脳神経外科医の菅原道仁さんによれば、脳にとって人づきあいはとても大切だといいます。複数の研究から、社会的に交流が豊かな人は、高齢になっても認知症を発症しにくいということがわかっています。
菅原道仁さんは著書『ミニマル脳習慣』で、脳のパフォーマンスアップに有効な、科学的に根拠のあるミニマル(最小限)な習慣について解説しています。本稿では同書より、人間関係のトラブルを避けつつ、脳にもやさしい上手にコミュニケーションをとるコツを紹介します。
※本稿は、菅原道仁著『ミニマル脳習慣』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
孤独になると、脳は一気に老化する
あなたは、人づきあいが得意ですか?
得意な人、苦手な人、わずらわしいと感じている人、相手による人など、さまざまだと思いますが、人間は社会的な生き物なので、生きていくうえで人とのコミュニケーションは欠かせません。
脳にとっても、人づきあいは、とても大切です。
孤独や孤立の状態になると、脳は急速に老化します。人との交流がなくなると、脳への刺激が極端に減るからです。
社会的なつながりや人との交流が豊かな人は、そうではない人と比べて、高齢になっても認知症を発症しにくい傾向があると、複数の研究で報告されています。
ただし、「1人でいる時間が長い=よくない」という意味ではありません。自分にあうかたちで、だれかとつながっていることが大切です。
悩みを1人で抱えない
だれでも孤独や孤立の状態になると、悩みや嫌な記憶を吐きだせずに、頭のなかで何度もグルグルと思い出してしまいます。
そのとき、脳内では、ストレスがかかったときに増えやすいホルモンであるコルチゾールが分泌されます。このコルチゾールが増えた状態が長く続くと、記憶をつかさどる海馬などに負担をかける可能性があるのです。
だれかに近くにいてもらうこと、話を聞いてもらうことが、人間の脳には必要といえます。
そこで、人とのコミュニケーションが大切になってくるわけですが、そもそも、人との交流自体がストレスになることも多いですよね。
人と関わるなかでは、ときにイライラしたり、ケンカになったり……と、よくないことも起こるでしょう。そうなると、また脳内にコルチゾールが発生します。
人間関係のストレスを完全に防ぐことは難しいですが、できるだけ回避することは可能です。本稿では、そのヒントをご紹介しましょう。
なぜ、人づきあいでストレスがたまるのか?
「すべての悩みは対人関係の悩みである」
これはアドラー心理学の考え方をもとにした有名な言葉ですが、大きなストレスを抱える原因の大半は、人とのコミュニケーションにあるといえます。
なぜ、私たちは、人間関係でストレスを抱えてしまうのでしょうか?
それは「相手に期待するから」だと私は考えています。
同僚のいいかげんな仕事に腹が立つのは、「社会人なら、責任感を持って、きちんと自分の仕事をやるべきだ」と期待しているからでしょう。家族についイライラしてしまうのも、「これくらいはやってほしい」という期待があるからです。
ですが、相手は、たいてい自分の思いどおりにはなりません。「変わってほしい」といくら願っても、変わるかどうかは、その人次第。こちらが直接どうこうできる問題ではないし、無理やり相手を変えようとすると、必ずトラブルになります。
相手に過度な期待をしないことこそ、人間関係のストレスを軽くする最大の秘訣であり、脳にもやさしい人づきあいのコツといえます。
相手には相手の事情がある
ちなみに、ここでの「相手に期待しない」とは、相手のことを冷たくつきはなすという意味ではありません。また、「相手のことを優先して、自分は我慢するしかない」という、あきらめの境地とも違います。
むしろ、その反対で、「その人には、その人の考え方やペースがある」と認めたうえで、相手のことを尊重する姿勢です。自分と違う考え方や行動を「それは間違いだ!」と決めつけるのではなく、「たしかに、そういう考え方もあるな」「相手にも事情があったんだろうな」といったん受けとめると、相手との不要なトラブルを避けられて、自分も相手もラクです。
相手に期待しないことは、自分のためになるのです。どういうことか、次の項目で、くわしく見ていきましょう。
相手の言動にカチンときたら
たとえば、こんな状況を想像してみてください。家族とのケンカの場面です。
家族「今朝、ゴミ出すの忘れてない?ゴミ箱がいっぱいなんだけど」
自分「あっ、今日、収集日だったか」
家族「次の収集日まで、どうするの」
自分「……しょうがないじゃん。朝、バタバタしてたんだから」
ゴミ出しというささいなことから、大きなケンカに発展しそうな雰囲気ですが、ちょっと工夫すれば、簡単にトラブルを避けられます。
ここでの問題は、ゴミを捨てられなくて、次の収集日まで、そのままになってしまうこと。次回、そうならないように、相手といっしょに解決策を考えるのです。
たとえば、こんな感じです。
家族「今朝、ゴミ出すの忘れてない?ゴミ箱がいっぱいなんだけど」
自分「あっ、今日、収集日だったか。ごめん、忘れてた。朝はバタバタしてて、次から、前の日の寝る前にゴミをまとめて玄関に置いとくよ」
家族「わかった。それなら、キッチンを片づけたあとに、私がまとめておくね」
自分「助かる。ありがとう」
これなら、一気に平和な雰囲気になりますよね。
「相手に、こうしてほしい」と一方的に期待するよりも、今、トラブルになっていることに対して、相手といっしょに解決策を考えてみる。そのほうが、ずっと建設的だし、健康的です。おたがいに相手を責めるよりも、協力して工夫するほうが、結局のところ、自分も相手も得をします。
罪を憎んで、人を憎まず作戦
これを私は「罪を憎んで、人を憎まず作戦」と呼んでいます。この作戦のポイントは、「あなたが悪い」と相手を責める代わりに、「次は、どうなったらいい?」と「目的」を考えることです。
今回のゴミ出しの例だと、「忘れずにゴミを出す」という目的に目を向ければ、「家族に自分のミスを指摘されて腹が立った」という自分の都合は、あまり気にならなくなって、怒りや不満も小さくなります。
普段あまりしない思考なので、ちょっとした頭の体操にもなります。なによりストレスが格段に小さくなるので、心も、そして脳もラクです。
相手の言葉や行動にカチンときそうになったら、ぜひ、この「罪を憎んで、人を憎まず作戦」を思い出してみてください。








