竹中平蔵 × ムーギー・キム 日本の政治が変わらない理由
2018年02月06日 公開 2018年02月07日 更新
総理大臣も大きな変革は難しい~官僚・政治家・メディア・閣僚の抵抗
失脚しないためのリスク管理が変革の足かせに――総理を引きずりおろすのは野党ではなく与党
キム かつて小泉さんは「抵抗勢力」という言葉を流行らせました。安倍さんはずっと「岩盤規制」と戦うと言い続けています。ただし、岩盤規制に変化がないことが、政権への批判につながっています。
傍から見て不思議に思うのは、リーダーである総理がやろうとしていることが、なぜすんなり進まないのかということです。
特に、いわば総理の直轄である与党や省庁の内部で一生懸命反対している人がいるわけですよね。
この構図がわかりにくいのですが、どんなことになっているんですか?
竹中 まず日本では、総理というのは国民に直接選ばれたわけではないんです。国民に選ばれた国会議員が、国民の代表として総理を選ぶ。
では、与党の国会議員はどういう基準で総理を選んでいるかというと、「この人を看板として次の選挙で自分が勝てるかどうか」ということなんです。
キム その人にリーダーシップがあるかどうか、賢いかどうか、といった基準ではないわけですね。
竹中 言い換えるなら、総理を引きずりおろすのは野党ではなく、与党なんです。選挙で勝てないと思ったら、代わりに勝てる人を立てるわけです。
そうすると、総理は引きずりおろされないように、いろいろバランスを考えなきゃいけない。仲間内に足を引っ張られないように。
しかし一方、そもそもリーダーとは何かといえば、組織に新しい変化を持ち込める人のことです。それには当然、リスクがつきまとう。だから総理には、常にリスク管理が求められます。
例えば民間企業でも、社長は副社長や専務にポストを狙われているかもしれません。それに備えたリスク管理が必要でしょ。
そういう観点から見ると、日本の組織はリスク管理にものすごく大きな労力を割かなければいけない。しかし、そこを重視するほど、得てして大きな変革はできなくなるわけです。
ただし、小泉さんの場合は例外。圧倒的な国民の支持を背景にして、少数派であるからこそ、あえて対立点を作る戦略が大きなメリットになった。非常に特殊な政権だったと思いますね。
総理に抵抗する官僚の、3つの手口――族議員・ブラックジャーナリスト・大手新聞
竹中 また、政策とは、突き詰めれば法律を変えて予算をつけるということです。実はその九割以上は省庁が作っている。何万何千という職員は、政策のために働いているわけです。細かい調整を必要とするような政策が、毎日のように出てくるんです。そこで作られた法案が閣議にかけられて、閣議決定される。これを閣法と言います。
その中には、省庁が自主的に法律を変えていく場合もあります。例えば最近だと、金融庁が資金決済法を改正して仮想通貨を決済手段として使えるようにしましたね。これは別に政治家がリーダーシップを取ったのではなく、金融庁が市場の動向を見ながら決めたわけです。これに対しては特に反対する人もいないですよね。これは政策の一つのパターンで、粛々と進めてもらえばいい。
キム 政治家としても主導するインセンティブは働きにくいですしね。
竹中 ところが問題なのは、最終的に政治的な判断が必要な場合です。役人だけでは判断しきれない問題があるわけです。
JALの再建などは典型でしょう。民間企業に税金を投入するか否かという判断だから、政治が大きな責任を負うわけです。あるいは郵政民営化のような大改革も、政治の責任で行なわないといけない。
しかし、これが一筋縄ではいかないんです。官僚にも、やりたい政策とやりたくない政策があるから、政治家に対してバイアスをかけてくる。
例えばJALの場合、当時の大臣に「JALが潰れたら大変なことになりますよ。これは穏便に収めなきゃいけませんよ」と注進するわけです。そうすると、特にそれに対して信念のない大臣や政治家は、「そりゃあそうだな」とあっさり納得してしまうんですよ(笑)。
しかし、そこで総理がリーダーシップを発揮して「それはダメだ」とか「絶対にこうするんだ」と言い出すと、官僚と総理との間で壮絶なバトルが始まるわけです。
キム それは、官僚からすると、今までの政策や既得権を手放すことになるからですか?
竹中 そうですね。ないしは今までの政策が間違っていたということになりますからね。かつての不良債権処理のときなんか、その典型です。それまでに自分たちが行なった資本注入が不十分だったことが証明されてしまうから。
キム 官僚はどんな手で抵抗してくるんですか。
竹中 よくあるのは、族議員に泣きついて国会で総理を叩かせる。あるいはブラックジャーナリストのもとに駆け込んで、スキャンダラスなことを書かせる。またはブラックじゃなくても、大手新聞に手を回して自分たちに都合のいい記事を書かせる。
政策のことは、政治家もよくわかっていないけど、新聞記者もじつはよくわかっていないことが多い。日頃の貸し借りの関係で、官僚の言いなりに書いてしまうわけです。
役所は無謬性を追求する習性があるから、この3つは必ずやりますよ。