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心理学者が家賃の値下げに成功した話。ガイ・ウィンチの上手に不満を伝えるコツ

ガイ・ウィンチ(心理学者)

2018年06月01日 公開 2023年05月17日 更新

 

多くの不満と要望が却下されたのに、自分の要求だけが通った

以前、私自身もこんな経験をしました。

私の住んでいるマンションの目の前に大きなビルを建設するための大規模工事がはじまり、耳をつんざく騒音とひどい振動が連日続きました。

マンションの住人たちは、次々に電話や手紙で管理会社に騒音の苦情を申し立てたのですが、管理会社の対応はみな同じで、建設中の建物には一切関与していないのでどうすることもできないとのことでした。

たしかに、管理会社には期待できませんでした。当時のニューヨーク市では、建物の所有者にすべての決定権があったからです。

しかし、あるとき私もとうとう耐えかねて、管理会社に手紙で不満を訴えることにしました。せめて、家賃の値引きをしてくれるよう要求したのです。

それまで不満を訴えた人々の意見はすべて却下されていたので、大きな期待はしていなかったのですが、なんと2日後、管理会社の責任者から電話がかかってきて、こう言われたのです。

「騒音に対する苦情がたくさん届いておりますので、お電話しました。本当にたくさん届いているんですよ。いや、もちろん、あの工事に弊社は一切関与していないのですが」男性は慌てて最後の言葉を付け足しました。

「とはいえ、あなたのお手紙は本当に素晴らしかった。そこでですね、家賃を値引きさせてもらいます。ええ、契約期間のあいだずっと。新たに賃貸契約書を作成することになりますから、値引き価格での契約を何カ月かおまけしますよ」

 

不満を「サンドイッチ」で伝える

私が送った手紙が有効だった理由には、「不満」を、2つの「耳を傾けさせる文言」に挟んで「サンドイッチ」にしたことが挙げられるでしょう。
具体的にはどのような内容だったのか、まずは、手紙の冒頭を見てみましょう。

「このマンションに住み始めてから2年半(賃貸物件となった当初から住んでいます)、おかげさまでとても快適に過ごせています。この手紙を書こうと思ったのは、ご存知のとおり、マンションの南側(最初の1年はタクシー乗り場だった場所)で建設工事が始まったからです」

「この数週間で、騒音レベルが大幅に上昇しました。二重窓であるにもかかわらず(この窓の造りは本当にありがたいです)、コンクリートを削るドリル音、何かを叩くような大きな音、金属を切る音をはじめ、この世のものとは思えない騒音が午前7時から終日続くのです」

「私は日中に自宅で書き物をしますが(夕方近くになるとクリニックに出勤)、自宅での作業が非常に困難になっています。騒音のせいで数秒も集中できず、電話で普通に会話をすることすらかないません。」

冒頭の「とても快適に過ごせています」はありきたりに思えるかもしれませんが、重要な役割を果たしています。
この言葉によって、読み手は次に続く言葉に関心を向けるからです。
冒頭の一文目では、不満に一切触れず、読み手への感謝の気持ちしか伝えていません。

では次に、サンドイッチの具材である「不満」と「要望」のパートを見ていきましょう。

「御社が建設工事に一切関係なく、工事に伴う騒音や不便に対して補償や調停を行う義務がないことは重々承知しています。ですが、このマンションを気に入って住んでいる住人のひとりとしてお願いします」

「マンションの住環境が著しく変わったことを考慮して(変わったのが御社のせいでないことはわかっています!)、家賃の値下げを検討してもらえませんか?
工事の終わりがほとんど見えず、この先何カ月も耐えがたい騒音が続くのはあまりにもつらく、この手紙を書いたしだいです。」

ここでは、不満や要求を訴えるというより、頼みごとをするような書き方をしています。敵意はなく相手を尊重していることがはっきり伝わるような書き方を心がけました。

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相手側に「協力したい」と思わせる

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