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業界世界一・イケアの「理念経営」とは



2014年03月24日 公開

立野井一恵(ライター)

《PHPビジネス新書『イケアはなぜ「理念」で業績を伸ばせるのか』より》

 

イケアのDNA「ある家具商人の言葉」

 イケアでは、従業員のことを「ともに働く仲間」という意味をこめて、「コワーカー」と呼ぶ。14万人にもおよぶ人々の働き方のベースになっているのが、1976年につくられた「ある家具商人の言葉」である。

 創業者イングヴァル・カンプラードの言葉をもとにしたこの小冊子は、イケアの企業文化をはぐくみ、グループ全体に浸透させるうえで多大な影響をもたらした。

 小冊子はコワーカー全員に配布され、トレーニングの中でも繰り返し説明される。物事を決める時の判断基準であり、仕事に行き詰まった時のよりどころとして、さまざまなシーンで活躍しているという。まさに「理念」の真髄といえる存在である。

 ドイツのジャーナリスト、リュディガー・ユングブルートが著した『IKEA超巨大小売業、成功の秘訣』によれば、カンプラードが執筆に着手したのは1973年頃だという。カンプラード一家がデンマークに移住したこともきっかけとなったようだ。

 スウェーデンは相続税の税率が高く、事業税も多額であったため、税金対策の一環として、カンプラードは国外に出ることを選ぶ。その後、税制面でもより有利なスイスに移り現在に至っている。北欧以外に初めてできた店舗も、スイスのチューリヒである。

 カンプラードがスウェーデンを離れることは周囲にとっても不安材料だった。今までのように創業者に直接、指示や決裁をあおぐことができなくなる。

 創業から30年、イケア1号店ができてから15年が過ぎた頃だ。当時の従業員は約1000人。企業規模が次第に拡大し、規範となるものを作成する必要にも迫られていた。

 創業者の発言集を作成する会社は珍しくないが、経験から得た人生訓や創業から現在の歩みを記した自伝的なものが多い。会社のルーツや歴史を知る情報としては有用だが、日常の業務には直結しない。

 カンプラードは経験談や訓話から学び取ってほしいという手段を取らなかった。もっとストレートに、今後のヴィジョンと自身の価値観を伝えようとしたのである。

 「ある家具商人の言葉」に着手した当時、カンプラードはまだ50歳にもなっていなかったが、自分の死後もイケアが存続する方策を考え始めていたという。

 ちなみに、イケアは株式を上場していない。株主の意向に左右されず、独立性を保つためだ。店舗用地を取得するのも、予期せぬ事態で撤退を迫られたり、金融機関による干渉を防ぎたいからだという。カンプラードは成長のペースを他にコントロールされることなく、長期的な視点で展開する方法を貫いた。

 現在、イケア・グループはオランダにある3つの財団が管理する独特の構造だ。外的な要因が経営に影響を及ぼさないような組織になっているのである。

 カンプラードは、イケアの独自性を守ることに早くから知恵を絞り、今なお最高顧問として君臨する。

 彼には息子が3人いて、全員がイケア関連の役職に就いているが、跡を継がせようという意向は薄いらしい。そもそも親族であっても、特定の個人が簡単にイケアを牛耳れる仕組みになっていない。カンプラードはイケア存続のために用意周到に準備し、独立性が担保される独自の組織をつくりあげた。

 そして、サスティナブルに存続する企業であるための戦略として選んだのが、「ヴィジョンを掲げ、価値観を徹底させる理念経営」だったのである。

 その第一歩が「家具商人の言葉」を著すことだった。これをベースに、イケアのアイデンティは確立され、発展していく。イケアのバイブル、DNAとも呼べるツールである。

 本格的な海外進出が始まるタイミングで、企業理念をあらためてまとめ、打ち出したことは非常に味深い。

<<次ページ>> ビジネスモデルに直結する「企業理念」

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