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『Wonderful Story』―伊坂幸太郎ら人気作家が「犬」に変身!?

伊坂幸犬郎,犬崎梢.木下半犬,横関犬,貫井ドッグ郎

2014年11月11日 公開 2024年12月16日 更新

 

『Wonderful Story』
―人気作家が「犬」に扮した小説アンロソジー発刊!

伊坂幸太郎・大崎梢・木下半太・横関大・貫井徳郎――当代きっての人気作家5人が、「犬」にちなんだペンネームに改名(!?)して夢の競演。

犬をテーマにした5つの物語が紡ぎ出された……。

昔話でおなじみの犬もいれば(伊坂幸犬郎「イヌゲンソーゴ」)、地名の由来になった犬もいる(犬崎梢「海に吠える」)。

はたまた、悪者が連れてきた犬もいるし(木下半犬「バター好きのヘミングウェイ」)、人のために働く盲導犬や(横関犬「パピーウォーカー」)、やたらと見つめてくる犬も……(貫井ドッグ郎「犬は見ている」)。

個性豊かな犬たちが踊る、前代未聞の小説“ワンソロジーWonderful Story(表紙装画/堀口一)。

この本は、どのようにして生まれたのだろうか?

本企画の発起人、友清哲氏(フリーライター兼、編集者)の解説をご覧ください。

 

この本、発刊のいきさつ

 本書は熱心な読書家の皆さんや出版関係者の方々を、まずギョッとさせ、のちにクスリと笑ってもらいたい、そんな純粋なモチベーションから生まれた一冊となります。

 ここに名を連ねる作家の皆さんは、いずれも著名作家のそっくりさん─と言いたいところですが、白々しいことはやめましょう。よくぞこれほどのメンバーに、このような冗談めいた企画にお付き合いいただけたものだと、今更ながらに感激しております。

 今から3年ほど前に、『Happy  Box』というアンソロジーを編集させていただきました。こちらはお名前に「幸」の字がつく5人の作家に、「幸せ」をテーマとした作品を寄せていただいたもの。企画性からすれば、本書の前身と言ってもいいのかもしれません。

 今回の企画を思いついたのは、まさにこの『Happy Box』の編集作業をあらかた終えたタイミングでのことでした。

 知る人ぞ知る『ドラえもん』の“神回”に、のび太が自分の名前を誤って「野比犬」と書いてしまうシーンがあります。少年時代にケタケタと笑いながら読んでいたその一節が、時を経て、頭のどこかで熟成されていたのでしょう。これをアンソロジーでやったら面白いのではないか、と発想してしまった次第です。そうなれば、競作テーマはもちろん「犬」しかありません。

 さっそく、ものは試しで「犬」に変身できそうなお名前をリストアップ。あらためてチェックしてみると、「大」や「太」といった犬似の文字がお名前に含まれる作家は思いのほか多く、絵空事に思えた着想に、なんだか血が通いはじめたような感覚を覚えたものです。

 かくして、『Wonderful Story』のプロジェクトは幕を開けました。

 ……しかし、名のある作家の皆さんに、片っ端から「犬になってください」とお願いしてまわるのは、なかなか勇気のいる作業でもありました。

 人によっては「バカにしてんのか!」とひっぱたかれるかもしれないし、あるいは無言のまま絶交されてしまうかもしれない。それでも、企画してしまったからには、一縷の望みを懸けて行かねばなりません。

 時には会食のついでに。時には雑談のついでに。そして時にはインタビューのふりをして接触し(いや、ふりではないのですが)、次々にアタック。この企画を切り出された時の反応は、まさしく十人十色でした。

 伊坂幸太郎さんの第一声は、「あはは。それは僕、呼ばれなかったら寂しいなあ」という、感涙モノのあたたかなコメント。「言いましたね? もう逃がしませんよ!」と返す刀でがっちり押さえこむようなかたちで、作家・伊坂幸犬郎”の誕生が決定しました。

 個人的に、伊坂作品に見られる寓話調のテイストは、犬というモチーフと相性がいいようにも感じていました。企画の種を「あーでもない」「こーでもない」と揉み合うブレスト形式の創作法は、『Happy Box』でも経験済み。果たして、見事に寓話と融合した、ウィットに富んだ「イヌゲンソーゴ」ができあがりました。常に、読者に手の内がばれないよう配慮しながら、慎重にプロットを詰めていく幸犬郎さんの姿勢が、実に印象的です。

 つづいて、大崎梢さんに「こんな企画を考えているのですが」とおずおずと切り出した際には、わりと及び腰なリアクションをいただいたことが思い出されます。でもそれは、決して今回の企画に異論があるからではなくて、「私、すごく筆が遅いので、書けるかな……」という、謙虚で奥ゆかしい事情によるものでした。

 それでもしつこく食い下がるこちらの要求に折れていただき、無事に“作家・犬崎梢”が誕生。犬崎さんはわりと早い段階で「犬吠埼」という地名に着目され、現地へ取材に飛び出されました。その結果、「海に吠える」は、大崎さんの瑞々しい筆致が沍え渡り、犬吠埼界隈の情景がリアルに思い浮かぶ青春譚に仕上げられました。地名と少年と犬が巧みに機能し合うこの物語、読後の清涼感は本書のなかでも随一と言っていいでしょう。

 木下半太さんは、もともとご近所住まいの同い年とあって、今回のメンバーのなかでは最もフランクにお願いすることができました。そもそもが絵に描いたような関西人気質の木下さんですから、この手の企画にはきっと乗ってくれるはず。そう信じて、「よかったら今度、犬になってみませんか?」と水を向けると、即ご快諾。めでたく、“作家・木下半犬”の誕生です。

 『悪夢のエレベーター』に始まる「悪夢」シリーズや、映画化されたばかりの『サンブンノイチ』など、スリルとユーモアにあふれたエンターテインメントに定評のある半犬さん。犬というモチーフ以前に、今回のような悪ノリ企画は、間違いなく彼の土俵でしょう。美人妻の窮地を描いた「バター好きのヘミングウェイ」は、ページを繰る手を止めさせない木下メソッド全開の傑作です。

 横関大さんにいたっては、これまでに一面識もない編集者から突然、「横関犬さんとして仕事をお願いしたいのですが」などとのたまわれ、さぞ当惑されたことと思います。かの名門、江戸川乱歩賞出身の気鋭。犬にたとえれば血統書付きのようなもの。にもかかわらず、なんと無礼なファーストコンタクトなのかと自分でも呆れてしまいますが、幸い、クールな横関さんは不快感をあらわにすることなく、「以前から盲導犬に興味があり、すでに取材もしているんですよ」と答えてくださいました(本当は内心ムッとしておられるのではないかと、今でもちょっと不安です……)。

 とにもかくにも、“作家・横関犬”の手による「パピーウォーカー」は、あまり知られていない盲導犬の世界にアプローチ。巧みな構成もさることながら、犬に対する愛情をたっぷり感じさせてくれる、さすがのミステリーでございました。

 今回一番のベテラン作家である貫井徳郎さんは、企画趣旨をお聞きになった際、少しきょとんとされていたのが印象的です。

 「面白い企画ですね。でも、僕にどうしろと? 名前に犬なんて付けようがないですよ」

 「あの、ここはひとつ、貫井ドッグ郎先生と呼ばせていただきたく……」

 勇気をふり絞ったお願い事に、大笑いしながら「それはやらざるを得ない」と応じてくださった貫井さん。マジで怒られるのではないかとビクビクしていた僕は、ホッと胸をなでおろしたのでありました。晴れて、“作家・貫井ドッグ郎”の誕生です。

 「犬は見ている」は、貫井さんらしいキレ味を備えた、ミステリーというよりサスペンス。「大トリが僕でいいんでしょうか?」と笑っておられたドッグ郎先生ですが、そのキレッキレの読後感が、きっと多くの読者を本書の虜にしてくれたことでしょう。

 というわけで、錚々たる人気作家の皆さんを、犬扱いしてしまおうという大胆不敵かつ無礼千万なこの企画。

 失礼つかまつりながらも、完成してみれば過去に前例があるわけのない、とっておきの作品集に仕上がりました。これがただ奇をてらっただけの企画でないことは、5つの作品が証明してくれています。本書をお買い上げの皆様には、ぜひ5匹の犬の里親として、末永く可愛いがっていただきたいものです。

 そしてもし、この企画に第二弾があり得るのなら、今度はあのショートショートの神様、“ポチ新一”先生が遺された作品を拝借できたら……などというのは、ちょっと調子に乗りすぎでしょうか。

 ともあれ、皆様の読書タイムが最高にワンダフルなひとときとなることを願いつつ、筆を置かせていただきます。

 

『Wonderful Story』―「犬」に変身(!?)した著者

伊坂幸〈いさかこういぬたろう〉(伊坂幸太郎)
1971年、千葉県生まれ。東北大学法学部卒。2000年に『オーデュボンの祈り』で第5回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞してデビュー。04年に『アヒルと鴨のコインロッカー』で吉川英治文学新人賞、08年に『ゴールデンスランバー』で山本周五郎賞と本屋大賞をダブル受賞するなど、受賞歴多数。

崎 梢〈いぬさきこずえ〉(大崎 梢)
東京都生まれ。書店勤務を経て、2006年に『配達あかずきん』でデビュー。11年には『スノーフレーク』が映画化。他の作品に『平台がおまちかね』『プリティが多すぎる』『ふたつめの庭』『忘れ物が届きます』ほか多数。また編著書に『大崎梢リクエスト! 本屋さんのアンソロジー』がある。

木下半〈きのしたはんいぬ〉(木下半太)
1974年、大阪府生まれ。劇団主宰の傍ら、2006年に『悪夢のエレベーター』で小説家デビュー。以降、「悪夢シリーズで人気を博すほか、『サンブンノイチ』『美女と魔物のバッティングセンター』『ギザギザ家族』『宝探しトラジェディー』など多くの作品を発表。また、脚本家、俳優としても活動中。

横関 〈よこぜきいぬ〉(横関 大)
1975年、静岡県生まれ。武蔵大学人文学部卒。2010年に『再会』で第56回江戸川乱歩賞を受賞し、デビュー。他の作品に『グッバイ・ヒーロー』『チェインギャングは忘れない』『偽りのシスター』『沈黙のエール』がある。

貫井ドッグ〈ぬくいどっぐろう〉(貫井徳郎)
1968年、東京都生まれ。早稲田大学商学部卒。93年、第4回鮎川哲也賞最終候補作となった『慟哭』でデビュー。2010年、『乱反射』で第63回推理作家協会賞を、『後悔と真実の色』で第23回山本周五郎賞を受賞。主な作品に『失踪症候群』をはじめとする「症候群シリーズ」、『追憶のかけら』『新月譚』『私に似た人』ほか多数。

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