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社会

ネット依存症―スマホを手放せないあなたも危ない!

樋口進(国立病院機構久里浜医療センター院長)

2013年11月29日 公開 2023年01月11日 更新

ゲーム利用代金のために起きた恐喝未遂事件

 極端なケースですが、一例を挙げるとこんな事件報道もありました。

 『兵庫県警相生署地域課の巡査部長が職務質問した女性から金を脅し取ろうとした事件で、被告が県警の調べに対し「携帯電話のゲームにはまり、利用代金支払いのためにやった」などと供述していることがわかった。県警は被告を懲戒免職処分とし、上司の同署地域課長ら2人を所属長注意にした。

 発表によると、被告は2月から、アイテムを購入して遊ぶ携帯電話のオンラインゲームにのめり込み、総額約50万円をつぎ込んでいた。被告は「ゲームが唯一の楽しみだった」と話しているという。

 被告は6月10日、同県たつの市で女性に職務質問。7月に「(職務質問の場面を)撮らせて頂いた。買い取りませんか」などと脅迫文を送ったとして、恐喝未遂容疑で逮捕された』(「読売新聞」2013年8月9日付)

 他にもネットのつながりを介した事件がいくつも発生しました。なかでも、ネットが作り出すコミュニケーションと、その関わりとの難しさを感じさせたのは、広島で起きた未成年者による殺人事件です。

 LINEでの口論から集団暴行、殺人にまで発展してしまうことの恐ろしさはもちろんですが、さまざまな経験を積んで世界を広げなければならない子どもたちが、オンラインの世界に閉じこもってしまうことの問題の大きさを改めて痛感しました。

 SNSの広がりを見るにつけ、ネットでは「人から認められたい」「人とつながりたい」という心理がよりダイレクトに働くように思います。オンラインゲームでもグループ参加の戦闘系などのタイトルでは、長く続けるほど上達するという側面があり、仲間からの称賛や達成感や高揚感を得たいがために、ずるずると身を任せ、抜け出せなくなる例が少なくありません。

 また、LINE、チャットによる会話では、すぐ返信しないと仲間外れになると思い、画面から目を離せなくなってしまう人たちが数多くいます。

 こうしたいくつもの問題に横たわっているのは、人との距離感の問題です。仕事や生活を大いに便利なものとしてくれたインターネットは、人と人、人と情報とをダイレクトにつなぎます。かつてはつながり合うことがなかった人々にまで、情報が行き交うことで、新たな光と影が生じているのです。

 

ネット依存を軽視している大人たち

 影の中でも最も不安を覚えるのは、未成年者の今後です。

 おそらく今も、多くの人たちはネット依存を大した問題ではないと思っているのではないでしょうか。しかし、それはとんでもない話です。子どもたちのネット依存は、なまやさしい問題ではありません。私は長年、アルコールや薬物に依存する大人たちの治療に携わってきましたが、ここに来る子どもたちのネットへの依存度は、アルコールや薬物への依存と変わらない重大なものばかりです。

 さまざまな経験を積んで大人になっていく成長の時期に、ネット依存が長期間になればなるほど、回復させるのは困難になります。今、国内には、ネット依存の診断基準もなければ、実際に相談を受けたり、診療をしたりする機関もほとんどありません。本書の中で紹介したオンラインゲーム依存の少年の母親は、どれだけ現実に引き戻そうとしてもネットの世界から戻らない我が子を前に、「親子で心中することも頭をよぎった」と話していました。子どもたちをネット依存にさせないよう、使い方についてのルール作りや教育をすることはもちろん、依存を早期に見つけ、相談や診療を行っていく体制作りを早急に進める必要があります。

 ネット依存の問題は、まだまだ治療経験、臨床データの蓄積が足りません。今、まさにネットに溺れている子どもたち、大人たちが10年後、どんな影響を受けた生き方をしているのか、まったくわかりません。子ども時代のちょっとした気の迷い、一時的な熱狂であったと済まされる問題なのか。それとも人の成長に深刻な影響を及ぼすものなのか。研究はまだまだ始まったところです。

 しかし、距離感を失ったネットへの熱狂の先に、深い暗闇があることは間違いないといえるでしょう。

 

ネット依存症
樋口 進 著

LINE、オンラインゲーム、スマホに嵌り、不登校、離婚に追い込まれていく人たち。国内初の治療機関からのレポート。あなたも危ない!

 

<著者紹介>

樋口進(ひぐち・すすむ)
独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター院長

昭和54年東北大学医学部卒。米国立保健研究所留学、国立久里浜病院臨床研究部長、同病院副院長などを経て現在に至るWHO研究・研修協力センター長、WHO専門家諮問委員、厚生労働省厚生科学審議委員、同省依存検討会座長、国際アルコール医学生物学会次期理事長、日本アルコール関連問題学会理事長、国際嗜癖医学会理事・2014年大会長、アジア・太平洋アルコール・嗜癖学会理事・事務局長等を務める。アルコール教育によく使われるエタノールパッチテストの考案者でもある。

久里浜医療センター・インターネット依存自己評価スケール

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