海外で自社ブランドを浸透させるカギ~堀切功章・キッコーマン株式会社代表取締役社長CEO
2017年06月04日 公開 2024年12月16日 更新
和食が世界的に注目されているが、「キッコーマン」はそれ以前からグローバルなブランドとして定着し、海外ではしょうゆの代名詞として使われている。江戸期から300年以上にわたる伝統を受け継ぎつつ、早くから海外市場に目を向け着実にブランドを浸透させた秘訣はどこにあったのか。就任4年目の堀切功章社長にうかがった。
※本記事はマネジメント誌「衆知」2017年3・4月号の特集「最強のブランドを育てる」より、その一部を抜粋編集したものです。
会社設立100年、キッコーマンのさらなる挑戦
多角化・国際化経営で伝統ブランドを進化させる
よく「海外で事業を成功させる秘訣」を問われますが、ひと言で言えば「よき企業市民になること」ではないかと思います。
当社がアメリカ・ウィスコンシン州に工場を建設する時、地元住民から反対の声が上がりました。周辺は農業地帯で、「工場ができたら自分たちが大切にしてきた土地が汚染されるのではないか」という不安があったからです。
しょうゆは大豆、小麦、食塩を微生物の働きで発酵・熟成させてつくります。搾りかすなどの副産物は飼料や燃料になりますから、ほとんど無駄がありません。環境に対する負荷も極めて限定的です。そういった製造の仕組みをていねいに説明したり、住民を一人ひとり訪ねて地道に理解を求めた結果、ようやく認めてもらうことができたのです。
企業が長期的に存続していくためには、地域社会と共存共栄していく必要があります。そのためには、できるだけ地元の企業と取引することが大切です。例えばある国に工場を建設するなら、その国の建設会社に依頼する。できるだけ現地で生産された原材料を使い、醸造に必要な特殊な機械を除いて、設備や備品は可能な限り現地の会社から調達する、というスタンスです。
現地社員の登用も積極的に行ないます。日本からも人は派遣されますが、実際の仕事は現地の人たちとの共同作業です。日本で培われた技術と現地の力が一体になってしょうゆをつくるわけです。こうして「経営の現地化」を進めることが、何よりもその地域に貢献する姿勢を示すことになるのです。
また、日本人は海外では集団になりやすいので、なるべく分散して住むようにしています。 「日本人村」をつくるのではなく、進んで地域との接点を持ち、人も会社も地域社会に溶け込むようにする。これが、キッコーマンが実践してきた「よき企業市民になる」ことなのです。
そうすることで、地域から認められ、信頼され、愛されるブランドになる。キッコーマンのアメリカ工場ではなく、「アメリカのキッコーマン工場」であるという位置づけになることによって、本当のグローバルな企業になれるのだと思います。それは世界のどこに進出しても同じことなのです。