「悪運も実力でねじ伏せる」師匠を驚かせた“藤井七段の圧巻の強さ”
2020年01月24日 公開 2020年01月24日 更新
史上最年少記録を破りプロ棋士としてデビューし、その後も破竹の勢いで数々の最年少記録を打ち立て続ける棋士の藤井聡太氏。
そんな藤井聡太氏を幼い頃から見守り続けてきたのが、師匠として知られるプロ棋士の杉本昌隆氏。「幼いころ、将棋で負けると盤を抱えて泣きじゃくっていた」と改装する同氏の新著『悔しがる力』より、知られざるその素顔にを明かした一節を紹介する。
※本稿は杉本昌隆氏『悔しがる力』(PHP研究所刊)より一部抜粋・編集したものです。
運ではなく実力で勝つ
運が悪いと嘆くあなた、もしかすると藤井聡太よりは運が良いかもしれませんよ?
「強運」、逆に「運が悪い」などと言われます。今風に言うなら「持っている」「持ってない」でしょうか。
破竹の快進撃を続けてきた藤井ですが、ある一つのこと、振り駒に関してはあまり運が良くないのかもしれません。というのも、振り駒で後手番を引くことが多いのです。
対局の先後の決定は、記録係が原則として上座の対局者の歩を五枚振って決めます。振り駒の結果、歩が多く出たら上座の先手、と金が多く出たら下座の先手となります。
確率的に平均すれば先手後手の回数にさほど差は出ないはずです。
戦型にもよりますが、全体の勝率で言えば、後手番よりも先手番のほうがわずかに上回ります。先手番は一手余分に指しているので主導権を取りやすい。逆に後手番は相手についていく将棋になります。だから積極的な棋風の人ほど先手番を求めます。
藤井の場合、先手番がほしい時に、ことごとく後手番を引いています。
実際、ある対局の後に藤井が、「先手番がほしかった」とぼそっとつぶやいたことがありました。
「これは試練だから」と私はわざと軽い調子で言葉を掛けました。
けれども、藤井は後手番を引くことによって大きなチャンスを逃したことはなく、結果を出しています。
2019年の朝日杯はベスト16から優勝するまでの四局すべてが後手番。それで強豪棋士を次々と破っていくのは圧巻でした。
「運の良し悪し」などという言葉は彼には陳腐なのかもしれません。自分で切り開く意志こそが大事なのでしょう。