なぜ、サッカーW杯開催地は新興国が多いのか?
2014年06月12日 公開 2020年11月13日 更新
※本稿はサッカーマニア・ラボ著『[図解]ワールドカップで世界がわかる』より一部抜粋・編集したものです
W杯は新興国で開催せよ!
2014年6月12日から7月13日にかけて、ブラジルで20回目のサッカー・ワールドカップ(W杯)が開催される。前回2010年のW杯は南アフリカで開催された。
ブラジルの後には、招致争いでアメリカ、イングランド、日本に圧勝したロシアが2018年に、カタールが2022年に開催することが決まっている。さらに、2026年のW杯は中国が招致しようとしているとの報道もある。
つまり、W杯は4大会連続(中国が招致に成功すれば5大会連続)で、「新興国」での開催となる。W杯を主催する国際サッカー連盟(FIFA)は、経済不振の続く先進国よりも、高成長の期待できる新興国の市場に惹かれているようだ。
そもそも新興国とは、急速に経済成長している国を指す。ブラジル、ロシア、インド、中国が代表的な新興国とされ、この4カ国はそれぞれの頭文字をとって「BRICS(ブリックス)」と呼ばれている。
4カ国は国が成長する条件である国土・資源・労働力の豊かさをすべて満たしており、潜在的な経済力が極めて高いと評価されている。
南アフリカはアフリカ屈指の経済大国で、「VISTA」(ベトナム、インドネシア、南アフリカ、トルコ、アルゼンチンの頭文字から命名)と呼ばれる新興国のグループに属する。
カタールは中東のペルシャ湾に面した産油国で、「MENA」(アラブ首長国連邦(UAE)、エジプト、サウジアラビア、バーレーン、モロッコなど)と呼ばれる新興国のグループに属している。
こうした新興国にとってW杯やオリンピックのようなビッグイベントの招致は、さらなる経済発展への起爆剤となる。
たとえば日本が1964年に東京オリンピックを開催したときには、それを機に新幹線や首都高速などのインフラが整備され、1960年代半ばからの高度経済成長へとつながった。
2014年のW杯、さらに2016年の夏季オリンピックを控えるブラジルでも、スタジアム建設や交通機関の整備などに約100兆円もの金額が投じられている。HSBC投信が発表したデータによると、その投資がもたらす直接的な経済効果は1.8兆円、波及効果まで含めると5.2兆円にのぼるという。
世界が知ったブラジル社会の現実
しかし、新興国はそれぞれ課題を抱えており、決して万事快調というわけではない。場合によっては、W杯を開催できなくなる事態に陥るかもしれないのだ。
ブラジルの場合、格差の問題が大きく立ちはだかっている。確かに、ブラジルは2000年代以降、著しい経済成長を果たし、国民の平均所得は上昇、失業率も低下した。しかし、庶民が利用する公共交通機関や医療サービス、教育などの質が充実しているとはいえず、政治の汚職も頻発している。
これらの改善を求めるブラジルの人々は2013年6月、コンフェデレーションズカップ(プレW抔)期間中にデモを実施。開幕戦となったブラジル対日本の試合前、スタジアムでルセフ大統領が挨拶した際には、地元の観衆の多くがブーイングを行った。W杯に巨額の投資をするよりも、国民の生活環境の改善のために投資すべきだというのだ。
やがてデモはサンパウロ、リオデジャネイロ、ベロオリゾンテといった主要都市にも拡大し、最終的には80都市以上で約140万人が参加する全国規模のデモヘと発展。コンフェデ杯を観戦した世界中の人々が、ブラジル社会の現状を知ることとなった。
ブラジルの次にW杯を開催するロシアは、2014年冬にソチオリンピックを成功させ、大国のプライドを見せつけたが、経済の停滞に手を焼いている。ロシア経済は石油や天然ガスといった資源への依存度が高すぎ、工業は国際競争力がない。したがって、資源価格が下がればロシア経済は一気に傾いてしまう。
カタールは移民に過酷な労働条件を強いていることが問題視されており、中国は「奇跡」といわれた経済成長に陰りが見えはじめている。
新興国が大きなポテンシャルをもっていることは間違いない。だが、過度な成長期待はもはやできないというのが現実になりつつある。今後、FIFAは新興国を優先するような形でW杯の開催地を選定したことを後悔することになるかもしれない。