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仕事

イケアは家具の会社ではなく人をつくる会社―社員の成長が会社を発展させる

〔レポート〕坂田博史

2014年03月17日 公開 2023年01月30日 更新

《『PHPビジネスレビュー松下幸之助塾』 2014年3・4月号Vol.16 [特集]人間大事の経営 より》

 

スウェーデン南部スモーランド地方にある小さな村エルムフルトから出て世界最大の家具チェーンとなり、今なおグローバル成長を続けるイケア。その日本法人であるイケア・ジャパンは現在、IKEA船橋(千葉県船橋市)、IKEA港北(神奈川県横浜市)など国内に7店舗を展開し、2014年春にはいよいよ東京都内に立川店をオープンする。

同社は、手厚い福利厚生や徹底した人材育成など、社員のモチベーションを高める人事制度で知られるが、それらを支える哲学とはいったいどのようなものなのか。同社の人事責任者と社員に話をきいた(以下、グローバルに展開する同社を「イケア」、日本法人を「イケア・ジャパン」と表記)。建物写真提供:イケア・ジャパン/人物写真撮影:山口結子

坂田博史(さかた ひろし)
編集者。1968年生まれ。中央大学法学部卒。PHP研究所、日本能率協会マネジメントセンターを経て、2009年よりフリー。編集に携わった書籍は100冊を超える。

 

 

従業員はみんな「ともに働く人」

 

 イケアでは、従業員のことを「コワーカー」と呼ぶ。日本人には耳慣れない言葉だ。単なる「ワーカー(worker):働く人」ではなく、「コワーカー(co-worker):ともに働く人」という意味だ。日本でいう正社員はフルタイム・コワーカー、それ以外はパートタイム・コワーカー。コワーカーという呼び方にこだわる姿勢を見るだけでも、イケアが正社員はもちろん、パートタイマーまで含めて、そこで働く人を大切にしていることがうかがえる。

 そんなイケア・ジャパンで取締役ヒューマンリソース・マネジャー(一般的な企業の人事部長にあたる)を務める泉川玲香さんは、次のように語る。

「イケアは家具の会社ではなく、人をつくる会社なのです。コワーカーの成長なくして、イケアの成長はありません。ですから、コワーカーの可能性を発掘し、それを伸ばすお手伝いをするのが私の大事な仕事の一つです。特に、当社では『全員がタレント』と言っていますが、その人の持っている才能、強みを伸ばすことに注力しています」

 イケアの本社は現在、オランダにあり、コワーカーのための「イケア・ビジネス・カレッジ」が併設されている。そこには世界各国からコワーカーが集まり、接客やマーケティング、購買、ロジスティクスなど、専門技術を積極的に学んでいるという。

「このカレッジでは、さまざまな専門分野の最先端の知識や技術を学ぶことができます。私もヒューマンリソースについて学ぶために何度も訪れています。また、発祥の地であるスウェーデンのスモーランドでも、マネジャーの研修や家具の製造・開発に関するトレーニングが行われています」

 それ以外にもリーダー研修に力を入れていて、リーディング・トレーニングやコミュニケーション・トレーニングが頻繁に行われている。

 そして、泉川さんはこうも言う。

「カレッジで学ぶのは専門技術やリーダーシップだけではありません。イケアの創業者であるイングヴァル・カンプラードの思いやビジョン、『イケアバリュー(イケアの価値観)』についても学びます。年がら年中ひっきりなしに、コワーカーのためのトレーニングが行われていますが、その半分近くは、こうしたビジョンや価値観に関するものなのです」

 コワーカーの成長こそが、イケアの成長の源泉だと考えているだけあって、人材育成のシステムやプログラム、施設にいたるまで、かなり充実している印象がある。なかでも特筆したいのが、「より快適な毎日を、より多くの方々に」というイケアのビジョンがコワーカーに深く浸透している点だ。

 理念やビジョンが額縁に入れられて飾られている企業は多い。しかし、社員に「御社の理念やビジョンは何ですか?」ときいて、すぐに答えられる社員ばかりという企業は少ないのではないだろうか。

 また、定期的に、創業者の思いや企業理念に関する研修や勉強会を行なっている企業もある。それでもなかなか社員全員に浸透しないのが、理念やビジョンというものだろう。

 イケアでは、会議やプレゼンテーションの際、最初にこのビジョンをみんなで確認してから始める。それによって、自分たちの進みたい方向、めざしたい方向が一人ひとりの頭の中で明確になるため、より有効な議論が交わされ、より面白いアイデアが出るのだ。

 

採用するのは価値観を共有できる人だけ

 

 そして、これこそが理念やビジョンが社員に深く浸透している最大の要因だと思ったのが、「バリュー採用」と呼ばれる人事採用の方法である。泉川さんが、自身が採用されたときの面接の様子を話してくれた。

 

☆本サイトの記事は、雑誌掲載記事の冒頭部分を抜粋したものです。以下、「安心して取得できる有給育児休暇」「マネジャーの43パーセントが女性」などの内容が続いたあと、「イケアの福利厚生・人材育成について現役社員にきく」として、2人の社員のインタビィーが掲載されています。記事全文につきましては、下記本誌をご覧ください。(WEB編集担当)

 

<掲載誌紹介>

2014年3・4月号 Vol.16

3・4月号の特集は「人間大事の経営」。
 松下幸之助は生前、人を何よりも大事にし、社員を育て上げていくことに全力を注いだ。「ものをつくる前に人をつくる」という考え方は、人間大事の経営をすすめた松下の特徴の一つである。また、取引先との共存共栄に腐心したのも、人間大事の一つのあらわれといえよう。
 本特集では、国籍・経営規模・業界を問わず、現代において「人間大事の経営」を追求している経営者たちそれぞれのアプローチを紹介する。
 そのほか、人気モデル押切もえさんが松下幸之助について語るインタビューは見どころ。今回から始まる新連載「家電ブラザーズ――小説・井植歳男と松下幸之助」も、ぜひお読みいただきたい。

 

 

BN

 

著者紹介

橋本和良(はしもと・かずよし)

傳來工房社長

1953年京都府生まれ。玉川大学工学部経営工学科卒業後、大塚製薬に就職。1982年、先代社長の父に呼び戻され、傳來工房入社。1995年に社長就任後、新たにエクステリアや住宅建築の分野に進出し、主力事業に。著書に『これからのいい家づくり真剣勝負――建ててからでは遅い!建てる前に必ず読まなければならない本』(日本建築出版社)。

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