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コーヒーや牛乳は水溶液? 物質を溶かす水の不思議な力

左巻健男(法政大学生命科学部教授)

2016年08月03日 公開 2022年11月09日 更新

にごった液は物が溶けている?

面白くて眠れなくなる理科 片栗粉(本来はカタクリという植物からとったデンプン。実際はジャガイモのデンプン)少々をスプーンでコップに入れ、水を8分目くらい加えてよくかき回すと、水は白くにごります。

 片栗粉の小さな粒はだんだん沈み、2、3日もすると、コップの水はきれいに透き通って見えるようになります。ためしに上ずみの水をスプーンにとって熱して水を蒸発させると、スプーンにはなにも残りません。片栗粉を混ぜてかき回した水は、にごっているだけで溶液ではなかったのです。

 胃のレントゲン検査のときに飲む「バリウム」も白くにごっています。「バリウム」には硫酸バリウムという物質の粉末が液に散らばらせてあります。しかし、この「白いにごり」の状態は水に溶けていません。

 「バリウム」が溶けた水溶液を摂取すると、小腸で体内に吸収されてしまいます。「バリウム」が吸収されると毒性を発揮します。しかし、硫酸バリウムは水に溶けない物質なので、体内で吸収されずに排泄されるのです。

 ただし、「バリウム」には飲みやすいように味がついています。その味となっている物質は水に溶けているでしょう。

 つまり、水の中ににごりや沈殿があったら、そのにごりや沈殿は水に溶けていないのです。溶けている物質はとても小さな分子やイオンでばらばらになっており、にごりや沈殿の粒は膨大な数の分子やイオンの集まりなのです。

 

コーヒーや牛乳は水溶液?

 砂糖を水に溶かしたとき、溶液は完全に透明になります。それに対して、デンプンを温水に溶かしたときや少量の粘土を水に入れてかき回したときは、しばらく放置しても少しにごっていて完全な透明にはなりません。「どこも一様な濃さになった混合物である」という点では溶液といっていいでしょう。

 しかし、デンプン溶液などには、砂糖水溶液とは違った性質が見られます。例えば、砂糖水溶液とデンプン溶液に、レーザー・ポインターでレーザー光線のような光を当てて横から見ると、砂糖水溶液では何も見えませんが、デンプン溶液では光の通路がくっきり見えます。この現象を「チンダル現象」といいます。

 砂糖水や食塩水では、水の中に砂糖分子などが散らばっていて、溶質粒子が非常に小さいのに対して、デンプン溶液では、砂糖水溶液の溶質粒子よりもずっと大きい粒子が散らばっていて、それが光を散乱するからです。

 デンプン溶液などのチンダル現象を示す溶液に散らばっている粒子のことをコロイド粒子といいます。それに対し、砂糖水や食塩水を真溶液ということがあります。

 溶けて透明になる普通の溶液の溶質粒子1個には、せいぜい多くても1000個の原子が含まれますが、コロイド粒子1個には、原子が1000個~10億個含まれています。デンプン溶液のように、コロイド粒子が分散している溶液をコロイド溶液といいます。

 自然界や身の回りには、コロイド溶液がたくさんあります。生物の体液、にごった河川水、石けん水、牛乳、墨汁、コーヒー、ジュースなどです。これらはコロイド粒子だけでなく普通の分子なども混ざり合っていて、真溶液とコロイド溶液の両方を含んでいます。

 石けん水は、濃度が低いときは真溶液で、濃度が上がると分子が寄り集まってミセルという分子集団をつくります。このミセルはコロイド粒子の大きさなので、コロイド溶液になります。

 コロイド粒子が密集したり網目状につながって、そのすきまに水を含んで、流れる性質を失い固体のようになっているものもあります。これをゲルといいます。豆腐、ゼリー、寒天、こんにゃくなどです。

 

著者紹介

左巻健男(さまき・たけお)

法政大学生命科学部環境応用化学科教授

1949年生まれ。栃木県出身。千葉大学教育学部卒業。東京学芸大学大学院修士課程修了(物理化学・科学教育)。中学二高校の教諭を26年間務めた後、京都工芸繊維大学アドミッションセンター教授を経て2004年から同志社女子大学教授。2008年より現職。
『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『よくわかる元素図鑑』(以上、PHPエディターズ・グループ)、『頭がよくなる1分実験[物理の基本]』(PHPサイエンスワールド新書)、『大人のやりなおし中学化学』(ソフトバンククリエイティブ)、『新しい高校化学の教科書』『新しい高校物理の教科書』(以上、講談社ブルーバックス)、『水はなんにも知らないよ』(ディスカヴアー携書)など編著書多数。

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