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業界世界一・イケアの「理念経営」とは

立野井一恵(ライター)

2014年03月24日 公開 2022年06月09日 更新

 

価値観をより具体的に「イケア・バリュー」

カンプラードと直接会ったことのあるコワーカーはごくわずかだが、彼らはカンプラードを「イングヴァル」と親しみをこめて呼び、彼の生み出した企業理念に深く共感して、モチベーション高く働いている。

その理由は、「企業理念」をさらに具体的にした「指針」があるからと考えられる。

そう、イケアには、バイブルとも呼べる「ある家具商人の言葉」を基礎にしたグループ共通の価値観、「イケア・バリュー(イケアの価値観)」なるものが存在するのである。それは次の10項目で表現され、社内では「10バリュー(テン・バリュー)」と呼ばれている。

●自らが手本となること
●常に刷新を求める
●連帯感と熱意
●コスト意識を持つ
●現実を直視する
●謙虚さと意志力
●違うやり方でやってみる
●責任を担い、委任する
●簡潔
●いつでも「目標へと続く道の途上」

日常業務の中でも「違う方法でやってみよう」とか「コスト意識を持て」などと引き合いに出されることも多く、コワーカー同士であれば、その言葉が「バリュー」に基づくものだとすぐ気づくという。

単なる標語ではなく、実践的な内容に落とし込まれているのがわかる。インタビューの中で「バリュー」について聞いてみると、全員が自分の言葉で説明してくれたし、イケアのコワーカーとしての常識、あるいは心得として、毎日の仕事の中で強く意識されている存在だと語った。

「バリュー」に基づく次のような言葉も、社内でよく使われる。

・トゥゲザーネス(togetherness)…‥連帯感
・ハンブルネス(humbleness)……謙虚さ
・コスト・コンシャス(cost-conscious)……コスト意識
・コモンセンス(commonsense)……常識
・シンプルネス(simpleness)…‥簡潔さ
・オープンネス(openness)…‥隠しごとをしない

中でも「トゥゲザーネス」は、日常的に登場する言葉の1つのようで、取材中にもよく耳にした。

たとえば、大量の商品にプライスタグを付けるような作業が発生したとする。1人なら1時間かかってしまい、開店に間に合わない。しかし、他のコワーカーに呼びかけ、10人で取りかかれば10分で終了する。そんな仕事の仕方をよしとする。

つまり、個人主義におちいらず、コワーカー同士が連帯感をもって、仕事に謙虚に取り組み、コスト意識と常識を尊重しながら、隠しごとをしないオープンな態度でコミュニケーションしていく――これがイケアのスタイルなのだ。

 

【立野井一恵(たてのい・かずえ)】フリーライター

富山県高岡市生まれ、早稲田大学第一文学部卒業。出版社、広告制作会社勤務を経て独立。会社案内・入社案内・PR誌・カタログなど、企業の広告関連の仕事を手がけるほか、雑誌やWEB、夕刊紙などで執筆。ビジネス書のブックライターとして数十冊の制作に携わる。
仕事術・マーケティング・インテリア・人物インタビューなど、幅広いジャンルで活躍。ワークライフバランスを長年のテーマとし、フリーランサーのコミュニティにも参加する。本書が初めての著作となる。

 

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