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生き方

「漠然とした不安」は書いて整理しよう

大野裕(精神科医)

2016年11月09日 公開 2023年09月12日 更新

マイナス思考のスパイラルに注意を

 反射的にネガティブな考え方をしてしまうことは、自然なことです。むしろ自動思考によって物事をマイナスに捉えることは、日常生活をつつがなく送るために必要不可欠とも言えます。

 たとえば、家で怪しい物音が聞こえたとき。「泥棒かもしれない……」と警戒できなくては困ります。確かめてみたら勘違いだとわかるかもしれませんが、確かめなくては手遅れになる場合も少なくありません。

 問題は、「ネガティブな考え方」ばかりにとらわれて、抜け出せなくなることです。一般的に、私たちは自動的にマイナスに物事を捉えて、その後で現実を確認しながら考えを修正していく機能を備えています。しかし、気力が落ちているときには、物事を精査する思考力も低下しているため、マイナス思考から脱出できず、過度に悲観的になってしまうのです。

 さらに症状がひどくなれば、「自分はそれに対処できない」「人は助けてくれない」と考えてしまう。そんなふうに考えるうちに、現実がその通りに見えてくる。現実中心ではなく、自分の考え中心になって、心の元気がなくなるという悪循環に陥ってしまうのです。

 そこで大事なのは、現実にきちんと目を向けること。コラム法を使って現実を客観視できれば、問題に対処する力が出ます。

 そのときに、自分の考え方の特徴がわかると、行きすぎた考えにブレーキをかけて、冷静に現実に目を向けやすくなります。よくある自動思考のクセを上に示しましたが、こうした特徴は必ずしも悪いことではありません。それが行きすぎると辛くなるのです。

 ですから、気持ちが動揺したときには、考え方が極端になりすぎていないか確認してみましょう。そうすれば、自分をより客観視できるようになります。

 こうして、考えを整理することができたら、現実を見るだけでなく、自分のビジョンを明確にしていきましょう。この問題を乗り越えた先で、自分はどうなりたいのか。何を成し遂げたいのかを考えるのです。

 せっかく書く習慣を身につけたのですから、将来の目標も書き出してみるようにしましょう。未来に希望があるからこそ、目の前の現実に立ち向かう勇気も湧いてくるのです。

 

THE21 2016年11月号

取材・構成 川端隆人

著者紹介

大野裕(おおの・ゆたか)

精神科医

1950年、愛媛県生まれ。慶應義塾大学医学部卒業。コーネル大学医学部留学、ペンシルベニア大学医学部留学、慶應義塾大学教授を経て、現在は、独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター長。医学博士。日本認知療法学会理事長。
著書に、『はじめての認知療法』(講談社現代新書)、『こころが晴れるノート』(創元社)、『不安症を治す』(幻冬舎新書)などがある。認知療法活用サイト「こころのスキルアップ・トレーニング:うつ・不安ネット」(ウェブ・モバイルともにhttp://www.cbtjp.net)を発案・監修している。

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