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生き方

「失恋は自分を知るための仕組み」又吉直樹×たなかみさきが語る、マッチングアプリ時代の恋愛

又吉直樹(お笑い芸人),たなかみさき(イラストレーター)

2026年07月02日 公開 2026年07月02日 更新

「失恋は自分を知るための仕組み」又吉直樹×たなかみさきが語る、マッチングアプリ時代の恋愛

マッチングアプリの台頭、若い世代の恋愛離れ......恋愛を取り巻く環境は変化しつつあるなかで、人の悩みに多いのは今も昔も恋愛のこと。

お笑い芸人で芥川賞作家の又吉直樹さんと、人気イラストレーターのたなかみさきさんによる初の共著『失恋カルタ』の発売を機に、昨今の恋愛をめぐる風潮や、恋愛から生まれる負の感情との向き合い方をお二人にお聞きしました。

 

振り返ってみると、失恋が創作に活きていた

――まず、失恋に対するお二人のイメージをお聞きしたいです。

【又吉】普通に生きていたら、失恋は結構あるものだなと思っていて。自分から進んで失恋したいとは思わないんですけど、結果的に失恋をして、それが学びになったとか、その後の生活の仕方や創作に活かせてしまったということはありますね。

もちろん創作のために失恋しているわけじゃないし、できれば無いに越したことはないんですけど。

振り返った時に全く無駄だったとは思わないというか、やはり自分の人生には必要なものだったような、今の自分を作っている要素として、失恋の経験はあるのかなと思いますね。

――『失恋カルタ』の読み札も、ご自身の実体験から?

【又吉】そうですね。自分でも自覚しているような部分を相手側の視点から指摘したものや、一致する体験はないけれど、これに近いようなシチュエーションがあったなというものを創作で作ったものを混ぜています。

――たなかさんはいかがでしょうか。失恋が創作に活きる、という感覚はありますか。

【たなか】完全に活きていますし、染みついてしまっているというのもあるんですけど、やはり相手ありきのものなので、失恋って。なかなか一言では難しいですが、傷つけられたし傷つけてしまった結果、お互いに対等だなと思えれば、それが一番かなと。

失恋することによってお互いがフラットに戻れたらいいですよね。パートナー同士が対等じゃなかったことで起こる失恋はあると思うので。別れて関係性が良くなるのが理想かなと思います。

――たなかさんは、別れて関係性が良くなることはよくあったのですか?

【たなか】半々ぐらいですね。別れる時に「結婚するかビジネスパートナーになるか選んでください」という別れ方をしたことがあって、結果的にビジネスパートナーとして続いている関係があるんです。そういうこともできるんだという発見がありました。

――元恋人がビジネスパートナーに。

【たなか】お互いのできること、できないことを一番知っているから、ビジネスパートナーになれるんですよね。有難いことだと思っています。

【又吉】なかなか珍しいと思いますけどね。たしかに恋愛で二人で作り上げていった関係性とか、相互に知ってしまったことを、何かに活かせるなら活かせた方がいいですよね。

【たなか】物書きや作家じゃなくても、活かせる場所はあると思います。ただ、その目的が逆転してしまうととんでもない人間になりそうですけど。恋愛のためだけに恋愛があるわけじゃないと思います。人間同士ですから。

 

「恋愛を持ち込まない誠実さ」を錯覚するようになった?

――お二人とも失恋が創作につながった実感もあるとのことですが、最近は"恋愛離れ"が起きているとも言われますし、出会いにおけるマッチングアプリが当たり前にもなりましたね。そんな中、恋愛経験は何をもたらしてくれると思いますか。

【又吉】恋愛を経験することで、自分のことが具体的にわかる部分はあると思います。いい部分だけじゃなく悪い部分でもそうで、自己嫌悪に陥る人もいると思うんですよ。自分の弱点がわかるし、相手に指摘してもらうことで長所も掴めたりとか、自分だけではわからないものを知れる。

ただ、恋愛を経験していなければ自己肯定感がもっと高いままだったのに、ということもあると思うので、一長一短、必ずしもポジティブな影響とは限らないですね。相手に指摘されて自分をより知れるという仕組みとして働くことはあるのかなと思います。

【たなか】マッチングアプリは相手をカテゴリー分けして、ラベリングしてしまうことがあると思うんですよね。肩書きとか数字で相手を見てしまうような。

現代の風潮として、予測不能なことにどんどん弱くなってきている感覚があります。自分一人でさえ人生は予測不能なのに、二人以上になるとさらに何倍も予測不能なことが起こる。本来、恋愛はそれをどう乗り越えていくかなのかな、と思うんです。

【又吉】相手のステータスを先に考えるんじゃなくて、好きだなという人がたまたまどういう人だったかという順番で、好きになった人が仕事で成功を収めたからより好きになるとか、うまくいかなかったから嫌いになるというのは、本来はあまりないんじゃないかなと思うんです。

私たちには生き物として、お互いの関係性を築いていける能力が備わっているはずですけど、最初に年収だったり数字みたいなもので提示された時に、ちょっと大事なものを失っているのかなという気はしますね。失敗はしにくいんでしょうけど。

【たなか】やはり恋愛の目的はそこじゃないという印象があります。結婚となるとその辺は重要なのはわかる気はするんですけど。

私自身は"面白い人生を送りたい"が優先されてしまうので、むしろあまり共感してもらえないこともあるんですが。

――マッチングアプリがあることで、最近はリアルで出会ったとしても恋愛対象として見えづらいような空気感がある気がします。

【又吉】マッチングアプリだとお互い恋愛を始めるつもりでスタートするから、安全性も高いかもしれないですよね。

友達や仲間と趣味などの話をしていて「気が合うな」から恋愛が始まるのも、きっと減ってきているということなんでしょうね。

【たなか】他者に対して、「こういう人でこういうところが素敵なんだろうな」と予測したら上手くいかない気がするんです。違ったらがっかりしてしまう。相手を見たいように見ないということも大事かもしれないですね。相手をそのままに見ておかないと、齟齬が起きた時に心が揺さぶられてしまう。

【又吉】もちろんマッチングアプリを否定するつもりはないですが、ここ最近はマッチングアプリというものを、悪いものじゃないと社会全体で受け入れた雰囲気があるじゃないですか。となると、恋愛はそこでできるなら、職場や趣味の場所などは恋愛とセパレートした方が、その場所の純粋性が高まるみたいな、恋愛を持ち込まないことの誠実さみたいなものへの錯覚が生まれていると思うんです。そういう雰囲気の中で色気を出したりすると相手がすごく驚いて引いてしまうということはどんどん起こるでしょうね。

――かつては職場内恋愛も盛んでしたが、今は職場でそういう色恋っぽい雰囲気があることも少なくなったような...。

【たなか】えー、そうなんですね!私には通う職場がないので、オフィスラブに夢がありすぎて。向かいのデスクの人と内緒で付き合ってるとか....想像は膨らむんですけどね(笑)。

 

恋愛が引き起こす“負の感情”との向き合い方

――恋愛って負の感情を伴うことの方がどちらかというと多いと思います。嫉妬だったり、恨みだったり。お二人はそういった感情とどう向き合ってきましたか。

【又吉】基本的に僕は自立しているという自覚があるので、恋愛がうまくいかなかった時に相手を恨むということはあまりないですね。例えばコンビの活動において、仕事がうまくいかなかった時に相方のせいだと思わないとか、仮に売れなかったとして、相方にちゃんとしてほしいとあんまり思いません。

自分にもっとできたことがあったんじゃないかと考えたいし、別れたとしても自分一人でもちゃんと何かができるという気持ちでいたい。一時的に腹立つことはあると思いますけど、時間が経てばそれぞれ事情があるしなという感情になりますかね。

――あまり引きずらないんですね。

【又吉】自分の人生を生きているわけですから。自分事としてこの日常を送りたいという気持ちの方が強いですかね。

いろんなケースがあると思うんですけど、例えばパートナーにすごく時間を捧げたとか、金銭的なバックアップをしていたとか、それが別れて戻ってこないとか、非対称な関係性だった場合に恨みが残りやすい。だから付き合っている時にできるだけそういうことがないように、お互いフラットな関係性の方がいいのかなと思いますけどね。

【たなか】大事ですね。言い聞かせにも近いんですけど、私はひどい別れ方をしたとしても、無駄じゃないって思うことが大事だなと思います。

楽しかった時を思い出したりとか、これがあったから今があるとか、失恋にフォーカスするより、もっと広い人生の中の大事な一場面として捉えると、乗り越えられるかなと思います。相手だけを見ていると乗り越えるのが大変かもしれない。自分を見つめてみたり、人生について考えてみるといいかもしれません。

プロフィール

又吉直樹(またよし・なおき)

お笑い芸人・小説家

1980年、大阪府寝屋川市生まれ。2003年に綾部祐二と『ピース』を結成。2015年に小説デビュー作『火花』で第153回芥川賞を受賞。著書に『劇場』『人間』『生きとるわ』などがある。

たなかみさき

イラストレーター

1992年生まれ。人物画、人間関係を主に描くイラストレーターで、近年は漫画制作も行なっている。著書に作品集『ずっと一緒にいられない』『あ~ん スケベスケベスケベ‼』、コミックス『大なり小なり』、作品集『日読み』などがある。

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