ローカルアベノミクスで地方は再生するのか〔2〕
2015年03月16日 公開 2024年12月16日 更新
《PHP新書『ネオアベノミクスの論点』より》
人口減少下でも経済成長は成し遂げられる
次に地方創生のもうひとつの課題である「人口減少」ですが、まず人口問題と活性化や経済成長は、切り分けて考えるべき課題だと私は考えます。
人口は基本的に、〔1〕量の問題、〔2〕効率化の問題、〔3〕質の問題があります。つまり、いまどれくらいの人数がいるか(量)、その人たちがどのように使われているのか(効率化)、その人たちの生産性はどうなのか(質)です。
まずは〔2〕から説明します。効率化とは生産性の低い企業や産業から、生産性の高い企業や産業へと人々が移動することです。効率性を上げるためには、基本的には規制の緩和が必要です。この分野で規制緩和というと、すぐに解雇規制の緩和に結びつきがちですが、実際にはこれは議論が錯綜しています。日本の場合、大企業と中小企業とで解雇規制の意味合いがまったく違うからです。解雇規制が問題になるのは、解雇対象者が裁判を行う場合ですが、中小企業の場合はそのような事例に至ることは極めてまれです。したがって、中小企業では解雇規制が強いとはいえず、解雇規制が強いという問題は大企業労働者が対象になってきます。また、解雇規制と生産性、あるいは失業率との関係は、さまざまな結果が出ていて、容易な結論が出ていない状況です。確実に言えることは、労働市場が過熱気味になって需給がタイトになると、労働者の移動は容易になるということです。
移動という点では、地域間の移動も大事です。これはむしろ都市への集住がカギとなるでしょう。この観点からは、移動を容易にすることが求められます。
〔3〕の質の問題は健康と教育の2つの側面が関連してきます。教育については、高等教育の拡充が必要とだけ述べておきます。健康の側面は、意外と忘れられがちですが、きわめて重要です。特に、不況下での緊縮財政が公衆衛生関連投資の削減に結びつくと、国民の健康状況が悪くなり、文字どおり死者が増えます(参考:スタックラー・デヴィッド、サンジェイ・バス『経済政策で人は死ぬか?』草思社)。成長の文脈では、健康の向上が人的資本の向上を生み出し成長をもたらすという考え方と、所得の向上が健康への支出を増やして健康状態を良くするという考え方があります。どちらの見方が正しいかは決着がついていませんが、経済成長と健康状態の向上とが好循環を形成していく仕組みが大切です。この点では、公衆衛生関連の支出をどう維持するかが課題になります。
最後に〔1〕の「量」、人口そのものを増やす方法です。少子化対策で出生率を上げることとともに、しきりに浮上してくるのは、移民受け入れで減少分を賄うという議論です。
このあたりの議論はさまざまな論点をはらんでいるため、注意深く検討しなければなりません。まず言えることは、経済成長率への人口増加率の貢献分は、それほど多くはないということです。
図3―5は、日本経済のいわゆる「実力」を指す「潜在成長率」について、各年代ごとに推計したものです。これを見るとたしかに潜在成長率は下がっていることがわかります。ただ、3点ほど注意点があります。
第1に、人口増加率の寄与分を見ると、ここまでは0.5%程度ということです。もっとも、これから人口減少が進むので、人口減少率は、0.8%程度にまでなります。ですから、人口増加率の寄与分はたしかにマイナスに働きます。
第2に、潜在成長率の計算は、これまでの実績値に依存します。要するに90年代の長期停滞を前提とすれば、潜在成長率は低く見積もられてしまうということです。第3に、図3―6にあるように、長期停滞のさなかでも前回の景気回復のように、2%成長を達成していた時期もあるし、リーマン・ショックの後のように、3%成長を達成していた時期もあります。日本経済の潜在力については、まだまだ悲観せずに、成長政策を考えるべきでしょう。
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