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中国の覇権戦略に、日本はどう立ち向かうのか

櫻井よしこ(ジャーナリスト)

2017年09月17日 公開 2022年12月21日 更新

世界を支配する最大の要素が軍事力であることを、中国は明確に認識しています。

15年までほぼ毎年軍事費を10%以上も増やし続け、17年にはついに1兆元(約16.5兆円、17年6月30日現在)を突破しました。しかもこの数字も控えめなもので、実質的にはこの2倍とも言われる軍事費を使っていると言われています。中国の軍拡にかける熱情は、軍事予算を大幅に削り続けてきたアメリカや、中国の脅威にも拘らず安倍政権以前まで予算を減らしてきた日本とはあまりにも対照的です。

15年9月の戦勝70周年を記念する軍事パレードで、習主席は「我が国は30万人の軍隊の削減をします」と世界に発信しました。230万人の軍隊を200万人にする。これを朝日新聞は「中国の平和への試み」と報じました。全く本質を見ていない論評です。中国が本当に軍事力を削減するのであれば軍事予算も減るはずです。ところが中国の軍事予算は減るどころか2桁の伸びを続けています。表向きは「軍縮」と言いながら、質的向上を進めているわけです。地域割の「七大軍区」を廃止し、「五大戦区」に組み変えました。陸海空、戦略ミサイル部隊の第2砲兵も加えて4軍の指揮系統を一本化し、軍全体を統合して機能的に展開できるようにしたわけです。習近平氏の狙いが軍事削減どころか本格的な軍事改革による軍事力強化にあることは間違いありません。

中国は宇宙戦略においてもアメリカを凌ごうとしています。日本人は「宇宙」にロマンを感じ、国益や軍事利用などと結びつけて考えようとしません。実際に日本の宇宙開発・研究は国際宇宙ステーションで各国との協力のもとで行われてきました。しかし、中国にとっては宇宙開発の目的は軍事利用そのものであり、覇権確立のための手段です。

中国独自の宇宙ステーションを作り、月に基地を作り、月と地球の間の宇宙空間を支配することによって、空を支配する。空を支配することによって海を支配する。海は海の表面のみならず、深海にまで情報網を張りめぐらす。宇宙空間、空、海の表面、深海を結ぶ情報網を築き、それを世界各地に築いている軍事基地につなげて軍事利用するのが中国の狙いです。

宇宙空間から地球をすっぽり包む情報網を作り、アメリカを凌駕する世界最強の大国への道を中国は急ピッチで突き進んでいます。

中国の戦略の根本には「孫子の兵法」の教えがあります。戦わずして相手を屈伏させることが最良の勝ち方だとしています。そのためには噓をついて相手を騙すことを厭わない。噓をつくことは最善の策だと教えています。日本人の正直さや謙虚さは素晴らしい美徳ですが、中国人も同様に考えていると思ったら酷い目にあいます。実際に、これまで日本はどれだけ中国に裏切られ、お金をむしり取られ、領土領海を奪われそうになっているか。南京大虐殺や慰安婦問題に関する捏造話は、日本の国際社会における立場を貶め、日米関係にヒビを入れ日本を孤立させるための宣伝戦であることを忘れてはなりません。

中国が軍事力行使の前に使うのが経済力です。中国は利に聡い国ですから、人も国家も利によって動くことをよく知っています。経済力を使って相手に利をちらつかせて自分の側に取り込み、批判を封じ込める。経済力を使った覇権拡大の典型がAIIBであり、「一帯一路」を掲げるシルクロード経済圏構想です。これらの構想に与することは狼に餌を与えるのに似て、長期的に見れば自らの首を絞めることになります。にも拘らず、ヨーロッパ諸国は 雪崩を打ってAIIBに参加しました。目の前の実利に動かされず、長期的視野に立って国益を考えることの難しさを痛感させられます。

中国の侵略行為に一致団結して立ち向かわなければならないはずのASEAN諸国も、中国の経済援助などを駆使した懐柔政策によって分断され、批判を鎮静化させてきました。中国に領土領海を奪われたフィリピンのドゥテルテ大統領までもが、自ら中国にすり寄るのですから、小さな国々がどれほど深い悩みを抱えているかがわかります。元の国際通貨化も、元をドルと同じような位置につけることによって、他国の経済的な力を取り込み、中国の経済を支えるのが狙いです。AIIBも他国から集めたお金が結局は中国国有企業に流れ、出資国は中国にしてやられるとの指摘は軽視できないと思います。

通貨や経済力でもアメリカに対抗しようとしている中国に、トランプ大統領はどう向き合うのか。私はトランプ氏が中国が目の前に示す「利」に動かされ、中長期的な視点で対中関係を見ることができず、中国にまんまと騙されてしまうという危惧を持たざるを得ません。

今、習主席は自身に毛沢東同様の権力を集中させた独裁体制を築くべく、着々と手を打っています。17年春の全国人民代表大会(全人代)で、李克強首相は6回も習主席を「核心」と呼び、毛沢東と並ぶ別格の指導者として位置づけました。常務委員が入れ替わる18年の全人代では、習近平氏の子飼いの人材が登用されると見られています。

先に触れた中国人民解放軍の機構改革の狙いも、習主席の腹心を軍の中枢部に据えることにあります。そこから浮かんでくるのは21世紀の毛沢東主義であり、習近平という1人の人物のもとに軍事、経済、政治すべての権力が集まる強硬な独裁ファッショ体制です。

その一方で、中国の人民の心が習主席から離れ続けていることも事実です。

富裕層は自らの資産を海外に不正送金し、中国の富は年間80兆円とも言われる規模で流出し続けています。人材の他国への移住にも歯止めがかかりません。

中国外務省は17年4月、アメリカに逃亡中の中国人大富豪・郭文貴氏の国際逮捕手配書を国際刑事警察機構(ICPO)が発行したと発表しました。郭氏はアメリカで習体制がいかに腐敗しているかという情報を出し続けている人物で、中国がここまで強い反応を示しているのは郭氏が核心を突いていることの証左でしょう。このことからも習主席の「反腐敗運動」が政敵を狙い打った権力闘争でしかないことが窺えます。

「中国5000年の歴史」などと言いますが、それは一貫した歴史でも継続した歴史でもありません。単に、現在私たちが中国と呼ぶ大地に多種多様な民族が入ってきては王朝を興し、前の王朝を滅ぼしては新しい王朝を作る、いわゆる易姓革命を繰り返してきただけのことです。そして歴代の王朝が弱体化し倒れていった原因は、常に民衆の不満が爆発したからでした。私は21世紀の中国に同じことが起きるのではないかという予想さえしています。

しかしそれ以前に、中国がアジアを支配し、アメリカをも凌いで世界をコントロール下に置いてしまうことを絶対に食い止めなければなりません。

今、世界のなかで中国の脅威を一番切実に感じているのは、他ならぬ日本のはずです。中国はアメリカを完全に追い越すまではアメリカと友好な関係を維持するでしょうが、その状況がずっと続くとは思えません。アメリカが目の前の「利」のために中国と妥協し、日米同盟に基づいて尖閣諸島や沖縄を守ってくれなくなる事態も想定しておかなければなりません。

宇宙から深海までを統合した中国の軍事増強が進めば、アメリカでさえも中国の攻撃を防ぐことができなくなる日が、近い将来やってくる可能性があります。その時、我が国はどう中国に立ち向かうのか。

戦後、日本は日本国憲法を後生大事に守り続け、「自分の国は自分で守る」という世界各国にとっての常識を忘れ、現実から目をそらしてきました。もし北朝鮮が暴走した場合、北朝鮮による攻撃に対してさえ我が国は我が国を守りきることができません。北朝鮮の軍事的脅威に対してさえ十分に対処できない日本ですから、中国の軍事脅威に対して、より脆弱であるというのは明らかです。

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