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祝『万引き家族』パルムドール受賞記念! 主演リリー・フランキー×是枝裕和監督、懐かしの対談を一部公開

2018年06月08日 公開 2024年12月16日 更新

祝『万引き家族』パルムドール受賞記念! 主演リリー・フランキー×是枝裕和監督、懐かしの対談を一部公開

最新作『万引き家族』で、カンヌ国際映画祭最高賞のパルムドールを受賞した是枝裕和監督。主演のリリー・フランキーさんを初めて自作に起用したのは、同じくカンヌ審査員賞を受賞した『そして父になる』(2013年)だった。あのときふたりは何を考え、何を感じていたのか? 『世界といまを考える1』(PHP文庫)に収録された、ふたりによる対談の一部を紹介する。
 

子どもから出てくる予想を超えるもの

リリー これだけ童貞がいると、会場の体温も高いですね(笑)。

是枝 ははは、熱いね、ここ。

リリー 皆さんは今日ここで『そして父になる』を観たばかりだと思いますが、DVDが4月23日発売なので、また買って観なおしてください。

是枝 来週ですね。

リリー 正直、とっくに出ていた気がしていて。撮影から2年経っていますもんね。

是枝 今日は発売記念イベントではなくて、立命館産業社会学部50周年記念講演なんですよ。

リリー えー! 僕、手売りでDVD売るつもりで来たんですけど。

是枝 ちょっと趣旨が違う。

リリー それは残念。じゃあ、とりあえず対談らしき話を始めますか(笑)。いまでも福山(雅治)くんと話すんですが、2年前のあのころ、映画の撮影をしていたという感覚があまりないんですよね。是枝さんのいままでの映画もそうだったのか、『そして父になる』だけがそうだったのかわからないけれど、僕の奥さんのゆかり役を演じていた真木よう子さんも「撮影をしていたというより、子育てをしていたような記憶が残っている」とおっしゃっていました。
それは衣装合わせやクランクイン前の顔合わせのときからそうで、たとえば僕と真木さんと(長男の琉晴(りゅうせい)役を演じた) 黄升炫(ファンショウゲン)くんはこの部屋でご飯を食べてください、福山くんと(福山さんの奥さん役を演じた)尾野真千子さんと(息子の慶多を演じた)二宮慶多くんは別の部屋でご飯を食べてくださいという、ふた組の家族が会わないように配慮されていた。そこから映画づくりが始まっていたんですよね。それで、お互いの家族はどんな話をしながら弁当を食べているのかを是枝さんがちらりと見にきてメモったり写真撮ったりして、またいなくなったりとか(笑)。あとは、是枝さんがときどき現場全体の状況を見て、何もいわずに撮影がスタートしているときもありました。すごく不思議な時間で、とても楽しかったです。

是枝 ありがとうございます。撮影が始まる前の時間って大切なんです。衣装合わせでも衣装が似合うかどうかを見ているわけではなくて、そこで交わされた会話などを見聞きしつつ、描こうと思っている映画のさらに一歩先へ行ける何かが見つからないかなと思って……。欲深いですけど(笑)、そういう時間なんですよね。

リリー 雄大の衣装合わせなんて必要あるのかっていうぐらい、めちゃくちゃなコーディネートですけどね。東京衣装の隅に落ちていたのを集めて着てましたから。

是枝 ははは。

リリー でも撮影が始まってからは、春の空気のなかで家族同士が集まって何か想い出深い時間を過ごしたな、というような記憶が残っています。

是枝 そういってもらえてうれしいです。

リリー では、あらためて演出のことなどをお聞きします。是枝さんの子どもを演出される感じは独特だと思うんですけど。

是枝 子どもの演出か……。そうですね、今回は『誰も知らない』や『奇跡』に比べると、わりと大人の目線で撮っているんです。リリーさん(演じる雄大)の家にいた慶多が福山さん(演じる良多)が来たのを聞きつけて、玄関まで出てくるんだけど、自分を迎えにきたんじゃないんだと思って押し入れに入るところが、唯一といっていいほど子どもの気持ちにふっと行っているシーン。あとはだいたい大人のひどい都合があって、その大人たちに子どもが翻弄される形でしか描いていません。ただ、こう話すのもどうかなと思うんですが、慶多の場合は気持ちの説明をしても、それを表現できるテクニックやキャリアがあるわけではないので、とにかく黒めがちなつぶらな瞳に見つめられるとそれだけでいいので……。

リリー 白目まったくないですよね。

是枝 白目ないですね。

リリー あと、慶多の姿形や歩き方にすごくドラマがありますよね。

是枝 うん、ただ歩いているだけでね。

リリー DVDのパッケージで使われている福山さんが慶多を抱いている写真、あの抱っこされている足がつま先までぷらーんってなっているギザカワユサは、慶多にしか出せない。

是枝 ははは。

リリー これだけで何かドラマがある、慶多は。

是枝 そうですよね。さっきの演出の話でいうと、玄関まで行って、自分じゃないんだと戻るところは、「襖のところまで行って、10数えたら戻って」と指示しているだけなんです。そうしたら最初は数えるのが早くて、「いちにさんしごろくしちはちくじゅう!」って戻っちゃったんですよ。

リリー お風呂に入っている感覚になっちゃったんですよね。早く出たい! と。

是枝 そう。それで「20数えて」といいなおした。だから慶多の場合は感情を説明するよりも、「ここを見ていて」とか指示してあげたほうが、逆に観客の皆さんが感情を読み取ってくれるんですよね。

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