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中国の覇権戦略に、日本はどう立ち向かうのか

櫻井よしこ(ジャーナリスト)

2017年09月17日 公開 2022年12月21日 更新

地政学で考える日本の未来	本書出版のすぐ後に民主党政権から安倍自民党政権に政権が移ったことは、その意味ではまさに天恵であり、日本の神々が日本国を守ろうとして下さっているのではないかとさえ私は感じました。

安倍晋三首相は戦後の日本の総理大臣には珍しく、力の原理を理解できている人物です。国民と国家を守るには力が必要です。その力とは経済力であり軍事力です。両方なのです。国家と国家の関係で永遠なるものは、国益です。それだけです。安倍首相はこのことをよく理解しているために、自衛隊の強化を図っています。そして憲法改正のための国民投票法を改正し、憲法改正の議論を活発化しようとしています。

安倍政権下の全体的な方向は良い方向に向かっていると、私は評価していますが、それでも速度が足りないとの思いがあります。日本が直面している100年に一度、200年に一度の大変化は、日本を根底から揺るがしています。国際社会の荒波に飲み込まれ、沈まないために、私たちは今、同じ価値観を共有する国々と手を携えて中国に立ち向かっていかなければなりません。地政学的に中国から遠く、直接的脅威をあまり感じない、たとえば欧州の国々にも、日本は自由と民主主義、人権の尊重、国際法の遵守といった価値観に基づいた平和的秩序の構築と維持の必要性を粘り強く訴えていかなければなりません。

日本と中国はアジアの2つの大国ですが、歴史も国柄も育んできた文化・文明もまったく異なります。中国は王朝が目まぐるしく入れ替わり、そのたびに新しい王朝は前の王朝を徹底的に叩き潰しました。前王朝の皇帝を殺すだけでなく人民までも殺してしまい、少なく見積もっても前の王朝の人は3割から5割、酷い時には9割が惨殺されてきました。新王朝はそれまでの歴史をすべて自分の都合のいいように書き換えてきましたから、中国の歴史はぶつ切りです。南京大虐殺や慰安婦問題などの歴史の捏造は、中国のお家芸といえます。

翻って日本は、世界でただひとつ、2700年近く同じ民族が、皇室を守りながら続けてきた歴史のある国家です。その精神の源流はあの穏やかで高度の文明で知られる縄文時代にまで遡ります。私たちの先祖は豊かな自然のなかで、世界でも比類のない高度の文化・文明を育んできたのです。

中華文明に対しては、優れたところは吸収しつつもそうでないところは拒否する賢さを発揮しました。聖徳太子の英邁なる政治によって、我が国は中華文明ときっぱり決裂し、大和文明を築き上げました。常に独立国として中国と対等の立場を貫いてきたのが日本なのです。

聖徳太子の「十七条憲法」の第一条「和をもって貴しとなす」はあまりにも有名ですが、この憲法にはその他にも「上に立つ人ほど頭を低く、謙虚に徹しなさい」「信は人の道の根本である」といった政治を司どる人を戒める教訓や、民への配慮、公正な裁きなど、素晴らしいことが書かれています。その精神が引き継がれ、100年以上後に編纂された『日本書紀』には、我が国では民のことを「大御宝(おおみたから)」と呼ぶと書かれています。また、指導者は人徳を積み、この国を道義の国にしなければならないとも記されています。こうした素晴らしい価値観を、日本人ははるか古代から連綿と受け継いできました。まさに中国のそれとは180度異なる価値観です。

どちらの国の価値観が人々を幸福にするのか、答えはあまりにも明らかです。だからこそ日本はアジアの国々から信頼され、期待されているのです。日本は自信を持って自らの価値観を高々と掲げ、中国とは異なる姿をアジア諸国や世界に見せていくのが良いのです。それがアジアのみならず21世紀の地球社会のためでもあると私は考えます。

そのためには中国の侵略的な戦略と野望を知り、日本人こそがそれに立ち向かう覚悟をより強く持つことが欠かせません。本書がそのための一助となることを心から願っています。どちらの国の価値観が人々を幸福にするのか、答えはあまりにも明らかです。
 

※本記事は、櫻井よしこ著『地政学で考える日本の未来』はじめにより、一部を抜粋編集したものです。

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