歩けば思考も働き、心も癒される
何事も便利になったいま、人には「歩く」機会が少なくなりました。
網の目のように交通手段が発達し、近所にちょっと買い物にいくにも自動車です。
エレベーターにエスカレーター、飛行場やターミナル駅には「動く歩道」もあります。
こういう生活環境の中では、私たちは、意識して「歩く」ことを心がけるほうがいいでしょう。
もちろん健康のために、です。
しかし健康ばかりではなく、「歩く」のは「気持ちの整理」「脳の活性化」「心の癒し」などにもとても効果があります。
原稿にいき詰まった小説家が、机の周りをウロウロ歩き回ります。足を動かすと、いいアイディアが思い浮かんでくるからでしょう。
哲学者もよく歩きます。京都には「哲学の道」がありますし、フランスのルソーは『孤独な散歩者の夢想』という本も残しています。
「歩く」のは、思考の働きをよくします。
四国のお遍路さんたちも、歩いて、歩いて、歩き通します。
「歩く」と、心も癒されます。
行き詰まって、いいアイディアが出ないとき。
どちらの選択肢を選ぶか決断できないでいるとき。
何かの悩み事があって、心が落ち着かなくなっているとき。
デスクにかじりついて、うんうん頭を悩ませていても、いい解決策が見つかりません。
思考の糸がこんがらがっていくばかり。
「頭を使うときには、足を動かせ」です。
禅の修行者も、行雲流水、よく歩きます。
「歩く」のは、精神を鍛える行為ともなります。
※本記事は、枡野俊明著『手放すほど、豊かになる』(PHP文庫)より一部を抜粋編集したものです。
【枡野俊明(ますの・しゅんみょう)】
曹洞宗徳雄山建功寺住職、庭園デザイナー、多摩美術大学名誉教授
1953年神奈川県生まれ。大学卒業後、大本山總持寺で修行。「禅の庭」の創作活動により、国内外から高い評価を得る。芸術選奨文部大臣新人賞を庭園デザイナーとして初受賞。ドイツ連邦共和国功労勲章功労十字小綬章を受章。2006年には『ニューズウィーク』日本版にて、「世界が尊敬する日本人100人」に選出される。庭園デザイナーとしての主な作品に、カナダ大使館庭園、セルリアンタワー東急ホテル日本庭園など。