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茂木健一郎 脳の働きを変える一番いい方法は、「感動する」ことです

2013年05月14日 公開

茂木健一郎(脳科学者)

PHP文庫『脳が変わる生き方』より

 

変わるための最高の方法は「感動」

 自分の脳の働きを変える一番いい方法は、「感動する」ということです。感動することほど、人を変えることはありません。逆に言うと感動は、人間を変えてしまう「劇薬」です。

 今までの人生を振り返ってみてください。何に感動したかで、おそらく、その人の人生は決まっていると、私は思います。それぐらい感動というのは、根深い。

 ライアル・ワトソンという動物行動学者がいます。世界各地へ出かけていって、その自然や文化を見て、美しい文章に表現した人です。そのライアル・ワトソンがまだ若かった頃に、インドネシアのある島に行って、夜、ボートで海に漕ぎ出した。すると、海の底のほうから、1つまた1つと小さな明かりが上がってきて、気づいたら、そのボートが光で取り囲まれていました。

 イカが発光しながら、集まってきたのです。ボートがゆらめくと、イカたちの光もゆらめいて、ボートの端をたたくと、その光も一緒に振動するようにヴァーン、ヴァーンと動く。その感動的な体験が、ワトソンの人生を決定づけました。

 ワトソンはそのとき、考えた。イカたちは非常に精巧な眼球を持っていて、この眼球は、イカのあの貧弱な中枢神経系では処理しきれないくらいの情報を扱っている。ではなぜ、イカはこんな精巧な眼球を持っているのか。

 ワトソンはそこで、イカは自分のためではなく、何かもっと大きなもののために世界を見ているのに違いない、という直観を得る。その体験が、後の『水の惑星』や『風の博物誌』などの、一連の仕事につながっていきました。

 そのときのワトソンの感動を、想像してみてください。そういうときに、「あれはイカだ」とか「ルシフェリン・ルシフェラーゼで光っている」とか、つまらない分析をして片付けてしまう人だったら、あれだけのメッセージは得られないでしょう。ワトソンは、何かを見てしまった。こういうものを見たときに、何を感じるかで、その人の人生は決まるのです。

 もう1つ例を挙げると、生命を人工的につくろうという「人工生命」という分野があります。そのパイオニアになった、クリストファー・ラングトンという人の話です。

 ラングトンがある夜、1人で研究室で仕事をしていたら、フッと後ろに誰かがいる気配がして、「何だろう」と思って振り返ってみました。しかし、そこにあったのは、コンピュータのスクリーンに、白と黒がシミュレーション・パターンで点滅する。ライフゲームだった。普通の人だったら、「なんだ、ライフゲームか……」と思うだけでしょう。しかしラングトンは、「このライフゲームは、確かに生きている!」という、強い直観を得たのです。それが、人工生命という研究分野が立ち上がる、決定的なきっかけとなりました。

 あるいは、近代日本を代表する文芸評論家の小林秀雄さん。小林さんは、戦後すぐにお母さんが亡くなって、そのことが日本が戦争に負けたことよりも、自分にとってはずっと大きな出来事だった、と書いています。

 ある日、鎌倉の扇ヶ谷というところを歩いていました。お母さんの仏壇に灯すロウソクが切れたのに気づいて、買いに出かけたのです。

 歩いていると、ずいぶん大ぶりの蛍が、1匹飛んでいる。そのとき唐突に、「ああ、おっかさんは今、蛍になっている」と思う。

 それが、アンリ・ベルクソンという哲学者を論じた未完の作品、『感想』の冒頭に書かれていることです。このようなとき、ただ「ああ、蛍ね……」と思う人もいる。あるいは「おっかさんの魂が蛍になっているなんていうのは、迷信だ」と嗤う人もいる。しかし、それを見た小林さんが深く感動したという、そのことがやはり大事なのです。

 感動できるという能力、つまり自分が楽器だとすると、その楽器をどれくらい大きく鳴らせるか――人と会って大切な話をしているとき、あるいは、何か心動かされる物事と向き合っているとき、人生の大事な局面に佇んでいるとき、自分という楽器をどのくらい大きな音で鳴らせるか――、そのことで、人間の器は決まるのです。

 小さくしか鳴らせない人は、小さな人になってしまうのです。大きく共鳴できる人は、大きな人になるのです。

 

心が揺れ動くときは、アクセルを踏む

 脳の中には、100種類の神経伝達物質があります。ドーパミン、グルタミン酸、ギャバ、ベータエンドルフン、セロトニン――、いろいろな神経伝達物質があって、われわれの脳の中で、その化学物質が、いわばシンフォニーを奏でています。感動する、大きく楽器を鳴らすということは、その化学物質がザワザワザワーッと脳の中の1000億の神経細胞の間を、走り回っているような状態です。

 そのとき、われわれの脳は変化する。その神経伝達物質は、脳が自分で分泌する化学物質であり、外から入ってくるものではありません。したがって、どういう化学物質が、どういうタイミングで分泌されるかは、体験している現象に対して、われわれがどれくらい脳を共鳴させているかによって、変わってきます。

 さきほどの小林秀雄さんが、講演で「君子欺くべし」ということについて語っています。小人は、いつも「騙されまい」とビクビク身構えているから、そう簡単には騙されない。でも、君子はコロッと騙されるものだというのです。本当にそうだと思います。しかし、ずっと騙されっぱなしということではありません。それでは愚かですから。1度は騙される、ということです。

 少し補足しますと、人間にとって「恒常性」は、たいへん大事です。脳の機能の中でもっとも大事なものを1つ挙げろと言われたら、いろいろなものが挙がるでしょうが、その中に恒常性が入るのは間違いありません。

 感動するということは、自分がよろめいて、揺るがされているということ。涙が出るということは、処理できないくらい多量の情報を、脳が受け取って、オーバーフローすること。どうしようもないことを、なんとか処理しようとしている結果です。

 涙は産出物ですから、脳が、何かを外に出している。情動系が、感情が、あまりにも巨大なものを受け取ってしまったがために、どうすることもできなくて、涙が出る。そのことで、なんとか恒常性が維持される。

 ですから、小林秀雄さんにしても、ライアル・ワトソンにしても、とてつもなく恒常性の強い人、言い換えれば、強い芯がある人です。だからこそ、1つひとつの局面では揺れることができる。ですから、揺れ動くときには、思いっ切り揺れ動かないとだめなのです。アクセルを踏みつ放しにしないと、脳が本当には変化できないのです。

 朝日新聞の日曜版に、「ホタルの木」という記事が出ていました。

 インドネシアなどで、無数の蛍が集まる木があるそうです。その蛍の木は、どこにでもあるわけではなく、気象や月齢など、さまざまな条件がうまく一致したときに蛍が集まってきて、何十万匹、何百万匹が一斉に光る。

 その1、2週間後ぐらいの朝日新聞に、また「ホタルの木」の話が出ていました。どういう話かというと、戦争中、南方戦線に送られた日本の兵士の方々が、たいへんな苦労をされた。その方々が、蛍の木を見たのです。

 でもそのときは、何か意味がわからなかった。光っている木が確かにあるのだけれども、自分たちは、明日をも知れぬ命です。そういうときに、木が光っているのを見て、あれは何なのだろう、とずっと不思議に思ってきた。

 戦後60年以上が過ぎましたが、その記事ではじめて、60年以上前に見た、光る木が何だったのかがわかったという手紙が新聞社に送られてきて、掲載されたのです。

 私は感動して、心の底で、何かが動く気がしました。そういうときに冷めた反応をする人はだめです。私もいろいろな人を観察してきましたが、そういう人は、自分の中に何かとても弱いものがある、あるいは、何か自分を守ろうとしている人が多いように思います。

 強い人ほど表面は柔らかく、揺れ動くことができる。そして、そういう人のほうが得をします。なぜなら、それだけ、自分を変えるきっかけがあるからです。芯が弱い人は、表面をガチガチに固めて、それを守ろうとしてしまう。せっかく変わることができるチャンスがあるのに、それを逃してしまうのですから、実にもったいないことだと思います。

 変わるためにどうしても必要なことは、自分の心を開くこと、そしてなるべく恐れをなくして、その状況の中に飛び込むことです。


<書籍紹介>

脳が変わる生き方

茂木健一郎 著 
本体価格 571円

脳が変わるために、一番大切なことは「自分はこうだと決めつけないこと」。どんな環境でも、何歳になっても、人は変わることができる!



著者紹介

茂木健一郎(もぎけんいちろう)

脳科学者

脳科学者。ソニーコンピューターサイエンス研究所シニアリサーチャー、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特別研究教授。
1962年、東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職。
主な著者に『脳とクオリア』(日経サイエンス社)、『脳内現象』(NHKブックス)、『脳と仮想』(新潮社)、『「脳」整理法』(ちくま新書)、『脳を活かす勉強法』(PHP研究所)、『脳と創造性』『脳が変わる生き方』(以上、PHPエディターズ・グループ)などがある。

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