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山折哲雄、松下幸之助の『日本と日本人について』を読む

山折哲雄(宗教学者)

2015年06月19日 公開 2024年12月16日 更新

山折哲雄(宗教学者)

<<宗教学者の山折哲雄氏に、歴史、文化を軸とする「日本人論」と、本書が示唆する「現代の生き方」について語っていただいた。(取材・構成:森末祐二/写真撮影:清水 茂)>>

※本稿は『PHP松下幸之助塾』[第2特集:今、松下幸之助に学ぶこと]より抜粋したものです。
 

「衆知」「​主座」「和」3つの伝統精神に学ぶ

松下さんは、日本の伝統精神を「衆知を集める」「主座〈しゅざ〉を保つ」「和を貴ぶ」という3つの観点で論じておられます。いずれも皇室、とりわけ聖徳太子と深く関わりながら、日本人に浸透している精神です。

たとえば604(推古12)年に聖徳太子が定めた十七条憲法の第17条には、「物事は独断で行わず、必ず皆で論じ合い検討せよ」という意味のことが書かれています。

また1868(明治元)年、明治天皇が示した五箇条の御誓文にも、「広く会議を興し万機公論に決すべし」と謳われています。織田信長など、名将といわれる戦国武将たちも、軍議や評定を開いて家臣の意見を聞いていました。

このように「衆知を集める」というのは日本の伝統精神に深く根づいたことであると、松下さんは指摘しています。

「主座を保つ」という言葉は、「みずからの主体性を維持する」といい換えてもいいでしょう。たとえば日本では、外来の仏教や儒教を取り入れながら、古くからある神道とも共存し、あくまでも日本の主座、主体性を保ってきました。これもまた日本の伝統精神です。

「主座を保つ」ことの意味するところは、禅僧の法語を集めた『臨済録』の「随処に主となる」という教えに近いかもしれません。「どこにいても、いついかなる場合でも、主体性を持って行動し、力を尽くす」という意味で、松下さんの考えと共鳴する部分が多いと思います。

そして「和を貴ぶ」精神。これはまさに、十七条憲法の第1条「和を以て貴しと為す」という言葉に象徴されます。日本人の精神を表すもので、これほど有名な条文はないでしょう。

ただ、「和」は誤解されやすい言葉です。集団における和を重視し、構成員すべての意見を「調整」しようとするあまり、結局「微調整」しかできないということにもなる。そういう失敗例は多くの組織で見られます。

聖徳太子は、蘇我氏や物部氏が激しい権力闘争に明け暮れ、暗殺事件が続発する時代、旧体制を倒し変革を進める上で、和の精神を訴えたのだと私は思います。

イノベーションが必要なときに、「和だ」「調整だ」「仲よくしよう」などと言っていたら、創造性のある活動はできないでしょう。グループ内に矛盾や葛藤があるときには、やはりリーダーが主座を保って最終判断を下さなければなりません。

本書を読むときには、どうしてもそこまで読みとる必要がある。そういう意味でも、私は「主座を保つ」ことが特に大切だと思います。

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