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社会

竹中平蔵 × ムーギー・キム 日本の政治が変わらない理由

『最強の生産性革命』(PHP研究所刊)より

2018年02月06日 公開 2018年02月07日 更新

政治家もメディアも官僚に抱き込まれ、革新をはばむ

竹中 それから官僚がやりたい政策がある場合は、自分たちで動くと角が立つから、誰か国会議員を担ぐんです。「事務的なことは全部うちがやりますから、先生の名前で法案を出してください」と。こういうのも結構ありますね。

キム つまり、この議員が言えば周囲も怖がって文句を言わないだろう、という人に目をつけるわけですか。怖さだけで食っている議員って、けっこういそうですからね。ヤクザの世界みたいに。

竹中 そういうパターンも結構ありますね。そこで何度も言うけれど、役所を敵に回す政策こそ、本当はメディアに応援してもらいたいんですよ。ところが、逆にメディアはそれを叩いてくるわけ。だから大変なんです。

キム すごいですね。要するに政治家にしろメディアにしろ、主要ステークホルダーの多くが何もわかっていないまま大騒ぎを起こしていると。

竹中 そういうことですよ。だから大臣が妙にがんばると、たいへんなリスクを負うんです。一方、がんばらない大臣はリスクを負わないかわりに名前も知られない。
だから、一回国民に聞いてみたいですよね。「あなたは今の18人の閣僚のうち、何人の名前を言えますか?」と。

キム いや、これは皆ほとんど答えられないでしょう。つまり、大臣が何もやってないことの現れですね。
それにしても、生々しい話をありがとうございます。官僚と族議員のシステム、官僚によるメディア利用、それに何もしない大臣のほうが生き長らえるという皮肉。私たちがポリティカルリテラシーを高めるために、この3点は覚えておいたほうがいいですね。そしてそれこそが、社会の政治改革や民主主義のレベルアップを阻害しているものだと思います。
 

大臣は能力ではなく、政治的判断で選ばれる

キム ところで今、大臣の話が出ましたが、そもそも大臣ってどんな基準で選ばれているんでしょうか。どう考えても専門から一番遠そうな人が選ばれたりしていますよね。いかにも役に立たなそうなおじさん、おばさんがいっぱいいるわけですが。これも多くの国民が抱いている巨大な疑問だと思います。
一般的には、何期目の議員だとか、派閥の顔を立てるといった内輪の論理で選ばれているイメージなんですが、実際はどうなんですか?

竹中 まぁ、それがベースですね。もちろん政治的な判断で選ばれているわけですが、それは基本的にその人が専門家かどうかではありません。
前の選挙で支えてくれたとか、そういう政治判断ですね。そういう意味で、選ばれるべき人が選ばれないと、党内がざわついたりするんです。

キム 民間企業の場合、経営陣の人事によってうまくいくかいかないかが大きく左右されます。政治もある種のビジネスなので、もちろん人事が一番重要だと思うのですが、歪んだ選択が昔から行なわれていたわけですね。
これは今後も変わる気配がないという感じですか?

竹中 政策というのは、時間がかかるんですよ。法律を通して実施するまでに1~2年はかかる。さらにその成果が出てくるまでには、もう何年も待たないといけません。だから、大臣の成果はなかなか評価しにくいんです。
 

「政策通」大臣の悲しき実態――官僚は政治家に「貸し」を作り、味方に引き入れる

竹中 もっとも、日本の政治家に政策能力が足りないことは事実ですね。何かあったら官僚に教えてもらうしかない。そこに官僚の生きる道があるわけです。官僚の最大の力は、政治家に貸しを作ることです。それによって政治支配から逃れることができる。

とりわけそういう訓練を徹底的に受けているのが、財務省です。財務官僚はすごい。ほぼ全員が手帳を持ち、何でも片っ端からメモしている。で、こちらでいろいろ話したら、3日後くらいに電話がかかってきて、「大臣、先日お話しされたことについて調べましたので、ご説明に伺ってもよろしいでしょうか」と来るんです。
たしかに使える情報をすべて調べて教えてくれる。これはすまんなということで、政治家は彼らに借りを作ってしまうわけです。
しかも、相手は政治家だけではない。私が大臣を辞めた後でも、局長や次官が挨拶に来て、近々に発表する重要案件などについて説明してくれたりするんです。
それが、今でも来るんですよ。この人には誰々と、それぞれマンツーマンで担当者を決めているらしい。

例えば稲田朋美さん(元防衛大臣)の場合、安倍政権の閣僚でありながら、途中から増税派に転じたんです。これも財務省のマンツーマンの成果で、稲田さんと同郷の福井県出身の財務官僚を担当者に付けたからと言われています。

キム いろいろ親切に教えてもらえると、心情的に絡め取られますよね。

竹中 そう。よほど強い信念を持つ政治家ならともかく、連日のように面倒を見てもらっていたら、言うことを聞いてしまいますよね。
しかも、官僚の言うことを聞く政治家には、もう一つ「特典」があるんです。官僚が新聞記者に対して「あの人は政策通だ」と吹聴してくれる。
見方を変えれば、メディアでよく言われる「政策通」とは、役人の言うことを聞いてくれる、官僚にとって都合のいい政治家という意味です。
「役人の言うことを理解できないアホではない」ということなんですよ。

キム たしかに麻生太郎さんとか、よく「政策通」と呼ばれます。財務官僚の言うことをよく聞いてくれるということなんですね。

竹中 最近では、元厚労大臣の塩崎恭久さんなんか、絶対に「政策通」とは呼ばれないでしょ。彼は本当にわかっているから、官僚にいろいろ言われても「お前は間違っている」とやり返すんですよ。

キム そういえば最近、あまり表に名前が出てこないですね。塩崎さんはどんな改革をしようとしていたんですか?

竹中 例えば法案を出すと、成立する頃には官僚に歪められて骨抜きにされていることがよくあります。

しかし特区の法案を出したとき、塩崎さんはそれを官僚に歪められた形ではなく、政治主導で強い法案に戻してくれたんです。非常に信頼できる方ですよ。あるいはGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の基本ポートフォリオを変更する改革を主導したのも彼でしょ。

キム そういえば先生も「政策通」とは呼ばれませんよね。呼ばれるとすれば「ユダヤの手先」とか「新自由主義者」とか「貧富の格差を広げた張本人」とか「脱税王」とか。先生、ひどいことやってますね(笑)。

竹中 全部言ったな(笑)。

キム つまり、メディアや官僚に応援される政治家というのは、往々にして既得権益にがんじがらめになって、結局何もやっていないということなんですね。さんざん悪評を立てられている人のほうが、むしろ既得権益に切り込んで国民のために戦っている。そこに気づかず、メディアと一緒になって批判するのは虚しくないですか、ということですよね。
 

肥大化した官僚組織を変え、日本の生産性を上げるために

キム いろいろお伺いしていると、日本の政治が時代遅れのまま変われないのは、結局官僚組織の力が肥大化していることに尽きるように思います。
法律や規制の力で財界ににらみをきかせ、しかも歯向かう政治家を容赦なく叩き落とす。これは日本の政治の大きな特徴でしょう。
では、この官僚組織の力を削ぐ道筋というものはあるんでしょうか。

竹中 それが政治主導ですね。先にも言いましたが、官僚と政治家と財界というのは、ジャンケンのような構造になっています。
官僚は財界に強い、財界は政治家に強い、そして政治家は官僚に強い。この三つ巴ががっちり組み合っているから、日本はなかなか変われないわけです。
しかし、政治家がしっかりイニシアチブを取れば、官僚は言うことを聞かざるを得ない。政府はある種の軍隊のような仕組みなので、上下関係はきわめて明確なんです。

キム 政治家が官僚より無知だから官僚に抵抗されたり足を引っ張られたりするわけで、もっと強くなれば、いい意味でジャンケンのバランス構造が崩れるということですね。

民間企業の場合でも、チェンジマネジメントがうまくいくことが成功の条件です。アメリカのGEがいつまでもトップ企業であり続けているのは、とにかく変わり身が早いから。企業のメッセージとして、「我々が作っているのは事業ではなく変化できるリーダーである」と打ち出しているんです。あるいは政府にしても、例えばシンガポールの政府は積極果敢に変革を遂げていますね。

ところが、官僚組織は驚くほどチェンジマネジメントが下手です。これを変えるには、制度的な縦割りを変えるとともに、やはり優秀なチェンジ・リーダーを登用し、育成しなければならない。
ちなみに、官僚には自分の省庁の論理しか考えない昔ながらのオジサン官僚に不満を持つ、改革派の志高い若手官僚もいます。また、そんな若い官僚を応援する改革派の中堅も結構いらっしゃいます。彼ら、彼女らの奮闘にも期待したいと思います。

※本記事はPHP研究所刊、竹中平蔵・ムーギー・キム著『最強の生産性革命』より、一部を抜粋編集したものです。

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