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会社法・2014年改正のポイント

小林英明(弁護士)

2014年10月27日 公開 2022年08月08日 更新

 

■2014年の会社法改正のポイント 

 会社法は、2014(平成26)年6月に大きな改正がなされました。そのポイントは次のとおりです。

【1】多重株主代表訴訟制度の導入

 最終完全親会社等の株主が、子会社の取締役に対して株主代表訴訟を提訴できることになりました。

<多重株主代表訴訟>

 株主代表訴訟は、当該会社の株主のみが提訴できるのが原則ですが、2014年の会社法改正によって、親会社の株主は子会社の取締役に対しても株主代表訴訟ができることとなりました(多重株主代表訴訟)

 しかし、すべての親会社の株主が多重株主代表訴訟を提起できるわけではなく、次の場合のみ可能です。

〈1〉最終完全親会社等の株主である

〈2〉最終完全親会社等の総株主の議決権(または発行済株式)の100分の1 以上を有する

〈3〉最終完全親会社等が公開会社の場合は、6カ月前から引き続き②の要件を満たす

〈4〉最終完全親会社等が有する当該子会社の株式の帳簿価額が、最終完全親会社等の総資産額の5分の1を超えている

 特に〈4〉の要件があることで、大きい事業会社を子会社にもつ持株会社の株主などに限定されそうです。

 

【2】監査等委員会設置会社の創設

 監査等委員である取締役に監査・監督に関する特別な力をもたせた会社で、監査役設置会社と指名委員会等設置会社(これまでの委員会設置会社)の中間型の会社といえます。

<監査等委員会設置会社>

 2014年の会社法改正により、監査等委員会設置会社が創設されました。これは、指名委員会等設置会社の機能の一部を取り入れたもので、監査役を廃止したうえで、他の取締役とは区別して選出された取締役(監査等委員となる取締役) 3 人以上で構成する監査等委員会に、取締役等の職務の執行の監査、監督について強い権限を与える制度です。

 会社法改正のたびに、代表取締役や取締役による不正行為をどのように防止するかが議論されますが、社外取締役の機能を活用しようとする方向と、監査役の機能を実効性のあるものにしようとする方向があります。監査等委員会設置会社の場合、同委員会を構成する取締役の過半数は社外取締役でなければいけないとされ、社外取締役の機能を活用する方向にある制度ともいえます。

 

【3】第三者割当増資についての制限

 既存の株主の持ち株比率を、一定程度維持するための規定です。

<既存株主の持分割合>

 株主が会社に対して影響力を与える力の源泉ともいうべきものは、その会社の全株式のうち、何%の株式を所有しているかという持ち株比率です。

 その比率を会社(取締役会)の意向で容易に変更できてしまうのでは、取締役の力が強大になり、株主の利益がないがしろにされかねません。

 その弊害が指摘され、2014年の会社法改正では、公開会社が、取締役会の決定で、第三者割当増資を行い、支配株主の異動を伴う場合には、割当を受けた人の情報を株主に通知する義務が課せられ、それを受け、総株主の議決権の10%以上の株主が当該増資に反対する旨の通知をしたときは、株主総会決議の承認が必要とされました。

 これにより、既存の株主の立場は以前より守られることになったとはいえますが、それでも、会社の意向で持ち株比率を下げられる場合があることに変わりはありません。

 

【4】代表訴訟における責任限定の強化

 株主代表訴訟の対象となる役員に、過大な責任が及ぶのを防ごうとするものです。

<責任の軽減>

 株主代表訴訟制度によって多額の請求をされるケースが多くなり、役員の会社に対する責任を軽減する制度が作られていましたが、2014年の会社法改正でそれが強化されました。これにより、損害賠償の上限を代表取締役、代表執行役は「報酬の6年分」、業務執行取締役、代表執行役以外の執行役等は「報酬の4年分」、業務執行権のない取締役、監査役、会計監査人等は「報酬の2年分」とすることができます。

 この軽減を行うには以下の3つの方法があります。このような手続をとっても、役員に故意または重大な過失があったときには、責任軽減は認められません。

1〉株主総会の特別決議で、その旨を決議する

〈2〉定款にその旨を規定し、取締役会決議をする
 ( 総株主の議決権の3 %以上を有する株主から異議を申立てられたら、株主総会の特別決議が必要)

〈3〉定款にその旨を規定し、責任限定契約を締結する
 ( 業務執行権のない取締役、監査役、会計監査人等が対象)

 

【5】社外取締役の要件の強化

 社外取締役の独立性を高めるためのものです。

<社外取締役1>

 社外取締役は従来、過去から現在まで当該会社(またはその子会社)の業務執行取締役や従業員等になったことがない取締役のことをいいましたが、2014年の会社法改正により、「その就任前10年間、当該会社(またはその子会社)の業務執行取締役等でなかったこと」と要件が一部緩和された一方、「親会社の取締役、従業員等でないこと、兄弟会社の業務執行取締役等でないこと、当該会社の取締役、幹部従業員等の配偶者、2親等内の親族でないこと等」と要件が加重されました。より社外取締役の独立性を高めようとしているのです。

 

【6】債務超過会社の会社分割の禁止
     

【7】その他

 「社外取締役の義務化」は見送られましたが、その採用を促す規定が定められました。

<社外取締役2>

 今般の改正では、社外取締役の義務化は採用されませんでしたが、上場会社等が社外取締役を置かない場合は、「社外取締役を置くことが相当でない理由」を事業報告に記載するほか、株主総会でも説明しなければならないとされました。そのため、今後、上場会社では、社外取締役の選任が進むものと思われます。

<著者紹介>

小林英明

(こばやし・ひであき)

弁護士、長島・大野・常松法律事務所パートナー

1954年、東京生まれ。司法試験合格後、早稲田大学法学部を卒業。東京地検検事などを経て弁護士となる。企業をめぐる複雑な民事・商事・刑事 事件などを多数扱い、コンプライアンス、危機対応、不祥事対応など企業に関する法律問題の処理にあたっている。

主な著書に、『詳説 不正調査の法律問題』(弘文堂)、『企業犯罪への対処法』(中央経済社)、『使用人兼務取締役』(商事法務研究会)、『取締役の法律』(ダイヤモンド社)、『「やってはいけない!」法律知識』『会社を不祥事から守る法律知識』(以上、PHP研究所)など多数。

 

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