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生き方

一目置かれる大人は会話の 「弾ませ方」 を知っている

川北義則(生活経済評論家/出版プロデューサー)

2016年07月27日 公開 2024年12月16日 更新

一目置かれる大人は会話の 「弾ませ方」 を知っている

PHP文庫『大人のものの言い方・話し方』より一部抜粋

 

一目置かれる大人は口開け上手である。ちょっと残念な人はすぐに用件を切り出してくる

「口開け」とは、物事の始まりのこと。お店なら、その日のはじめての客を「口開けの客」などという。もともと、能の世界の言葉らしいが、海や山での漁の解禁のことも口開けというようだ。

「口開けのお客さんが、上客で大人数だったりすると、接客にも力が入りますね」

さる銀座のクラブママの言葉だが、会話でも、文字通り、口開けは重要だ。

「こんにちは、たしか去年のクリスマス以来になりますね」

「お久しぶりです。相変わらず、オシャレですね」

「お世話になります。御社の新事業の件、新聞で拝見いたしました」

久しぶりに会った人間、あるいはビジネスパートナーから、開口一番このような言葉をかけられると、誰でも新鮮な感覚を抱くと思う。時間の空白はもちろん、ビジネスの堅苦しさをそんなひと言が解消してくれるのだ。

ありきたりの挨拶の言葉に、ワンフレーズをトッピングするだけで、ただの既製品の挨拶が相手に合わせたオーダー品に変わる。そんなぐあいに会話のスタートが快適ならば、以後のコミュニケーションもうまくいく。

こうしたスタートが切れれば、さして懇意にしていない間柄や少々込み入った交渉事の場でも、スムーズに本題に入れる。

 

「口開け」上手は話し上手

「うまい落語家は『つかみ』が違うんですよ。一瞬で観客の心をつかんでしまう」

スポーツ新聞の記者で文化欄を担当している私の知人がいう。「つかみ」という言葉通りだ。どんなシチュエーションであれ、開口一番の言葉はコミュニケーションを円滑にする重要なカギをにぎっていることは間違いない。

私のビジネスパートナーにも、この「つかみ」の達人がいる。

「あれっ、セーター、今年流行のボーダー柄ですね」

「そのスカーフ、ヒューゴ・ボスの新作でしょう」

あるイベント会社で働く男だ。私の講演会で知り合った。

本人がオシャレ好きということもあるが、着道楽である私の心を読んで、簡単なふつうの挨拶の後に、必ずオーダー言葉を付け加えるのだ。こちらも当然機嫌がよくなる。

そんな口開け上手の人間に対して、「お調子者」「言葉が軽い」などと苦言を呈する向きもあるだろうが、私はそうは思わない。ちょっと込み入った話、ビジネスにおける深刻な話など、どんな会話であれ、潤いや弾みもなく、相手から用件のみを切り出されると、想定した通りの結論しか得られないだろう。役所の手続きならいざ知らず、これでは話に奥行きや発展が見込めない。

ビジネスの会話を料理にたとえてみよう。

もちろん、メインディッシュの中身は肝心だが、テーブルにいきなりメインディッシュを出されたとしたらどうだろうか。食前酒や前菜などがあってこそ、メインディッシュが引き立つし、美味しさも味わえる。

いい口開けの言葉は、いわば食前酒や前菜のようなもの。メインディッシュの味わいを深めてくれるように、会話を盛り上げる。

そんな会話術を身につけたいなら、まずは相手に対する観察を怠らないこと。身だしなみのちょっとした変化を見逃さず、さりげなく言葉にしてあげればいい。もちろん、相手にとって快い事柄でなければならないことはいうまでもない。

さらに気をつけなければならないことは、しつこくならないこと。食前酒=口開けの言葉は一杯だけでいい。それからは、スムーズに本題に入ったほうがいい。

著者紹介

川北義則(かわきた・よしのり)

生活経済評論家

1935年、大阪府生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、東京スポーツ新聞社に入社。文化部長、出版部長を歴任する。77年に同社を退社後は、独立して日本クリエート社を設立。出版プロデューサーとして活躍するとともに、生活経済評論家として執筆・講演活動を行う。主な著書は、『男の品格』『男の生き方』『みっともない老い方』(以上、PHP研究所)、『「20代」でやっておきたいこと』(三笠書房)、『男は人とどうつきあうべきか」(大和書房)など、100冊を超える。

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