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予約が取れないレストラン「テツヤズ」の究極のサービス

2015年02月03日 公開

和久田哲也(レストラン「TETSUYA’S」オーナーシェフ)

 

難しいお客さまほど大事にする

 人が喜ぶことが自分の喜びになる。それがもてなしの基本だと思う。自分の喜びのためではなく、あくまで主役はお客さま。その意味では、対応に困るようなお客さまをうまくハンドリングするのも私たちの仕事である。

 お客さまも一様ではない。私たちがお迎えする方たちの中には、さまざまな国民性や風俗・習慣を有する方がいらっしゃる。紳士的な方ばかりではない。わがままな富裕層も多い。公共マナーを無視して大声で話し、他のお客さまの迷惑になるようなケースもある。

 「申し訳ありませんが、もう少しお声を落としてお話ししていただくことはできないでしょうか」

 それがふつうの接客なのかもしれないが、言い方やタイミングによっては言い争いになるかもしれない。最後はスタッフに当たる方もいらっしゃる。もしそこで対立したら、私たちの失敗である。私たちはどうやってお客さまを癒すことができるかを最優先に考えなければならない。

 私も鍛えられた。スタッフも日々鍛えられている。その場にいたら、いやでも学んでいく。私はスタッフたちにこう言ってきた。

 「難しいお客さまには、もっともっと大事にしてさしあげてほしい」

 対応に苦慮するお客さまほど対立することなく、一生懸命に尽くすのである。もっと優しく、もっと丁重に、もっときめ細かく。さらにもてなす、もっともてなす。相手が自分のことを恥ずかしく思うくらいに。

 店の料理やサービスに文句を言われたら、「では、もう一度チャンスをいただけますか」と招待して、今までにない最高のサービスでもてなす。そこで「すばらしい」と店を気に入っていただけるようにする。そんなふうに対応していけば、一番難しかったお客さまほど、最後は友人になったりする。

 もちろん、一概に言えることではない。すべてにおいてケースバイケース。ただ、相手を決してないがしろにしないことが、最後は最良の解決策になる。それは私の30年の経験から学んだことだ。

 それは「お客さまを選ばない」ということにもなる。料理人の中にはお客を選ぶ人もいる。そういう飲食店もある。ドレスコードはそのもっともわかりやすい例だが、たとえば自分たちのペースで料理を出す、制限時間を設ける、コミュニケーションを取らない……。

 日本では「頑固な職人気質の料理人」が尊敬される風潮があるが、いくら料理がおいしくても、私はそれをホスピタリティーとは呼ばない。最終的にはお客さまに好かれて成り立つ仕事である。それを芯から理解できるかどうかが、レストランが成功するかどうかを左右するのではないかと思う。

 それはお客さまに媚びることや迎合することではない。お客さまの立場に立って、喜ばれるサービスを提供し、それを自分も喜ぶということ。私はその喜びをお客さまに教わってきた。

 人をもてなすレストランは、お客さまがいて初めて成り立つパブリックな仕事だ。とくに私の場合、もともと生きる術を持ち合わせなかった人間だ。そんな人間に社会はチャンスを与えてくれた。それに対して何らかの形でお返しをしたいという気持ちはいつも持ってきた。私が年に1、2回行っているチャリティーは、その1つの機会でもある。

 シドニーで行ったチャリティーでは、オーストラリア出身の有名女優の自宅で20人に向けたディナーを提供した。彼女は最初のテツヤズのころからのお客さまだ。

 シンガポールはとても豊かな街だが、その割には福祉政策が充実しておらず、ハンディキャップがある人たちが生きていくには厳しい街でもある。寄付金も必要だが、チャリティーを通じてまずそういう人たちがいるという事実を知ってもらうことも大切だと思う。

<著者紹介>

和久田哲也

(わくだ・てつや)

オーストラリア「TETSUYA'S」、シンガポール「WAKU GHIN」オーナーシェフ

1959年、静岡県浜松市生まれ。22歳で来豪。1987年、シドニーにレストラン「TETSUYA'S」、2010年、シンガポールに「WAKU GHIN」をオープン。
洋と和を融合した独創的料理は世界から評価され、仏情報誌『クーリエ・アンテルナショナル』の「3大シェフ」、米タイム誌の「世界に最も影響のある100人」に選ばれる。20005年には、日本人で初めてオーストラリア勲章(OMA)を授与された。

<書籍紹介>

オーシャントラウトと塩昆布

和久田哲也 著

本体価格860円

皿洗いから世界のトップレストランに選ばれるまでになったTETSUYA'Sオーナー。今まで見つめてきた食文化と料理哲学を語り尽くす。

 

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