欲望を否定しない~ 松下幸之助 前を向く人生の歩き方
2018年01月22日 公開 2022年10月27日 更新
欲望は生命力の現われ。善でも悪でもない
9歳の頃、小学校を中退した松下幸之助は、故郷和歌山を離れ、単身大阪で丁稚奉公として勤めることになります。厳しい仕事を強いられたわけではありませんが、昨日まで母親とともに寝ていた子どもが、突然見知らぬ地で一人で寝ることになるのです。寂しさが募り、毎夜毎夜、泣けてきて仕方がなかったそうです。
そんな状態で奉公し始め半月ほど経った時のこと、主人から半月の給金として、5銭白銅貨をもらいました。幸之助はたいへん驚きました。和歌山でもらった小遣いといえば1文銭。それで飴玉が一つか二つ買うことができました。そのおよそ50倍ものお金を一度に手にしたのですから、うれしくないはずがありません。その後は、毎日喜んで仕事をし、泣くこともなくなったというわけですが、まことに現金な話です。
お金につられて動くことは、一般的にあまり好ましくないとみなされています。たとえば賭け事で失敗する人の多くは、もっと楽にお金を儲けたい、あるいは失ったお金を取り戻したいという金銭欲にとらわれています。投資話で詐欺に引っかかる人も、少なからず金銭欲に動かされています。強盗にしても手っ取り早くお金を手にしたいという金銭欲があるからこそ起こる犯罪です。このようにお金に対する欲望が、問題を引き起こしているのは否めない事実です。
しかし、当然のことながらお金がなければ経済はまわらず、日常の社会生活を営むことができません。また、正当な給金が上がることを喜ばない人はいないでしょう。お金に対する欲は、人が働くための動機づけになるのは間違いないことです。
お金に対する欲に限りません。食欲がなければ、やせ細って死んでしまいます。性欲がなければ、命のバトンは受け継がれていきません。知識欲がなければ、物事を探究し、新たな発見、発明をすることができません。問題は、欲に振り回されること。「過ぎたるは及ばざるがごとし」ともいいます。食欲のままに食べ過ぎては健康を害します。大切なのは、欲を上手にコントロールできるかどうかです。
人間は感情と勘定で動くものであると松下幸之助は言いました。つまり損得勘定も人を動かす動力というわけです。お金や物等に対する欲というのも、意欲を高める重要な要因であり、これを活用しない手はありません。幸之助は、次のようにも述べます。
「欲望は生命力の現われであります。それ自体は善でも悪でもありません。欲望が強いことは、生命力の強いことを表わすのであります」(『松下幸之助の哲学』)
いわば欲は人間を動かすエンジンのようなもの。要はそれをしっかりコントロールし、暴走しないこと。うまくアクセルを踏みつつハンドル操作ができれば、まっすぐ前を向いて進んでいくことができるに違いありません。
さて、人を突き動かすのは欲望だけではありません。夢や志があると、人は困難に負けることなく力強く歩み続けることができます。幸之助の場合、病弱であったため床に臥すことが多く、できるのは夢を描くことばかりだったようで、次のように述べています。
「夢ほどすばらしいものはない。空想は幾らでも描けるし、きりはない。広い未開の地にいって、そこの開拓王になることだってできるし、大発明をして社会にひじょうな貢献をすることもできるし、あるいは巨万の富を持つことも夢では成り立つ。私みたいに芸のないものは、夢でも描かんことにはしょうがないかもしれないが、そういう意味で空想もまた楽しいものだと思っている。これを私の夢の哲学とでも名づけようか」(『仕事の夢 暮しの夢』)
仕事も夢があればこそ生まれたと松下幸之助は言います。言い換えれば、たくさんの困難があったけれども、夢を見失わなかったからこそ乗り越えられ、成果を上げ得たということでしょう。常に夢を描き、志を抱いて事に当たっていく。そうした姿勢があれば、後ろ向きになりそうな自分の支えとなり、前向きに歩いていくことができるのではないでしょうか。
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