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「シェール革命」の夢と現実

柴田明夫(資源・エネルギー問題研究所代表)

2013年04月01日 公開 2022年12月15日 更新

「安い石油」はアメリカにとって望ましいか

じつは「シェール革命」のブームに直面して、アメリカ自身、とまどっているのではないかと私は思っている。アメリカがシェールガスの開発に乗り出したのは、石油需要の半分以上を中東に依存しており、これが貿易収支の赤字の大きな原因になっているからだ。貿易収支を減らすため、オハマ大統領は2010年1月の一般教書演説で輸出倍増計画を唱え、5年間で輸出を倍にすると目標を掲げたが、もっか実現できる見込みはない。

それが「シェール革命」によって、シェールガスやシェールオイルを輸出する見込みが生まれた。これらを輸出すれば貿易収支の赤字は止まり、双子の赤字の片方が解消されるという夢が出てきた。

さらに安価なガスやオイルを使って、製造業をもう一度復活させ、それに伴って雇用も回復させる。ひいては強いアメリカを取り戻す。そういう壮大なビジョンを描けるようになった。

とはいえ現実には、アメリカに限らず先進国の経済成長は、大半が1%台の成長にとどまっている。一方で、新興国は伸びている。その大きな背景にあるのは、先進国に成長の源泉がなくなっていることだ。耐久消費財、すなわち家電や自動車はすでに普及し、インフラも整っている。

かつて先進国は、モノづくりをすることで経済成長を進めてきた。GDPに占める製造業の比率が10%台から20%、30%台と高まる過程で、みんなが憧れる耐久消費財が、国民の間に普及していく。所得も増え、食生活も豊かになり、みんなが豊かさを実感する。言わば「三丁目の夕日」の日本の時代で、そうした世界が先進国では過去のものになってしまった。

一方、世界を見渡すと中国をはじめとする新興国、あるいは将来的にはアフリカなどの貧困国にも、そうした部分がまだまだ残っている。しかも中国は 2001年のWTO加盟以降、外資を積極的に導入し、輸入を促進して急成長した。成長に必要な資源は、海外の資源を使う。そんなパターンに入り、工業化のステップをどんどん上がってきた。まさに資源が成長の源泉になり、そこからイノベーションが群発するという構図ができた。

翻って、アメリカの場合、膨大なシェールガスを使えるからといって、それでつくりたいモノなど、ほとんどない。あるいは「世界の工場」になれるかというと、それも無理だ。やはり全体として原油1バレル=100ドル前後をベースとした世界があり、その中で世の中が動いていくのが、アメリカ自身にもベストではないだろうか。

 

温暖化を防ぐには、1バレル=100ドルが好ましい

原油価格が上がった背景には、枯渇と同時に、CO2の増加による温暖化問題がある。人びとが従来どおりに地下系の資源への依存を続けた場合、2025年には平均気温が2度上がると言われる。地球の環境保全を考えたとき、我々は現在のような石油・石炭など地下系の資源に依存した社会から脱し、新しいエネルギーを取り入れる社会に移行しなければならない。

CO2の排出量を減らすには極端な話、晴耕雨読の生活をするしかない。それが無理なら産業構造を高度化して、GDPに占めるエネルギーの比率を減らす。ないしは、エネルギーを発生する際のCO2の排出量を減らす。いずれも大変な話で、原油価格が安くなれば、誰もやろうとは考えない。

だからこそ、使用を控えるべきエネルギーの価格が上がっている。そう捉える必要がある。それは移行を早めるための価格の急騰でもあるのだ。

新エネルギーへの移行を目指し、化石燃料の利用に環境税を定めたり、国や企業ごとにCO2排出枠を定めるといった、新しい動きが生まれだした。太陽光発電など再生可能エネルギーによって発電した電気を高値で買い取る「フィードインタリフ(固定価格買い取り制度)」も、その1つだ。日本でも2012年7月から本格的にスタートしたが、いち早く始めたヨーロッパでは、すでに「この制度は間違っていた」と批判的な声が出ている。

再生可能エネルギーの買い取り価格が高く、利用者の負担が大きすぎるというのが、その理由だ。実際のところ、再生可能エネルギーはまだまだ製造コストが高く、使い勝手も化石燃料に劣る。

ここで原油価格が下がれば、そうした声はますます大きくなる。やはり大事なのは、原油価格は高くして大事に使い、一方で再生可能エネルギーの技術を磨き、その比率を高めていくことである。

 

柴田明夫

(しばた・あきお)

〔株〕資源・食糧問題研究所代表

1951年生まれ。東京大学農学部農業経済学科卒業。76年丸紅株式会社に入社、鉄鋼第一本部、調査部、業務部経済研究所産業調査チーム長を務める。2001年丸紅経済研究所主席研究員。03年同副所長、06年同所長、10年 同代表を務める。11年10月、株式会社資源・食糧問題研究所を開設、代表に就任。農林水産省「食料・農業・農村政策審議会」臨時委員(05年4月~)、資源開発委員会委員、農林水産省「国際食料問題研究会」委員(07年3月~)、「資源経済委員会」、農水省農業政策研究所機関評価委員会、国土交通省「国際バルク戦略港湾検討委員会」等委員ほかを務める。
主な著書に『資源インフレ』(日本経済新聞出版社)、『原油100ドル時代の成長戦略』(朝日新聞出版)、『水で世界を制する日本』(PHP研究所)などがある。

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