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田坂広志の思索「新しい発想、深い思考はいかにして生まれてくるのか」

田坂広志

2018年04月27日 公開 2024年12月16日 更新

芥川賞受賞作家・遠藤周作に囁いた「もう一人の遠藤周作」

『深く考える力』(PHP研究所)に載せた38編のエッセイは、すべて、そのようにして書かれたものである。
こう述べると、読者は驚かれるかもしれない。
しかし、文章の創作というものは、本来、そうしたものであろう。

例えば、かつて『白い人』という小説で芥川賞を受賞した作家の遠藤周作氏が、あるエッセイで、こう述べている。
「ある心中物語を書こうと思ったら、書いている途中で、主人公が『死にたくない』と叫び出し、結局、この主人公を殺せなかった」

この主人公の叫びは、ある意味で、遠藤周作という作家の心の奥にいる、「もう一人の遠藤周作」が囁いたのであろう。「この主人公を殺すな」と。

このように、もし世の中に「深く考える力」というものがあるならば、それは、長時間考えることでも、一生懸命に考えることでもなく、心の奥深くにいる「賢明なもう一人の自分」の声に耳を傾けることであろう。

その「賢明なもう一人の自分」は、いつも、静かに我々の思考や思索を見つめている。そして、ときおり、素晴らしいアドバイスを与えてくれる。

そして、この「賢明なもう一人の自分」は、我々、誰の中にもいる。

 

緻密に論理を積み上げるだけでは「深く考える力」にはならない

実際、この「賢明なもう一人の自分」は、我々の想像を超えた素晴らしい能力を持っている。
その能力は、大きく二つある。

一つは、論理思考を超えた「鋭い直観力」。

我々の多くは、緻密に論理を積み上げていくことが「考える力」であると思っているが、実は、それは、「考える」という行為としては、ごく初歩的な段階にすぎない。
最も高度な「考える力」とは、そうした論理思考を超え、突如、新たな考えが閃く直観力のこと。

それが「深く考える力」の本質である。そして、「賢明なもう一人の自分」は、まさに、その直観力を持っている。

もう一つは、データベースを超えた「膨大な記憶力」。

我々の心の奥深くには、実は、人生で触れたすべての情報が記憶されている。しかし、我々の通常の思考では、それらの情報のごくわずかしか取り出すことができない。
しかし、「賢明なもう一人の自分」は、それらの情報の中から、必要なものを、瞬時に取り出すことができる。

実際、表面意識でのブレーンストーミングでは、どれほど考えても思い浮かばなかったエピソードや記憶が、「賢明なもう一人の自分」が動きだすと、心の深層から浮かび上がってくることは、しばしばある。

この二つが、「賢明なもう一人の自分」の持つ素晴らしい能力であるが、では、なぜ、そうした能力が、我々の日常の思考において発揮されないのか。

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自己限定の支配から脱すれば、直観力、記憶力、深く考える力が発揮される

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