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再生可能エネルギーは環境破壊を進める<受賞記念再録>

2015年02月25日 公開

石井彰(エネルギー・環境研究所代表)

◇本記事は、2014年5月に公開していますが、このたび、本書『木材・石炭・シェールガス』が第35回「エネルギーフォーラム賞優秀賞」を受賞したのを記念して、再録いたしました。

 

 

 

 

《PHP新書『木材・石炭・シェールガス』より》

再生可能エネルギーにまつわるブラック・ユーモア

 ブラック・ユーモアという言葉がある。社会通念上、倫理的、政治的に正しいとされている事柄を、客観的、ないし別次元の観点から皮肉る風刺のことである。これはポジティブな解釈だが、「笑ったあとで背筋が寒くなるような、残酷さや不気味さを含んだユーモア」(『大辞林』)という、ネガティブな解釈もある。

 今盛んに言われる「グリーン・エネルギー」、すなわち再生可能エネルギーも、多くの再生可能エネルギー積極推進派はあまり気がついていないようだが、エネルギーの人類史とエネルギーの原理から見れば、まさにブラック・ユーモア的な様相もある。いわゆる「グリーン・エネルギー」、太陽光、風力発電などの再生可能エネルギーを仮に化石燃料や原発を大きく代替するほど大規模に導入した場合、確かに二酸化炭素(CO2)削減には効果がある。しかし、逆に化石燃料や原発などとは比較にならないほどの凄まじい生態系破壊、すなわちグリーン破壊が「必然的に」生じて、全く「グリーン」とは程遠くなるという皮肉な原理がある。もちろん、実質コストが著しく高く、生活水準、経済水準を大きく引き下げてしまうという問題もある。これは、エネルギーと環境の相互作用の歴史を、ほんの少し振り返ってみれば、たちまち明らかとなる。

 確かに、世界でも日本でもCO2削減のためには、将来的に一定の再生可能エネルギーの積極導入が必要だが、過大な期待や視野狭窄は禁物だ。

 

再生可能エネルギーと社会主義

 「再生可能エネルギー幻想」ともいうべき、現在世の中の一部にある過度な再生可能エネルギーへの期待は、1950年代、60年代頃までの日本を含む世界的な社会主義に対する幻想にもよく似ている。

 米国を例外として、この時代、インテリたるもの、多少なりとも社会主義、あるいはマルクス主義=共産主義に共感しないことはありえないという風潮が世界的に濃厚であった。

 ソ連におけるスターリンの大量の「血の粛清」などの政治的実態、日常的なモノ不足による商店への長蛇の行列などの経済的、社会的実態に関する情報が次第に西側に洩れてきても、1970年代になるまで、この幻想は根強く続いた。多くのインテリ人種には、貧富の差も失業もなく、景気変動もないはずの社会主義計画経済、共産主義社会は、理屈で考えれば市場経済よりも合理的で、かつ倫理的、道徳的にもずっと優れているように、見えた。例えば、当時の国際的に著名な豪州出身の英国のジャーナリスト、ウィルフレッド・バ-チェットなどは、1960年代半ばになっても「新しい人道主義がソビエト連邦に根付いており、西側はみすぼらしく見えるようになった」とまで書き、「ソ連では地下鉄料金はタダ同然、普通の労働者は皆別荘を持っており、非常に豊かな生活をしている」と書いた。日本の当時の主流メディアであった岩波新書などからも、このような内容のソ連社会主義礼賛の書が幾つも出ていた。

 その後、1970年代以降、社会主義計画経済の行き詰まりが次第に誰の目にも明確になり、1991年のソ連邦の崩壊によって、社会主義、共産主義に対する幻想は決定的に消滅した。社会主義計画経済、共産主義のみじめな大失敗の根本原因は、人間性と社会に対する洞察力が決定的に浅かったということだろう。

 もちろん、社会主義計画経済よりも優れていることが、言わば「歴史的に証明された」市場経済も完璧からは程遠く、現在も多くの先進諸国では、言わば補完処置として、社会保障制度や税の再分配などの形で社会主義的な政策が取り入れられているが、あくまで市場メカ二ズムが主であり、社会主義的な方策は従にすきない。

 この社会主義計画経済と市場経済の評価の歴史的変遷は、今後の再生可能エネルギーと、化石燃料、あるいは原子力などの在来型エネルギー源の評価の変遷を占うのに非常に適していると考えられる。その理由は、一部にある再生可能エネルギーに対する過度の期待が、エネルギー源の歴史と原理に関する深い洞察を決定的に欠いているからである。

 洞察力が不足したユートピア幻想が、いかに酷い結果を現実にもたらしたかは、社会主義、共産主義以外にも、世界の歴史にも日本の歴史にも枚挙に遑がない。再生可能エネルギーに対する過度な期待、非現実的な幻想も、まかり間違えば同様に将来に悲劇を生む可能性が十分ある。

 もちろん、現代の先進諸国経済には、若干の社会主義的施策がビルトインされて、市場経済の毒の部分を一定程度は中和しているように、CO2削減目的などで、今後一定程度の再生可能エネルギーが導入されてくる積極的な意味は当然あるし、多分そうなるだろう。

 しかし、化石燃料・原子力という従来型エネルギー源との主従関係を、大きくひっくり返すことはできないし、またそうすべきではない明快な環境上、経済上の理由がある。

 

原理への軽視

 再生可能エネルギーは、薪炭などのバイオエネルギーや水車、風車、動力・交通用の牛馬など、太古から人類の歴史とともにずっと利用されてきたものであり、決して新しいものでも何でもなく、18世紀の産業革命以前は、人類は再生可能エネルギーに100%依存していた。この極めて基本的なことさえもわきまえていない素朴な議論が、これまでかなり横行していた。

 例えば、風力発電は、中世以来使用されてきた風車に発電機を取り付けて汎用性を高めただけのモノ、水力発電も同様に、古代からの水車に発電機を取り付けただけのモノである。量子論を応用した太陽光発電でさえも、地表面積当たりでエネルギー密度が非常に低い、フローの太陽光エネルギーを直接利用するという巨視的な意味において、同様にフローの太陽光エネルギーによる光合成を利用した太古からの薪炭利用の、効率と汎用性が若干高くなっただけのモノと言えなくもない。

 しかし、化石燃料を本格的に使用しはじめた産業革命の前は、再生可能エネルギーの原理的な供給量の限界、効率の限界によって、世界の人口、あるいは生活水準や平均寿命は、現在とは比べ物にならない程低かったし、それにもかかわらず、薪炭利用のための森林伐採を中心に自然環境は激しく毀損されて、17~18世紀の西欧も、古代・中世の中国も、江戸期の日本も、まさに砂漠化、国土崩壊の寸前だったのである。

 この極めて重大な歴史的事実が、ほとんど忘れ去られている。この砂漠化、国土荒廃による文明崩壊の危機、人口崩壊の危機を救ったのが、産業革命による石炭をはじめとした化石燃料の本格利用だったのである。驚くことに、いわゆる「環境派」と言われる人々の多くが、この最も基本的な環境史の事実を認識していないようだ。

 この人類史、環境史、エネルギー史の基本中の基本を忘れて、エネルギーや環境を論じることは、言わば天に唾する行為であり、自ら墓穴を掘る愚かな行為ということになりかねない。

 

 恐縮ながら、個人的で、かつ一見矛盾するようなことをあえて言わせていただくと、筆者はいわゆる「環境派」の一人である。むしろ筋金入りの環境派と言ってもいいだろう。東京という世界一の大都市圏の出身ながら、若い時から原生自然が大好きで、暇さえあれば、山歩き、キャンプ、ダイビング、釣り、山スキーなどにうつつをぬかし、日本や海外の野山や海を渉猟してきた。現在、執筆活動や講演などのための個人事務所の名前も、「エネルギー・環境問題研究所」と、あえて「環境」という2文字を入れている。若い頃から、都市圏も農山村、山奥、海岸も自然環境がどんどん壊され、縮小していくことを目の当たりにし、大きな危機感を抱いてきた。

 同時に原生自然の中で生活するには、いかにエネルギー源を確保すること、あるいはエネルギーを大量に使用してしか製造できない道具類が重要かということを、骨身に沁みて理解しているつもりだ。健全なる生態系の維持と、同時に安定した低廉で豊富なエネルギー供給が、いかに人類の生存と、文明・経済の存続に重要なのか、机上だけでなく、実感として理解しているつもりである。だから、3・11後に大流行している、このブラック・ユーモア的状況には大きな懸念を感じている。これが、本書『木材・石炭・シェールガス』を書いた主たる動機である。

 

<書籍紹介>

木材・石炭・シェールガス
文明史が語るエネルギーの未来

石井彰 著

歴史をひもとき、エネルギーの原理を考えれば、再生可能エネルギーが環境に悪いのは明らか。文明史からエネルギーの未来を読み解く。

 

 

 

 

<著者紹介>

石井 彰

(いしい・あきら)

エネルギー・環境問題研究所代表

1950年、東京都生まれ。エネルギー・アナリスト。エネルギー・環境問題研究所代表。2014年3月まで〔独〕石油天然ガス・金属鉱物資源機構上席研究員、早稲田大学非常勤講師。
上智大学卒業後、日本経済新聞社記者を経て、石油公団で資源開発に携わる。1989年からは石油・天然ガスを中心にエネルギーのの国際動向調査分析に従事。ハーバード大学国際問題研究所客員研究員、パリ事務所長などを歴任。現在、エネルギー・環境問題研究所代表。
著書に『エネルギー論争の盲点』(NHK出版新書)、『石油 もう一つの危機』(日経BP)など多数。



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