《『THE21』2014年7月号より》
「脳番地」の考え方と脳を鍛えるメソッド
「地頭のよさ」というのは先天的なものに思われがちだ。
だが、ベストセラー『脳の強化書』の著者でもある医学博士の加藤俊徳氏は、「何歳になっても、脳を鍛えることは可能だ」と主張する。
さらに、単なる「脳トレ」ではなく、目的に応じた能力を活性化することが大事だという。
そのために重要となる「脳番地」の考え方と、脳を鍛えるための具体的なメソッドを教わった。
<取材・構成:前田はるみ>
「同時並行」で仕事を進めることができるか?
「地頭のいい人」は生まれつき、と考える人は多いと思います。ですが、頭のよさとはあくまで後天的なものだと私は考えています。
また、脳細胞は胎児期から赤ちゃんの時期が最も多く、その後、年齢を重ねるにつれて減少していくことから、「歳をとるにつれて脳は衰えていく一方だ」と一般的には考えられていますが、これも誤解です。確かに脳細胞は歳とともに減少しますが、成人後も、脳内には未熟な細胞が豊富にあります。アミノ酸などの身体にとっての栄養成分が供給され続ける限り、脳の未熟な細胞は死ぬまで成長し続けるのです。
もっとも、いくら成長するエネルギーが備わっているとはいえ、何もしないままではいずれ脳が衰えていくのも事実です。「歳をとると忘れっぽくなる」とよく言われますが、これは歳をとるから記憶力が低下するのではなく、年齢を重ねることで新しいことを覚える必要性が低下し、その結果、頭を使わなくなるから、記憶力が低下するのです。つまり、脳を成長させるためには、脳を常に働かせる必要があるのです。いろいろな人と交流したり、新しいことにチャレンジしたりして、脳にできるだけ多くの刺激を与えることが大切です。
自分の脳が衰えていないかどうかを知る、1つのバロメーターがあります。それは、同時に3つ以上のことを並行して行なう「同時処理」ができるかどうか。たとえば、企画書の作成と次の会議の準備、そしてメールチェックを同時に行なう。あるいは、進捗状況の違う3つ以上のプロジェクトを同時に進める、といったことです。
最近の若いビジネスマンはこの「同時並行」が苦手な人が多いように思います。おそらく、受験勉強の弊害もあるでしょう。受験では数ある脳の機能のうち「暗記」の機能ばかりを使うので、脳のその他の部分をうまく使えなくなる恐れがあるのです。また、試験では「国語」→「数学」→「物理」と1科目ずつこなしていけばいいのですが、現実には1つの作業を終えたら次の作業、というように順番に仕事が入ることなど、ほぼありません。そうである以上、できれば早いうちから、同時処理を意識して仕事をすべきです。
私も若い頃は、5~6個の論文を同時に書くなどの同時処理を実践していました。あえて複数の仕事を同時にこなすことで、同時並行で脳を使う能力は磨かれていきます。
「脳番地」の概念を用いて自分の脳の癖を知る
ただ、やみくもに「脳トレ」をすればいいというものではありません。人それぞれ個性があるように、脳にも個性があり、その個性に合った鍛え方をする必要があるのです。そこで私が提唱しているのが、「脳番地」という概念です。
脳には1000億個を超える神経細胞が存在しており、このうち同じような機能を持つ細胞同士が集まって集団を構成しています。つまり、場所ごとに機能が決まっているのです。思考に関わる場所はA地点、記憶に関わる場所はB地点……といった具合です。こうして、脳を1枚の地図に見立て、機能ごとに番地を割り振ったものが「脳番地」です。脳には全部で120の脳番地が存在しますが、機能別に分類すると、大きく次の8系統に分けられます。
(1)思考系脳番地……考えるときに深く関係する脳番地
(2)感情系脳番地……喜怒哀楽など感情表現に関与する脳番地
(3)伝達系脳番地……意思疎通するのに関与する脳番地
(4)理解系脳番地……情報を理解し、将来に役立てる脳番地
(5)運動系脳番地……身体を動かすこと全般に関係する脳番地
(6)聴覚系脳番地……耳で聴いたことを脳に集約させる脳番地
(7)視覚系脳番地……目で見たことを脳に集約させる脳番地
(8)記憶系脳番地……情報を蓄積し、それを使いこなす脳番地
脳番地ごとの脳の機能を明らかにすることで、鍛えたい脳番地を意識的に鍛える。これが私の提唱する「正しい脳の鍛え方」です。
具体的な鍛え方については後述しますが、まず自分はどの脳番地をとくに鍛える必要があるのかを知る必要があります。たとえば、電話営業は苦手だけれども、直接面会すればうまく話せるという人は多いでしょう。これは、目からの情報収集を担う「視覚系脳番地」や相手に物事を伝える「伝達系脳番地」は十分強いのに、聞く役割を担う「聴覚系脳番地」が弱いため、声だけではうまくコミュニケーションを取れない、という可能性が考えられます。聴覚系脳番地を意識して鍛えれば、電話営業も対面営業もこなせる営業マンになれるでしょう。
このように普段の仕事ぶりを振り返り、自分はどこが弱いかを探ってみてください。
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