※本稿は左巻健男著『面白くて眠れなくなる物理』(PHP研究所)より一部抜粋・編集したものです
5円玉を熱すると穴はどうなる?
熱で金属も伸び縮みする
鉄道のレールは鉄でできています。そのために温度の高低によりレールの長さは変化します。夏は気温が高いのでレールは伸びて長くなり、冬はその逆で夏よりレールは短くなるのです。
もし、レールとレールの間が狭いと夏場に温度が上がった時、レールが膨張して伸びて、お互いに押し合って曲がったりずれたりすることになってしまいます。したがって、レールを敷くときには、温度による長さの変化を考えなくてはなりません。レールが曲がったりずれたりすると列車の車輪がレールから外れて、脱線事故等の原因になります。
また、電車の「ガタンゴトン……」という音は、レールとレールの継ぎ目を通るときの音です。レールとレールの間隔をあけすぎると大きなくぼみになり、振動が大きく乗り心地が悪くなります。
一般的に25メートルレールが多く使われていますが、その場合は、夏の温度が上がるときには継ぎ目のボルトを強く締めたり、下にしいてあるバラスト(砂利・砕石)を固めたりしてレールが曲がらないように昼間に点検を行って脱線事故を防いでいます。
青函トンネル内で使われている長さ52.6キロメートルのロングレールは、世界一の長さです。青函トンネル内は年間を通じて温度や湿度の変化がほとんどないので伸び縮みを心配する必要がないのです。
新幹線では「ロングレール」を使っています。そういえば「ガタンゴトン……」という音が感じられませんね。新幹線のロングレールは、まったく継ぎ目がないのではなく、数キロメートルごとに継ぎ目があります。
その継ぎ目は伸縮継ぎ目といい、図のように非常に浅い角度で斜めにカットされた構造をしています。これまでのようにレールとレールのすき間や段差がないので、スムーズに継ぎ目を走っていきます。
夏と冬ではレールの長さの差が数十センチメートルにもなりますが、この長さの違いをうまく吸収するようになっています。この新幹線の技術であるロングレールが導入されている一般の路線もあり、その路線では「ガタンゴトン……」という音が聞こえなくなっています。
穴の大きさは……
5円玉や50円玉のような穴空きコインを火であぶると中心の穴はどうなるでしょうか。モノは熱するとふくらむ、つまり膨張します。5円玉も熱すると当然膨張します。5円玉の金属の部分が膨張すると、5円玉の一番外側は大きくなります。
穴になっているところは金属がないので、金属が穴に向かっても膨張するようにも思えます。5円玉の穴は小さくなるのでしょうか。それとも大きくなるのでしょうか。
鉄線のような金属線を例に考えると、レールも同じように熱すると伸びて長くなります。その金属線を丸い輪にして熱してみましょう。線は伸びて、その丸い輪の直径は大きくなります。これは、5円玉で穴が大きくなることと同じだと思いませんか。
それでは、次に原子で考えてみましょう。5円玉も原子からできています。5円玉のような固体では、原子は振動しながら並んでいます。
熱するとその原子1個1個の振動は激しくなり、運動空間は大きくなります。運動空間まで含めると、1個1個が膨らんだのと同じことになるのです。
熱すると原子たち(それに加えて、それぞれの運動空間)は1個1個膨張します。そうすると、穴の緑の原子たちは、穴に向かっては膨張できません。膨張する場合には、穴の外側に向かってしか大きくなれないのです。つまりモノを熱すると、モノは外側に膨張するのです。そのため、5円玉を熟すると穴は大きくなります。
これは穴のない10円玉で同様に考えることもできます。熱すると10円玉は全体として膨張します。そこで頭の中で次のように想像してみましょう。
10円玉の中心を丸くくりぬいて、くりぬいたものを、もう一度はめこんだとします。その状態で熱すると、もともとの10円玉と同じように全体は膨張します。当然、熱くなった10円玉の中心にはめこんだ部分も膨張しています。そのときに、中心にはめこんだ部分をはずしてみると、穴は大きくなっているのです。
台所にある(金属でできた)びんのふたも、穴が空いているようなものです。ふたがとれなくなったときに、ふたを熱するととれやすくなるのはガラスよりも金属のふたが膨張して(つまりふたの穴が大きくなって)とれるようになっているからです。
金属のふたに着目してみると、これも穴が空いているのと同じことです。