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「敬遠中国」で再び日本は輝く〔2〕

石平(評論家/拓殖大学客員教授)

2013年11月15日 公開 2023年01月11日 更新

「幻のフロンティア」のためにすべてを失った日本

 満洲経営の最大の目標とは「日満経済ブロック」の形成にあった。つまり、日本が資金と資材を供給して満洲の開発を進め、その成果を本土に還流させるかたちで、満洲と日本本土を経済的に一体化させる。そうすることで戦前の日本は、アメリカを中心とする経済ブロックと対抗しうる自給自足の経済圏をつくり上げたかったのだ。

 おそらく、当時の日本は米英依存の経済構造から脱出したいと思っているからこそ、満洲に大挙して進出し、「日満経済ブロック」の建設に乗り出したのかもしれない。しかし肝心の「日満経済ブロック」は、ただの一度も自給自足の経済圏として成り立つことがなかった。石炭・鉄・工業塩などの重要資源が十分に確保できなかったためである。そこで、不足する資源を求め、満洲に隣接する中国の華北地方への進出を図った。そして華北地方に「経済ブロック」を拡大するための「華北分離工作」が進められているなかで盧溝橋事件が起き、日本は中国と全面戦争に突入したのである。

 しかし、これが原因でアメリカとの関係が悪化し、日本はいっそうアメリカ依存の資源供給体制から脱出する必要に迫られる。そこで考え出されたのは「南進政策」だ。今度は東南アジアに勢力を拡大して石油・錫・ゴムなどの戦略物資を手に入れようとした。このような動きはさらなる国際対立を招き、南進のためにはアメリカとの直接対決が避けられないような状況がつくりだされた。

 そのときアメリカは石油供給の中断を恫喝の手段にして、中国大陸からの軍事的撤退を日本に強く迫ってきた。追い詰められた日本は結局、対米開戦という運命的決断に踏み切ることになる。そしてそれは、大日本帝国の破滅の始まりであることは周知のとおりだ。いってみれば、矛盾打開のために打った手がさらなる矛盾を生み出していくなかで、日本は資源を求めて際限のない膨張と戦争への道を走らなければならない羽目となり、破滅の運命を迎えるのである。

 この一連の悪循環の起点はまさに満洲であった。満洲という「幻のフロンティア」を手に入れるために日本軍が行動を起こした結果、日本は国際的信用を傷つけ、国際連盟常任理事国の地位をも捨てて国際社会から孤立する道を選んだ。それほどの対価を払って確保した満洲は結局、日本が直面する資源不足問題の根本的解決には一向にならない。日本はこれでやむなく、満洲開発から華北進出へ、日中全面戦争から南進政策の推進へ、ついには日米開戦から全面降伏へと、破滅の道をひた走っていったのである。

 そしてその結果、満洲という「生命線」はもとより、日本が明治以来獲得してきた植民地の朝鮮半島も、台湾も失い、幕末の「裸一貫」に戻った。明治以来の日本人が努力して手に入れた富国強兵の成果も、一夜にして水の泡となった。いってみれば、満洲1つのために日本はすべてを失ったのである。

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大川周明がもたらした歴史的後退

著者紹介

石 平(せき・へい)

評論家

1962年、中国四川省生まれ。北京大学哲学部卒。1988年来日、神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。民間研究機関を経て、評論活動に入る。著書『なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか』(PHP新書)が第23回山本七平賞を受賞。

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