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子どもには「安全な」牛乳を飲ませたい

佐藤章夫(山梨医科大学名誉教授)

2015年01月16日 公開 2024年12月16日 更新

 《PHP新書『牛乳は子どもによくない』より》

 

牛乳は子どもによくない

 「なぜあなたは牛乳の悪口ばかり言うのか」としばしば難詰される。「何を飲もうと勝手であるが、牛乳は単なる飲み物ではない。ミルクという白い液体は小さく生まれた哺乳類の子どもを速く大きくするために母親が分泌する成長促進剤である。しかも、最近の牛乳は妊娠しているウシから搾られていて、女性ホルモンの含有量が多い。たとえ愉しみのために口にするにしてもできるだけ少量にすべき代物である。それなのに日本政府は、法律で児童・生徒に牛乳という特定の食品を強要してきた」と答えることにしている。

 文部省(現文部科学省)は1954年の学校給食法の制定から現在にいたるまで、給食の献立に牛乳を加えることを強制してきた(最近では牛乳を使わないとカルシウムの摂取基準に達しないという搦手を用いるようになった)。古今東西、一国の政府がこれほどまでに特定の食品にこだわったためしがあっただろうか。

 他の思惑もあったかもしれないが、牛乳飲用の法による強要は日本の将来を担う子どものためという純粋な動機で始まったと推察される。アメリカに完膚なきまでに叩きのめされた日本。「彼らはなんであんなに大きいのか。アメリカにあって日本にないものは何か。牛乳である。子どもに牛乳を飲ませよう」と役人が考えても不思議はない。勝者たるアメリカ人に対する畏れと憧れから、一般の日本人が進んで「パンと牛乳」を受け入れた側面もあった。

 学校給食で牛乳を強制するためにはそれなりの根拠を示さなければならない。強調されたのは「児童・生徒の体位の向上」であった。体位の意味するところは体格(とりわけ身長)である。「アメリカ人は牛乳を飲む。牛乳にはカルシウムが多い。アメリカ人のようになるにはカルシウムが必要だ。日本の子どもに牛乳を!」ということになった。

 牛乳を飲めばアメリカ人のようになれるのか。答えはNOである。最終身長は遺伝で決まっている。詳しくは本文で述べるが、どんな食事でも充分に食べれば遺伝の許す範囲で身長は伸びる。児童が成長促進剤を飲めば早く背丈が伸びるだろうが、その分早く伸びが止まってしまう。どんなにカルシウムを摂っても背丈が伸びないのは、設計図が平屋の建物にいくらセメントを運んでも2階建てにならないのと同じ理屈である。

 「骨粗鬆症にならない」も牛乳のセールスポイントであった。ほんとうに骨が丈夫になるのか。答えはNOである。牛乳消費量の少ない日本人の骨は欧米人の骨より脆いのか。答えはNOである。牛乳を飲むようになった現代日本人の骨は牛乳をほとんど口にしなかった戦前の日本人の骨に比べて丈夫なのか。答えはやはりNOである。

 食育基本法(2005年)に沿って学校給食法が改訂されても(2009年4月)、牛乳の強要は続いている。文部科学省は牛乳強制の事実を隠したがっているようだ。「牛乳」という単語は学校給食法にも学校給食法施行令にもない。登場するのは下位法令の学校給食法施行規則である(ただしミルクという言葉になっている)。施行規則によると、ミルクのつく給食のみが学校給食である。

 学校給食の目的が栄養から食育になった現在でも、文部科学省は依然として牛乳のない献立を学校給食として認めていない。文部科学省は2008年10月30日付けのスポーツ・青少年局長通達で、「学校給食においてカルシウムの供給源としての牛乳が毎日供給されていること」「学校給食がない日はカルシウム不足が顕著であり、カルシウム摂取に効果的である牛乳等についての使用に配慮すること」と念を入れている。

 学校給食法制定からすでに半世紀も経過した。純粋な動機で始まったものでも50年も経てば錆びる。もうそろそろ強制ではなく、飲みたい子どもだけが牛乳を飲むということにしてもよいのではないか。

 

 私が児童・生徒に対する牛乳の強制を止めよというのは、牛乳に背を伸ばす効果や骨粗鬆症を防ぐ効果がないからだけではない。牛乳は乳がんや前立腺がんの原因になる可能性が高いからである。

 乳腺と前立腺はよく似ている。ともに性ホルモン依存性の外分泌腺で、思春期に急速に分裂・増殖する。日本で今、女の乳がんと男の前立腺がんが急増している。国立がん研究センターのがん対策情報センターによると、1975年から2010年の35年間に乳がんという診断で治療を受けた女性は約4倍に、男性の前立腺がんはほぼ8倍にふえた。

 乳がんと前立腺がんは欧米の風土病である。厚生労働省のがん対策推進基本計画(2007年6月)には、両腫瘍の増加要因が「食生活の欧米化」という言葉でくくられている。食の欧米化とは日本人が牛乳を飲み、バターやチーズを食べるようになったことをいう(第1章のコラム、和食:日本人の伝統的な食文化〈48ページ〉)。食の欧米化が近年の乳がんと前立腺がんの急増の原因なら、予防の基本はバターの香りを遠ざけることにある。

 本書は「牛乳のカルシウム」「学校給食と牛乳」「牛乳と乳がん」を主題にして、「牛乳はそんなによいものではありません」という視点から書かれたものである。

 すべての乳製品に「この製品は妊娠している動物から搾ったミルクを使用していません」と表示されることを願っているが、少なくとも子どもには「妊娠していないウシから搾ったミルク」を飲ませたい。内容が内容なので言葉は少々きついが、批判的にお読みいただければ幸いである。

 

<著者紹介>

佐藤章夫(さとう・あきお)山梨医科大学名誉教授

1938年生まれ。1963年、信州大学医学部卒業。1982年、山梨医科大学教授。専門は予防医学。2002年、山梨医科大学名誉教授。
訳書に『牛乳と乳がん』(ジェイン・プラント著、径書房)、著書に『米と糖尿病』(径書房)などがある。


<書籍紹介>

牛乳は子どもによくない

佐藤章夫 著

本体価格 980円

牛乳には仔牛を成長させるためのホルモンが大量に含まれている。それを人間が飲んだ結果、乳がん患者が多数生まれた。衝撃の力作。

 

 

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