「まだ何もない自分」に必要な「根拠なき自信」
イチロー選手の少年時代のエピソードに、こんな話があります。
バッティングセンターで練習をするとき、イチロー少年はいつも、ボールのスピード設定を最速にしたそうです。なぜなら、「プロになったらこのレベルのボールを打たなくてはならない」と考えたから。イチロー少年はバッターボックスよりさらに前方に立ち、目にも止まらぬ速さで飛んでくる球に向かいつつ、どう打つかを研究していたのです。
当時のイチロー選手はまだ子供で、当然、今のようなスーパースターではありません。まだ実績も何もない状態でありながら、彼は「最終的には自分はプロになって、このボールを打てる」という確信を持ってそこに立っていたのです。
この話を聞くたび、私は「自信」というものについて考えます。
人がまだ何も成し遂げていないときに一段ステップを昇るには、この「自信」が不可欠だと思うのです。まだ結果は出していないが、自分には必ずできると信じること。この気持ちがあってこそ、人は物事にチャレンジできるのです。
そこで私自身を振り返ってみると……決して、自分に自信のあるタイプとはいえません。苦手なこと、できないことはたくさんあります。できることにも限界があると感じます。
それでも、目標を設定するときは毎回、「たぶん、できる」と思えます。
そこに根拠はないのですが、なぜか自然にそう思えるのです。
この「なんとなく感じている自信」、これがどこから湧いてくるのか。それは、やはり、コツコツ積み重ねてきた数々の成功体験がもたらしたものでしょう。
その経験のひとつひとつは、最初は小さなものでした。
「漢字テストで満点を取れた」「前の学期よりも成績が伸びた」など、子供なりの、ささやかな経験ばかりでした。
しかしそれは、繰り返すと雪だるま式に大きくなります。勉強してそれが成果につながるたびに、「次もできる」「その次もできる」と、自分を信じる気持ちが形成され、どんどん膨らんでいくのです。その自信が次の成功を促し、その成功がさらに大きなチャレンジへと踏み出す勇気を持たせてくれます。
自分を信じる力、「自信」というものは、人がステップアップするときに欠かせないエネルギー源なのです。
「失敗」は重く見る必要はない
「そうはいっても、成功体験自体が少ないから、自信など湧きようもない」という方もいらっしゃるでしょう。しかし考えてみてください。あなたが明確に意識していないだけで、「成功体験」は日常の中にたくさん転がっているのです。
必死で走ったら電車に間に合った、あれこれ悩んで買った誕生日プレゼントを恋人に喜んでもらえた、小学校の国語の時間に書いた詩を褒めてもらえた……など、小さな努力が実を結んだ経験がきっとあるはずです。
そんな経験も思い出せない、あるいは思い出しても「大したこととは思えない」と感じてしまうとしたら、成功に対するアンテナが鈍っている可能性があります。
これは意外に、多くの人が陥っている現象です。
人は一般に、成功よりも失敗のほうに重きを置きがちです。確かに、心温まるような経験よりも、鋭い刃物で心をえぐられるような経験のほうが鮮烈に心に刻まれるのは当然かもしれません。
だからこそ、日常の中で多くの「成功体験」を見つけ、それを意識的に自分の中に印象づけるようにしておく必要があります。
なぜなら、失敗の印象ばかり抱いたまま生きていると、自分を信じる力が低下するからです。先ほど述べたことと真逆の方向、つまり失敗経験のダメージが雪だるま式に増大するのです。そうなると、心が「どうせ次もダメだろう」「努力しても無駄だろう」といったネガティブ思考に占められ、チャレンジ精神も萎えてしまいます。
私は、「ミクロな視点」と「マクロな視点」を分けて考えるようにしています。失敗は、ミクロな視点で覚えておいて、マクロな視点では忘れちゃえというわけです。失敗したときには、次に同じミスを繰り返さないようにしないとなとは思うけど、「私ってダメな人間」というように、その失敗が、自分自身の価値を下げるかのような考え方は一切しないようにしています。
自分自身の価値を「マクロな視点」で捉えるときには、「できないこと」の数を数えるより、「できること」「できたこと」へと、意識的に目を向けていただきたいと思います。
80点、90点を取れたなら、間違えたところを見直したりする前に、まずはそのハイスコアを素直に喜び、達成感を心から味わいましょう。
ちなみに私は小学校のときに、北海道の地名と位置関係を答える社会のテストで50点を取ったことがあります。そのときも、「北海道の14支庁について、地名だけ覚えて、位置関係を全く覚えていなかったな」と反省しましたが、そんなの改めて勉強して覚えてしまえばそれで済む話。「私は社会が苦手」とショックを受ける必要なんてないのです。
「ミクロな視点」で反省しても、「マクロな視点」で過度に落ち込まない、そうしたポジティブシンキングこそが、やる気の維持につながるものです。