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ジョブズも学んだ「禅」の精神をプレゼンに活かす

ガー・レイノルズ(『プレゼンテーションZen』著者)

2012年01月06日 公開 2022年12月26日 更新

ガー・レイノルズ

スティーブ・ジョブズも“禅”を学んでいた

レイノルズ氏がプレゼンでもっとも留意しているのは、準備では「抑制」、デザインでは「シンプル」、実施では「自然さ」だ。これらはすべて、禅の精神と共通している。日本の伝統文化に学ぶものは多いという。

「つまらないプレゼンが日本に多いことは、私にとって皮肉なことです。私は、足利義政が建てた銀閣寺に表われているような、シンプルな日本の禅のデザインからインスピレーションを得ているのですから。

日本の伝統的な文化は、不必要なものを排除し、しかも不足はなく、シンプルでありながら単純ではなく、狭いものです。活け花もそうです。庭園も、アメリカでは過剰にいろいろな要素が詰め込まれていますが、日本の禅庭は静けさと空間から成り立っています。日本のデザインセンスは素晴らしく、ビジュアル・コミュニケーションのセンスも高いと思います。

プレゼンも、不必要なものを排除し、シンプルに、いちばん大切なエッセンスだけを伝えるものです。だから、禅のアプローチが有効なのです。

ところが、第二次世界大戦以降の日本の文化は、ごちゃごちゃとした過剰なものになりました。プレゼンも過剰なものになっているのです」

レイノルズ氏が勤めていたアップルの共同創業者であるスティーブ・ジョブズも、禅から影響を受けていたことが知られている。

「口にすることはあまりありませんでしたが、ジョブズも禅から大きな影響を受けていました。アップルの製品がシンプルなのは、そのためです。彼のプレゼンにも、禅の美学に近いものがあります。
彼は19歳でインドを訪れて禅に触れ、その後、サンフランシスコ禅センターの千野(乙川)弘文老師と親交をもちました。

いちばん好きな国は日本だったと思います。何度も家族で京都を訪れていますから。

禅から影響を受けたという点で、ジョブズと私は共通していますが、それは偶然です。

私が仏教に興味をもったのは、高校生だった18歳のときです。大学では哲学を専攻し、仏教や禅について勉強しました。ほんとうに面白いと思いました。

なぜ面白いと思ったのかを説明するのは難しいのですが、まず、シンプルであること。そして、具体的だからです。

キリスト教の神様は信じられませんでした。イエス・キリストは人間ですが、神様となると、いるのかどうかわかりませんから。

禅では、神様について考えることはしません。禅においては『いま』『ここ』という具体的なことに集中することが大切であり、『いま』『ここ』から心が離れてしまうことが問題なのです。禅の瞑想は『いま』『ここ』に集中するために行なうものです。

これは、プレゼンの実施でも同じです。プレゼンをするときには、プレゼンに完全に集中しなければなりません。

実際に日本の伝統文化を経験したのは、大学卒業後、1989年に来日して、青森県むつ市で茶道を学んだのが最初です。その後、禅庭を訪ねたり、京都の寺で座禅を組んだり、日本の伝統料理を食べにいったりするたびに、禅の美学に接すること ができました」
 

ガー・レイノルズ(Garr Reynolds)

関西外国語大学准教授
1961年米国オレゴン州生まれ。住友電気工業(株)米国アップルでの勤務を経て現職に。プレゼンの実施・指導における世界的な第一人者。西洋のプレゼン技術に日本文化の「禅」を融合させた手法は世界でもっともシンプルなメソッドとして名高い。企業向けの研修やコンサルティングのほか、世界中の企業や大学に招かれてセミナーを行なう。

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