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社会

なぜ、イスラム系のテロ組織が多いのか―テロにまつわる4つの疑問

ワールドミリタリー研究会

2016年03月27日 公開 2022年07月08日 更新

なぜ、イスラム系のテロ組織が多いのか―テロにまつわる4つの疑問

『世界の「テロ組織」と「過激派」がよくわかる本』より

 

21世紀はテロの時代!
テロ事件が右肩上がりで増えている理由は?

9・11がターニングポイント

 20世紀は「戦争の時代」と呼ばれるように、国家間の大きな戦争がいくつも起こった。しかし、21世紀に入ってからは、大規模な戦争よりもテロが目立つようになっている。

 世界におけるテロの発生件数、死者数を見ると、2000年以降、ほぼ右肩上がりに増えており、2014年時点で発生件数は1万6000件以上、死者数は4万数千人に及ぶ。2000年時点の発生件数が約2000件、死者数が約5000人だから、すさまじい増加率だ。

テロの発生件数・死者数の推移

 この背景には、イスラム過激派の存在がある。

 2001年9月11日、オサマ・ビンラディン率いるアルカイダがアメリカで同時多発テロを起こし、3000人以上の死者が出た。これに対してアメリカをはじめとする多国籍軍はアフガニスタンやイラクをテロの温床とみなして攻撃したが、イスラム過激派はますます欧米諸国に敵意を燃やして、より激しいテロ活動を繰り広げるようになった。

 さらに2010~12年、アラブ諸国で次々と民主化運動が起こり独裁政権が倒れると、それまで強力な独裁者によって保たれていた秩序が崩壊、政情不安に陥る国が続出した。その混乱がISなどのイスラム過激派が台頭する素地となった。

 テロ増加の要因としては、経済格差の問題も見逃せない。先進国と途上国との格差だけでなく、先進国内の格差も深刻化しており、貧困生活者の不満と敵意がテロに転化することがある。

 もうひとつ、技術革新の影響も大きい。インターネットはテロ組織のネットワーク化と新たなテロリストの勧誘に大きく貢献し、爆弾は小型化して遠隔操作が可能になった。こうした環境の変化がテロの激増につながっているのである。

 

変化するテロのかたち
ここ最近、特に目立つテロの傾向は?

自国育ちのテロリストが急増中

 2015年11月13日、パリ同時多発テロが起こった際に、「ホームグロウン・テロリスト」の存在がさかんに報じられた。これは簡単にいうと豊かな欧米諸国で育ちながら過激思想に染まり、テロを起こす人間のこと。「新世代のテロリスト」ともいわれる。

 ホームグロウン・テロリストは、イスラム圏からの移民2世、3世に多い。貧しい移民地区で疎外感や失意に苦しむ少年が、成長して“聖戦士”に変貌するのだ。アルカイダやISなどのインターネットを利用したPRに感化されたり、モスクなどで声をかけられて過激思想に染まケースが多いという。聖戦士となった者は、自発的テロ実行の呼びかけに応じ、国の政府や市民に対する攻撃に出る。2005年のロンドンの地下鉄・バス連続テロも、パキスタンなどからの移民出身者が起こしたものだった。自国育ちであれば、日頃は一般市民として普通の生活を送っているため、警察当局もテロリストとして認識しにくい。そのため、テロに対する監視や規制が強化され始めた01年以降に急増しているといわれる。

 

ひっそりと睨みを利かせるローンウルフやスリーパーの恐怖

 「ローンウルフ」が増加傾向にあることも見逃せない。ローンウルフとは、文字どおり一匹狼(または数人程度)のテロリスト。本体のテロ組織と直接接触をしないまま、高度な訓練を受けることもなく、独断で突然に事件を起こして世間を騒がせるのである。

 パリ同時多発テロでは、一般市民として生活しながら指令を待つ「スリーパー」の存在を指摘する声も上がった。かつては共産ゲリラや潜伏スパイとしてとられた手法である。

 アルカイダは世界各地にスリーパーの“細胞(セル)”を配置し、入念な計画のもと命令すれば攻撃できる体制を築いていた。ISも戦闘員になりたいと欧米諸国からやってくる若者をキャンプで訓練したあと、一部をスリーパーとして自国に送り返しているらしい。細胞同士は連絡を取り合わないため、ローンウルフ同様、存在の把握が難しい。

 当局の警戒が強化されるにつれて、攻撃対象はソフトターゲットに移ってきた。警備や監視が厳重な官公庁や軍事施設、空港といったハードターゲットを避け、不特定多数の人が集まる劇場や学校、ホテル、公園などを狙ったテロが急増し、一般市民の甚大な犠牲を生んでいる。

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キリスト教や仏教に比べて、イスラム教のテロ組織が多いのはどうして?

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