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いまこそサヨクの価値を見直すときがきた!

2015年11月17日 公開

島田雅彦 《作家》

PHP新書『優しいサヨクの復活』より

島田雅彦

 

反知性主義と衆愚政治

 衆愚に奉仕する仕事と割り切った者が生き残る世界……それが政治であり、マスメディアなのかもしれない。

 民主主義の歴史を権力者側から見れば、いかに批判を封じ込めるかが最大のテーマだったに違いない。民主主義のシステム上、権力者にとって最も心地いいのは衆愚政治であって、自分にとっての不都合な真実を暴こうとしたり、批判の矛先を向けて面倒を起こしたりする知識層というのは、いつの時代にも権力者から疎まれてきた。

 心無い為政者にとって手っ取り早いのは、効率主義を徹底させて人々が自分の頭で考えることを止めさせ、従順で、批判意識を持たない人間を増やすことだろう。そこには深遠な思想も高邁な理想も、真理を追究する知性も必要ない。「そんなものは犬にでも食わせろ」と思っているに違いない。

 日本においても、反知性主義はインテリを毛嫌いし、「文句ばかりいって、自分では何もしない奴ら」と蔑む風潮として現れる。反知性主義の背景には、歪んだエリート意識も見え隠れする。政治も経済も科学技術もごく一部の選ばれた人材が能力を発揮していれば、それで支えられるのだから、その他大勢の凡庸な人間は彼らが作った制度やシステムに従っていればいいという考え方だ。

 だからこそ、旧国公立大学における人文系学部の見直し、あるいは廃止という圧力を文部科学省はかけるのである。国家の役に立つ産業育成につながるプログラムを用意せよというのは、愚民政策の真骨頂を発揮しているわけであって、大学の自治権を奪うことも平気でするのがいまの政府だ。いわゆる国旗掲揚や君が代斉唱についても、折に触れて大学の現場に徹底を迫ってくる。こうして大学の自治権への圧迫を通して、徐々に学問の自由というものが失われていく。

 学問の自由が認められた中で初めて人は基礎研究に励むことができる。そしてそこからしか、ユニークな発見やノーベル賞につながるイノベーション、日本経済を支える産業は作られていかないのである。それこそが日本の発展を支えるのであって、短期的な利益を追うことが結果的に日本を停滞させることは、少し考えればわかるではないか。

 現政権を動かす政治家は、そもそも歴史や民主主義、人権思想の基本をどこまで勉強してきたのだろうか。歴史認識において隣国とトラブルを繰り返すのを見るにつけ、近代史を全く勉強してこなかったと疑われても仕方がない。本来の民主主義というのは、個々が自由な意見をぶつけ合い、議論を尽くして実現されるものだ。政治家は様々な反対勢力を説得しながら改革に臨む存在であり、そのための人文的知性――学習によって確保される知識、批判精神、倫理観は必要不可欠である。それが最も不足している自民党の政治家にこそ人文教育を施すべき事態ではないか。いっそ、国会議員に一般常識や教養の程度を測る一斉試験でも課し、基準点に満たなかった議員には辞職していただいたらいいのではないか?

 産業界では昨今、リベラルアーツを研修に取り入れる会社が増えているという。グローバル化が進展する中で、相手の国情を知り、なおかつ自国の事情を説明できること、さらには交渉を有利に展開することがビジネスにおいて重要になってきているからだ。商談の場であっても、立ち話で文学や映画の話題で相手を知り、打ち解け合うのはマナーであり、できないと真の信頼を得られない。これは政治や外交の場でも同じである。政府は人文系学部をつぶして、一体どんな人材を育てるつもりなのか?

 それにしても、政府与党の人々のコトバは支離滅裂である。政治も外交も法も全てコトバによって成り立っているにもかかわらず、用語法から定義まで、全てが狂っている。コトバの定義に関して野党の議員が詰めていこうとしても、毎回答弁の内容が違うし、明らかな論理矛盾を突かれても、はぐらかしたり、別の話をし始めたり、話が堂々巡りになったりしていた。議論を噛み合わせれば論破されるので、「問答無用」で法案を通すしかなかったのだろうが、今後、説明責任を果たさなくても法案を通していいという悪しき前例を確実に作り上げた。

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著者紹介

島田雅彦(しまだ・まさひこ)

作家

1961年東京都生まれ。東京外国語大学ロシア語学科卒業。1983年大学在学中に書いた『優しいサヨクのための嬉遊曲』が芥川賞候補となり作家デビュー。1984年『夢遊王国のための音楽』で野間文芸新人賞。1992年『彼岸先生』で泉鏡花文学賞。2006年『退廃姉妹』で伊藤整文学賞を受賞。2008年『カオスの娘』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。2010年下半期より芥川賞選考委員となる。現在、法政大学国際文化学部教授。他の作品に『佳人の奇遇』『悪貨』(以上、講談社)『英雄はそこにいる』(集英社)などがある。

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