのです。
失敗してはいけない
完璧主義の人は、「失敗してはいけない」という脳内トークを使いやすい傾向があります。特にスポーツの世界にいるアスリートは負けず嫌いで、完璧を求めるあまり、「エラーしてはいけない」「1点も取られてはいけない」と自分自身に負荷をかけることがしばしばあります。しかし、そう考えるほど緊張が強まり、パフォーマンスはかえって落ちます。
また、失敗を避ける人は、頭が良くなりにくいこともわかっています。マウスを使った迷路実験では、2回目の迷路をもっとも早くクリアしたのは、1回目に失敗をたくさん経験したマウスでした。しかも、同じ失敗を繰り返したのではなく、多様な失敗をしたマウスほど学習効率が高かったのです。つまり、たくさんの多様な失敗を経験するほど、私たちは学習し自己成長が起きるということです。
失敗を恐れるあまり緊張してしまう人は、「エラーは1試合に2つまではOK」「1点くらい取られても大丈夫」などと考えたほうが、むしろリラックスしてミスが減る効果まで期待できます。ちなみに、同じ練習を繰り返すよりも、異なる種類の練習を組み合わせたほうが、スポーツにおける身体能力の伸びが早いこともわかっています。
実際に脳は、失敗を通じてより多くの情報を取り込み、次の行動に活かす仕組みを持っています。たとえば、テニスプレーヤーの大坂なおみさんは、負けず嫌いで完璧主義者、そして短気だったため、かつては試合中に、悔しさから冷静さを失うことがよくありました。
ところが、サーシャパインというコーチに「相手に1点を取られても、なおみなら大丈夫。いつだって地球は丸く、草は緑だ。すべてはうまくいく」と言われて以来、プレーが一変。メキメキと頭角を現して、世界有数の実力者になりました。これも、「失敗してはいけない」という常識から抜け出した結果です。もちろんこれはスポーツ選手だけでなく、私たちの仕事や日常生活でも同じです。
「会議で1回くらい意見がうまく言えなくても大丈夫」
「資料に小さなミスがあっても、やり直せばいい」
「今日中に全部終わらなくても、明日やればいいこともある」
こうした緩やかな脳内トークを持つことで、私たちは完璧主義の呪縛から解放され、リラックスした状態になるため、むしろミスが少なくなります。結果として成長のスピードも上がり、本来の能力を発揮しやすくなるでしょう。
毎日続けなければいけない
あなたには、長い間続けている趣味や習慣がありますか?
毎日の散歩、読書、家庭菜園、日記を書くこと......。人によっていろいろな答えがあると思いますが、中には「自分は三日坊主で続けられない」「どうしても途中でやめてしまう」と嘆く人もいるかもしれません。
しかし、三日坊主は決して悪いものではありません。むしろ、「毎日続けなければならない」と考える人より、「できるときにやればいいかな」「好きなときに書けばいいや」くらいのおおらかな気持ちの人のほうが、うまくいきやすいことがわかっています。
ここで、ある興味深い実験を紹介しましょう。被験者を、「感謝日記」(その日にあった、感謝すべき事柄を綴る日記)を週に3回書くグループと、日曜日だけ書くグループに分け、どちらのグループのほうが幸福度が高くなったかを測定したところ、後者のほうが幸福度は高かったのです。
なぜかというと、週に3回続けて書いていたグループは、最初はよかったのですが、続けているうちに、感謝日記を書くことが「義務」になり、感謝の気持ちがなくなってしまったからだと考えられます。どんな良い習慣も、「毎日やらなければ」と思っていると、効果がなくなってきてしまうのです。
これは仕事や日常生活にも当てはまります。「毎日残業して頑張らなければ」「毎日勉強しなければ」といった脳内トークは、自分を追い詰め、ストレスを増やしてしまいますから、「三日坊主も悪くない」「好きなときにやるのが一番だ」といった具合に、気楽に脳内トークをしてみることをおすすめします。
何事も気楽に考えたほうが、むしろ長く続けられるのです。私自身、この事実を知ってから、ずいぶん楽になりました。毎日欠かさず続けるよりも、「やりたいときにやる」ほうが、むしろ成果が出やすいことを実感しています。気ままに自分の気持ちを大切にすることが、結果的に脳内トークの質を高め、ストレスも軽くしていくことにつながるのです。








