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人生100年時代、「一生使える脳」をどうつくるか?

長谷川嘉哉(医学博士、認知症専門医)

2018年02月07日 公開 2022年06月30日 更新

人生100年時代、「一生使える脳」をどうつくるか?


 

漠然とした不安は、脳が元気なら解消することができる

最近、「あれ、なんだったっけ?」が増えていませんか?

職場でのちょっとした打ち合わせのとき、固有名詞がすぐに出てこず、ついつい「あれが」「それが」といった言葉で会話を進めてしまう。

「あの人、元気かな?」と相手の顔や特徴は頭に浮かんでいるのに、人の名前がとっさに出てこない。

毎日忙しいせいか、「今日の献立、何にしようかな」と思っても、3日前に食べた夕食がなんだったか思い出せない。

あるいは、次のような状態に気づきつつも、深く考えると恐ろしくなるので、なるべく目を向けないよう据え置きにしている人がいるかもしれません。

20代、30代の頃と違って、たっぷり眠った翌朝も今ひとつ頭がすっきりしない。

仕事を終えて家に着く頃には思考がぼんやりして、身体はぐったりと重くなっている。

年齢なりに疲れやすくなるのは仕方がないのかな?と思いつつも、できれば生活習慣を変えて、もっとすっきり元気に毎日を過ごしたい。

そんな自分の変化も気になるけれど、高齢者と呼ばれる年齢になってきた親のことも心配。最近、電話をすると同じ話をすることが増えたような気がする。今はまだ変わりないけど、ボケたらどうしよう。

「あれ、なんだったっけ?」も、年齢を重ねることによって膨らんでいく漠然とした不安も、脳が元気なら解消することができます。

私が医師になって28年、認知症の専門外来と在宅医療を行うクリニックを開業して、18年経ちました。その間、神経内科、認知症専門医として月に1000人近い認知症患者さんたちを診察し、認知症の予防段階から、初期、中期、末期、看取りまでのすべての現場に立ち会い、症状に応じた対策を考えてきました。

そんな日々の中で実感してきたのが、「人は年齢を重ねていくと、脳のパフォーマンスが落ち、気力のゆるやかな減退に悩まされる」という現実です。

しかし、その一方でこんな別の気づきもありました。

医療法人の経営者としてビジネスの世界で接する人たち。あるいは講演やメディア出演を通じて出会う人たち。診察室でお会いする患者さんと同じ世代でも、明晰な頭脳を持ち、気力を充実させて人生を楽しんでいる方々が大勢いらっしゃいます。

年齢を重ねても「記憶力」が優れている人と低下する人がいるのは、なぜなのだろう?

年齢を重ねても「活力」に溢れ、若い人も驚く「行動力」を見せる人がいる一方で、「気力」が衰え、本来あった「魅力」を失っていく人がいるのは、なぜなのだろう?

また、専門医としてはこんな疑問についても考えてきました。

──認知症を発症しても、「進行」が早い人と遅い人がいるのは、なぜだろう?

私はこうした疑問の答えを探そうと、日々の診察と並行して「脳の働き」を研究するなかで、親ゆびの働きに着目し、前著『親ゆびを刺激すると脳がたちまち若返りだす!』(サンマーク出版)を出版しました。1日1分で脳を元気にできる親ゆび健康法は、幸いにして60代、70代、80代、90代の方々に好意的に受け入れていただくことができました。

しかし、その後も「脳の働き」について最新の脳科学の成果などを追ううちに、より早い段階から「脳」「身体」「外部環境」を意識した生活習慣を行うことで、人は「一生使える脳」を育てることができると考えるようになったのです。
 

今の40代、50代は過去に例のない未来を生きることになる

ちょっとした「あれ、なんだったっけ?」が増えてくる40代、50代。疲れが抜けにくくなってきたな……といった身体の変化、初めての経験が減ってきたな……という環境の固定化とともに、脳のパフォーマンスも若い頃に比べて少し落ちてきたことを感じ始める年代です。

それがそのまま認知症の発症につながるわけではありませんが、何もしないまま放っておくと、脳の老化が早まり、10年後、20年後の人生にマイナスの影響が出てしまいます。

普段から仕事に追われ、疲れを感じており、なおかつ、「あれ、なんだったっけ?」が気になるようなら、それは一つの危険信号。働き盛り世代こそ、「脳の働き」を衰えさせないよう何らかのケアを始める必要があります。

なぜなら、今の40代、50代の方々は過去に例のない未来を生きることになるからです。人の平均寿命は伸び続け、2017年には主な先進国で半数以上の人が100歳よりも長生きする……。そんな「人生100年時代」を予測したリンダ・グラットンさんの著作『LIFE SHIFT』(東洋経済新報社)は日本でも説得力を持って多くの読者に受け入れられました。

実際、私たち日本人の平均寿命は女性87.14歳、男性80.98歳と、いずれも過去最高を更新(2016年 厚生労働省調査)しています。

2025年には団塊の世代が全員75歳以上を迎え、国民の5人に1人が75歳以上、3人に1人が65歳以上という過去に例のない超高齢社会がやってきます。

団塊ジュニア世代を対象に年金の支給開始年齢を70歳とする検討も行われており、定年退職の年齢も60歳から65歳、65歳から70歳へと引き上げられていくことでしょう。

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65歳以上の7人に2人が認知症発症と、その“予備群”となる

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