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大林宣彦の体験的仕事論・チャンスのつかみ方

語り:大林宣彦(映画作家)/構成:中川右介(作家)

2020年04月11日 公開 2024年12月16日 更新

大林宣彦の体験的仕事論・チャンスのつかみ方

PHP新書『大林宣彦の体験的仕事論』より
 

「誰も何もしてくれない」のはチャンス

社会に出ると、最初に欲しいものは、チャンス。

ではまずうんと身近なところからおしゃべりを始めるなら、僕の仕事の映画を例に取っても、「自分が見たいような映画を誰も作ってくれない」と不満で、文句を言う人がいます。

そういう人は、根っこのところで「誰かが何かをしてくれるもんだ」と思っているのでしょう。誰かが何かをしてくれるのを期待している。だけど何もしてくれないから、不満。

そんな他力本願ではチャンスなんか来やしない。

例えば誰も何もしてくれないと感じるなら、他人を当てにしないでまず自分がやろうと思えばいいわけです。では自分で監督になって、見たい映画を自分で作ってみたら、とね。

そう思うことが君の手で、次の新しい時代を切り開くチャンスになるのかもしれない。

映画に限らず「誰もが何もやってくれない」のはむしろ幸いなんです。つまり、自分かやることがまだ残されているわけですから。「誰も何もやってくれない」と不満を言っているなんて、ずいぶん損しているなあ、もったいないなあと僕なんかは思いますよ。

だから、そういう愚痴を言っている若い人には、ちょっとひと言、言いたくなる。

「誰もまだ何もしていないからこそ、君がここにいる意味があるのであって、他人が作った何かが先にあってそれで充分だったら、自分がすることはもう何もなく、君が今ここにいる意味もなくなってしまうのではないかい」って。君は既成の世界に住むのじゃなく、未来に向かって生きてゆくのだから。受け身じゃ駄目。向かって行きなさいと。

でも、こんなことをしゃべっているのって、御節介ですか?! だけどねえ、互いに語り合わなきや、面白くも愉しくもならない。

おや、それでも君は、愉しくも面白くもないのかい?!

困つたな。では僕ももう少し努力して、よく考えてみましょう。

なにしろこれは親と子が、いやいや、もしかしたら爺ちゃんと孫が話し合ってる、そういう僕と君との会話なんだから。

そうやって、お互いにもっと近付き合えるといいよね。

さて、僕たちの時代にはね、今とは逆に自分はいったい何をやればいいんだ?! と自分がやることを探すのが悩みだった。映画に関して言えば、黒澤がもうやってしまった、小津がもう描いてしまった、ジョン・フォードに先を越された、ああもうみんなやられてしまった、さあ、僕に残されているのは何だ?と誰もがこう考えたものです。さあどうしよう、もう僕がやることはなんにも残されてはいない、というのが僕らの世代の悩みだった。そういう僕と、君たちとの世代間の違いを超えても、見えてくるものがきっとあるはずです。

さあ、では君には何かできるのか?! 君にも新しい時代を作るチャンスはあるのか?!
 

君自身がチャンスなんだよ

自分には才能がある、だけどチャンスがない、――そんなふうに思っている若い人がいます。自分に自信を持つのは大切ですが、「チャンスがない」と思うのはどうなんだろう。

チャンスは実は誰にでもある。「チャンスが与えられない」と思うから、チャンスがない。チャンスって与えられるものじゃない。まずここにいる自分がチャンスだと思えばいい。

「どこにチャンスがあるんですか?」って聞かれたら、「君がチャンスだよ」と僕は言う。

例えば「今、君は生きていて、ここにいて、一人でコーヒーを飲んでいるじゃないか。君、これはチャンスかもしれないよ。そのコーヒー、うまいかい?! そうかい?! だけど、君が感じているうまいっていう味は俺にはわからんぞ。俺は単にここで習慣的にコーヒーを飲んでいるだけ。今は君だけがそれを特別にうまいと感じているんだったら、これは君のチャンスだよ。君だけが今ここで感じているコーヒーのうまさをもっと感じて、表現してごらん。すると誰のものとも違う君だけの世界一のうまさが表現できるかもしれないよ」

ねえ、ちょっとそういう気になりませんか?! このコーヒーを別のもの、別のことに置き換えてみればよい。何でもない状態の中にも、君自身が発見すべきことはいっぱいある。

つまり、「なんだ、そんな簡単なことでいいのか。それならば大林以上のことが自分にだって簡単にやれるぞ」と思えばいいんです。本当にそうなんですよ。できますよ。

まずちょっとだけ、周囲のことに好奇心を持って、思考を転換してみればいい。

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新たな発明は「失敗」から生まれる

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