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猫背を治せば、ビジネスも人生も変わる?

澤田大筰(巣鴨総合治療院・整骨院グループ総院長)

2015年11月16日 公開 2023年02月22日 更新

一流のトップアスリートは何に気をつけているのか

 私は小学校から高校まで柔道を続け、大学ではアメリカンフットボールの選手でした。その後、大学を中退し、大相撲の世界に入りましたが、残念ながら怪我が原因で力士を引退せざるを得ませんでした。

 そのときの自分の経験から、「私のように怪我のため、志半ばで引退せざるを得ない選手を一人でも多く減らしたい」という思いから治療家となり、今まで、数多くのトップアスリートの施術、コンディショニングやケアを行なってきました。

 古巣の角界では、元大関の千代大海関(現佐ノ山親方)、元小結で人気力士だった高見盛関(現振分親方)、現役では豊ノ島関をはじめ、大関や三役の力士たちの施術をしてきました。

 そして、後輩の若い力士たちには、「怪我をしてからでは取り返しがつかない」ということも積極的に伝えるようにしています。怪我の怖さは自分自身が一番よくわかっているからこそ、コンディショニングやケアをすることの重要性を伝えたいという強い気持ちを持っています。

 私はアメリカンフットボールで、ラインというポジション柄、ぶつかる練習をよくしていました。また、そのためのトレーニングも積んできたので、相撲でもある程度の自信はありました。

 しかし、当然のことながらヘルメットやショルダーなどの防具の有る無しにより、身体に返ってくる衝撃は全然違いますし、ぶつかり方も質的に異なります。それを理解せずに、当時の私は、ひたすらただ強くぶつかることに取り組んでいたのです。結果として、首の怪我につながり、引退することとなってしまったわけです。

 今になってわかるのですが、相撲の世界には四股(しこ)、すり足、股割りなど、怪我をしないためによく考えられている稽古が数多く存在します。そういったものの効果を力士たちが理解すれば、練習効率がアップし、かつ怪我のしにくい身体づくりにつながることは、間違いのないことなのです。怪我をしにくい身体づくりは、ビジネスパーソンにも参考になる部分がありますので、是非、本書をお読みいただければと思います。

 また、メジャーリーガーをはじめ、多くのプロ野球選手の身体も診てきました。昔は水を飲むなとか、1000本ノックとか、とにかく根性論的な部分が上達の条件とされてきましたが、それで潰れていった選手も星の数ほどいるのです。そのため、才能に恵まれながらも不幸な結果となるような選手を減らしたいという思いも強く持っています。

 元メジャーリーガーで千葉ロッテマリーンズの一軍投手コーチの小林雅英さんが現役の頃、「試合後に肩をアイシングする際に、投げる側の利き腕の肩だけでなく、反対側の肩もアイシングをすることが必要だ」とおっしゃっていました。その理由は、投げる側の肩はもちろんのこと、相手に対して壁をつくる役目の反対側の肩も投球においては重要であり、その部分の筋肉の疲労も軽減させないと、よいケアにはならないからということでした。そのお考えに、非常に感銘を受けたものです。

 私が担当しているトップアスリートの中でも、とくに身体のコンディショニングへのこだわりが強いのが、プロゴルファーの片山晋呉プロです。

 一流のビジネスパーソンには欠かせないスポーツであるゴルフですが、身体を鍛えてまでやるスポーツというイメージを持っている人は少ないと思います。ただ、アマチュアレベルのゴルフであっても、ゴルフスイングなどで普段使わない部分を使うだけに、きっちりと準備とケアをしておかなければ、簡単に怪我をしてしまいます。

 ゴルフは関節と筋肉を駆使するスポーツであるため、身体に大きな負担がかかります。恵まれた体格を持っていれば、ある程度はカバーできますが、片山プロは極端に恵まれた体格を持っているわけではありません。自身でも、そのことを理解しているからこそ、誰もやってこなかった高いレベルのトレーニング、コンディショニングを地道に続けています。

 片山プロが35歳という若さで永久シードを獲得し、42歳になった今でもトップレベルで活躍されているのは、人一倍身体にこだわってきたからこそに違いありません。

 たとえば、脚を組まないとか、利き手と反対の手で箸を持ったりとか、常日頃から身体のバランスを崩さないよう気をつけているのです。

 男子ゴルフの最高峰、マスターズ・ゴルフトーナメントなどで、片山プロに帯同したことがあるのですが、海外の選手は当たり前のように、トーナメント中でも、トレーニングを行なっていました。試合の朝、平気で10キロ走る選手もいたほどです。なぜでしょうか。それが最高のパフォーマンスを発揮するための自身の準備だと理解しているからです。これは男子だけでなく女子も同様です。全米女子オープンゴルフに福嶋晃子プロの帯同で渡米した際にも、同じような外国人選手を数多く見かけました。

 

ビジネスパーソンが最高のパフォーマンスを発揮するために必要なこと

 スポーツ選手だけでなく、ビジネスパーソンもまた、自身が最高の仕事をするためには、どのような身体の状態がベストなのか、それを維持するために、どのようなコンディショニングが必要なのかを理解することが大切だと私は考えています。

 スポーツ選手が最高のパフォーマンスを発揮するために、常に自分の身体をよりよい状態に保とうと努めるのと同様に、一般のビジネスパーソンにおいても健康な身体を保つことが、実は仕事の質を向上させるために、最も必要なことなのです。

 以前から、私は外資系企業を中心に、いくつかの企業からオファーを受けて、社員の身体のメンテナンスや講義を行なっています。数年前には、日本サムスンから韓国

 本社の会長以下役員の施術のため、10~14日ほど訪韓しないかというお話をいただいたことがあります。このときは、まだ私が長期間治療院を空けることができる状態ではなかったため、訪韓は叶いませんでしたが、こういった需要は万国共通、世界各地にあるのだと、このときに痛感したものです。

 大手企業では、会社内にマッサージ師を常駐させて、社員が好きなときに身体のケアを行なえる環境を整えています。米国のIT企業の多くも、社内にマッサージチェアを設置したり、マッサージ師が社員を施術したりしています。身体をケアし、最高の状態を保つことが、よりよい仕事、よりよいパフォーマンスにつながることを、企業のトップが理解している証ともいえる事実です。

 少し話が遠回りになりましたが、「猫背には身体を不調にする要因が詰まっていることを、一人でも多くの方に認識してもらいたい」―それが私の願いです。

著者紹介

澤田大筰(さわだ・だいさく)

巣鴨総合治療院・整骨院総院長

1979年生まれ。日本大学中退後、大相撲時津風部屋を経て、東京衣料専門学校卒業(柔道整復師)、法政大学大学院修士課程修了(MBA)。現在、東京医科歯科大学大学院修士課程在学中。プロゴルファー、プロ野球選手、大相撲の力士など、一流スポーツ選手への施術経験を有し、スポーツ界、経済界、政界、芸能界に多くの患者を持つ。これまでに施術した人数はのべ10万人以上。

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