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「ザクとうふ」の相模屋食料、急成長の秘密

2014年10月14日 公開

鳥越淳司(相模屋食料〔株〕代表取締役社長)

《『「ザクとうふ」の哲学』より》

 

常識をアップデートせよ

 私はたまに「常識のアップデート」という作業を行ないます。

 子どもの頃から成長期にかけ、「あれ、いつのまにかできるようになってる!?」ということはありませんでしたか? たとえば「ずっと手が届かなかったタンスの引き出しがあけられるようになった」などです。だれにでも、経験があることだと思います。

 これと同じことが、「おとうふでも起きている」、いや、「仕事でも起きている」のです。

 以前、「充填の絹とうふの3個パックはあっても、木綿とうふの3個パックはない」とお話ししたと思います。業界では「絶対不可能」とされていて、私も第3工場稼働前までは「まあ無理だろうな」と思っていました。

 もう一度、詳しくご説明しましょう。充填の絹は、比較的簡単につくれます。パックに豆乳と凝固剤を注ぎ、密封したあと、熱して固めるだけ。切ったり、ひっくり返したりする手間がなく、機械任せにできます。だから小さなパックに入れてもそれほど手間はかからず、3個パックにしてもそれほど値段を上げずにすみます。

 昭和の時代に、弊社に「10円とうふ戦争」を挑んできた企業があったことは先述しましたが、ここのおとうふも「充填の絹」でした。手間がかからない。しかも豆乳の濃度を薄くすることもできたので、味を落とせば「とことん安く」というニーズにはこたえられたのです。

 それでも、弊社は味を落とさず、この競争に勝ちました。しかし技術革新が進むと、この充填の絹もおいしくなってきて、今に至ります。そんなわけで充填の絹は、安くつくろうとすればつくることができるのです。

 しかし、木綿とうふは、豆乳に凝固剤を加えて一度固めたものをくずし、圧力をかけて木綿で水分をしぼり、再び固めなければなりません。充填の絹のように固めて終わりであれば機械でつくれます。しかし木綿は、手間がかかるのです。だから、もし木綿の3個パックをつくるなら、単純に手間が3倍に増え、人件費で値段が高くなってしまいます。いや、実際は手間が3倍では収まりません。3個パックのおとうふは小さいため、手作業ではつくりにくいのです。

 でも、お客さんにしてみれば、木綿も絹も関係ない。仮にスーパーの棚に、98円で、賞味期限が残り14日ある絹の3個パックがおいてあって、その隣に248円で消費期限が4日しかない木綿3個パックがあったとしましょう。お客様は、その木綿を絶対、手に取ってくださらないと思います。

 だから、おとうふ業界には「木綿の3個パックはどこもつくれない」というあきらめがあったのです。もちろん、できればヒットするに決まっていました。個食化(家族ばらばらの食事)が進む時代、商品は小分けになる傾向があるからです。

 でも、私を含む誰もがチャレンジせず、また、ほしいとおっしゃる小売店さんもいませんでした。

 しかし、たまに私の習慣である「常識のアップデート」をすると、変化に気づくことができるのです。過去にできなかったことが、今後もずっとできないわけではありません。だから私は「そんなのムリムリ」と検討すらされなかったことが、いま、できるようになっているのではないか、とたまに自動車に乗っている時間などを使い、頭の中を整理します。

 

なぜ、「木綿とうふの3個パック」に注文が殺到したのか

 この結果、圧倒的な売れ行きを誇る定番商品が生まれました。それが「木綿3個パック」。

 理由は単純です。弊社はおとうふをつくる工程からパック詰めに至るまですべて機械化していたので、木綿とうふの3個パックも、絹の充填とうふとさして変わらない手間でつくることができるのです。

 私は、お客様とお酒を飲んでいるときに、この構造を思いつきました。思い至った瞬間、「これは確実に売れる!」という確信がありました。こういうものは、はやくやらなければいけません。その日のうちに「つくるよ!」と社内でプロジェクトを立ち上げました。その後、新たなパックを開発し、新たにおとうふを小さく切れるラインをつくり、「なめらか木綿3個パック」は着想から発売まで、わずか1カ月半という短期間で実現しました。発売すると、すぐに注文が殺到しました。当然の結果です。ほかにつくれるところはないのですから。

 この商品のヒットのあと、私は逆に「なぜ、こんな簡単なことになかなか気づかなかったのだろう?」と考えました。いろいろと考えた結果、原因はやはり「常識の壁」とでも呼ぶべきものでした。小売店のバイヤーさんたちも、木綿の3個パックがあればいいと思ってはいても「できない」と知っていました。私たちおとうふのメーカーの間にも「やってみよう」という雰囲気はまったくありませんでした。

 しかし、事業環境が変われば、この「常識」もまた変化するべきものなのです。

 ようするに、「変化は、別の変化を招く」のでしょう。この単純な事実を忘れてはなりません。

 生産工程が変われば、それは次なる進化をもたらすはずだったのです。思えば、簡略化することも同じ。何か常識を変えれば、ほかのことでも作業工程を省略できるのではないか。もっと売れるものがつくれるようになるのではないか。そんなことを、週に1度、いや、月に1度でも、通勤時間などに意識するだけで、ふと気づく瞬間があるのです。

 だからこそ、私は考えてみたい。すると、新しい発見がある。しかも、業界で一番早く進化に気づくことができれば、競合はいません。それが営業にどれだけ有利なことか!

 時代は確実に変わっていきます。そして、「変化によって自分ができるようになること」や「変化によって求められること」は必ずあるのです。それは、生産ラインの陰にかくれ、ファイルの棚の奥にたたずみ、賢い誰かに発見される瞬間をじっと待っているのだと思います。

 ちなみに弊社は、その後、3個パックの中身を木綿1、絹2に変え、「木綿vs絹3個パック」という商品を出しました。煮物でも、冷や奴でも、食べ比べしてみたいときがあると思います。また、同じ家族でも「私は絹が好き」「オレは木綿だ」という場合に便利だと思いませんか? SKU(ストック・キーピング・ユニット:簡単に言えば品数のようなもの、増えれば管理コストが上がる)を増やすことにはつながると思いましたが、家族で仲良く、というコンセプトに合ったのでつくってみました。これも「木綿3個パックがつくれるようになった」という変化から生まれた商品といえるでしょう。

 

<書籍紹介>

「ザクとうふ」の哲学
相模屋食料はいかにして業界No.1となったか

鳥越淳司 著/夏目幸明 構成

あの「ザクとうふ」を開発し、超成熟産業に一石を投じた相模屋食料。6年間で売上4倍と進撃を続ける業界No.1企業の秘密に迫る。

 


著者紹介

鳥越淳司(とりごえ・じゅんじ)

相模屋食料社長

1973年、京都府生まれ。1996年、早稲田大学商学部卒業後、雪印乳業へ入社。2002年に相模屋食料に入社し、2007年、代表取締役社長に就任。2011年、「焼いておいしい絹厚揚げ」が食品ヒット大賞優秀ヒット賞(日本食糧新聞社制定)を受賞。2012年に発売を開始した「Gとうふ」シリーズが累計出荷数320万個を記録。

夏目幸明(なつめ・ゆきあき)

ジャーナリスト

1972年、愛知県生まれ。早稲田大学卒業後、広告代理店に入社。その後、雑誌記者に。小学館『DIME』の「ヒット商品開発秘話 UN.DON.COM」や講談社『週刊現代』の「社長の風景」などを連載。
著書に『ニッポン「もの物語」』(講談社)『大停電(ブラックアウト)を回避せよ!』(PHP研究所)などがある。

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