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祝『万引き家族』パルムドール受賞記念! 主演リリー・フランキー×是枝裕和監督、懐かしの対談を一部公開

2018年06月08日 公開 2018年06月08日 更新

リリー 琉晴はどうでしたか?

是枝 琉晴くんの場合は、たとえば顔を抑えて「ごめんなさい!」というシーンなんかは実は撮影現場ではあまりうまくいかなくて。彼の場合は楽しそうにしているときはそのまま撮ればいいんですが、ああいう感情の複雑なシーンはつくってあげないと本人の照れが出てしまう。それでアフレコに呼んで、「ごめんなさい」を100回ほどいってもらいました。

リリー よく琉晴が飽きずに付き合いましたね。

是枝 (笑)はい。でもそれでもあまりうまくいかなかったので、アフレコルームで琉晴くんの実際のお母さんに隣に立ってもらったんです。映画とは違う台詞をふたりのためにつくって、最後に「ごめんなさい」というまでの掛け合いをやっていただいた。そうしたらようやくあそこにはまるニュアンスの「ごめんなさい」が1回だけ撮れました。

リリー あのシーンを初めて試写で観たときに、うちの三きょうだい琉晴、美結、大和が……、この3人、本当にイカレてるんですよ。一日中大騒ぎしている。本人たちは脚本を渡されていないから、現場に何しに来ているかというと、遊びに来ている(笑)。

是枝 そうでした(笑)。

リリー 仕事的には本当にヤバい奴らなんです。特に琉晴は腕白だし。そんなわけで、試写で初めて福山くんの家に行ってからのシーンを観たとき、ストーリー的に感動したと同時に、「うわあ、琉晴がちゃんとお芝居をしている!」と驚きました(笑)。向こうの家でもがんばったんだな、と。

是枝 福山さんと1対1で対峙して、「もうここで暮らすんだよ」といわれてずっと「なんで?」と聞き続けるシーンは、すごく高い集中力を発揮してくれました。実際いつも「なんで?」といっている子だったんです。オーディションのときから「なんで?」しかいわない。だから、演出としては「おじさんがなんかいろいろいうけど、いつもみたいに『なんで?』だけいっていればいいからね」と話しました。

リリー あいつ、「なんで?」っていうバリエーション、死ぬほど持っていますよね。

是枝 (笑)福山さんも本当に困っているんですよね。追いつめられちゃって。

リリー ふたりの距離感がありますもんね。でもそのくせ撮影の待機中は、琉晴はずっと福山くんにひっついて、「なんでスーパースターになろうと思ったん? なんで?」とか訊いていた(笑)。つまり、そのときは「福山雅治」だと認識しているんですよ。なのに撮影に入るとよく知らないおじさんに対峙するひとりの子どもとして、あれだけの「なんで?」がいえるという。

是枝 見事な「なんで?」攻撃でした。

リリー 子どもでいうといちばん下の大和もね。

是枝 大和はすごかったですね。

リリー 押場大和くんという名前なんだけど、あまりにすごいから「押場先生」って現場で呼ばれていましたね。ベテランみたいな間とアドリブ入れてくる。

是枝 スピルバーグも「あの子はなんだ?」といっていました。

リリー わかるものなんですね。

是枝 「あの子はジーニアスだ」と。

リリー 餃子をワーッと食べるシーンで、僕と大和はたくさん食べたほうがいいという是枝さんからの指示があったんだけど、大和は3歳なのに、どうかと思うくらいすごい量を食べて、「カット!」の声がかかったら、「ふう、食べてやったぜ……」みたいなリアクションしてね(笑)。

是枝 すごいよね。あとリリーさんがオモチャを直すシーンも素晴らしかった。
「煙出た! 電池、電池!」と大和がいうんだけど、あれ僕、何も口伝えしてないんです。「お父さんが何かやるから見ていてね」といっただけなんだけど、その場で起きていることに対してリアクションが取れている。あれこそ、素晴らしいアドリブですよね。見事でした。

リリー 同時に「直ったー!」と叫んで、ラジコンと同じ方向に走っていって、カメラからフレームアウトするじゃないですか(笑)。天才的ですよね。

是枝 実はオーディションのときに餃子を食べるシーンを演じてもらったんですよ。

リリー そんな細かいオーディションしてるんですか(笑)。

是枝 してるの(笑)。それで、お茶碗とお皿だけを用意して、「炊飯器が向こうにあるから、自分でご飯をよそってきて、餃子と一緒に食べてね」という指示をしたんです。普通は炊飯器のところにいって戻って食べるお芝居をするんだけど、大和は僕が何もいわないのに、小皿にお醬油を垂らすという芝居をした。見えていないものが頭のなかで見えていて芝居ができるなんて、3歳ではなかなかないですよ。

リリー 押場先生は撮影現場全体を見ていますからね。助監督の弁当にお茶がちゃんとついているかどうかまで見ている。

是枝 ははは。

リリー こうして子どもたちの演技プランの話を聞くと、偶然性で撮れているように誤解されるかもしれないけれど、それは是枝さんのなかのこうなってほしいという道筋をみんなに歩いてもらって、そうならないときは撮りなおしているんですよ。だから子どもたちは自由にやっていても、偶然よくなったというのはなくて、是枝さんが描いているゴールにどうやって来てくれるかなという、是枝さんのなかの正解というのがある。

是枝 それを見ながら、自分の予想をはるかに超えるものが子どもから出てきたり、自分が考えてないものが見えてきたりする瞬間があると、本当にうれしいんですよね。
たとえば、琉晴が福山さんちに一晩泊まって、リリーさんちに戻ってきた夜、琉晴、美結、大和の3人の子どもがお風呂場から出てくるシーンがあります。その3人を後ろから真木さんとリリーさんが追いかける。真木さんは琉晴の頭をゴシゴシとバスタオルで拭いていて、その脇でリリーさんが大和に洋服を着せているんですけど、そのシーンは単純に日常の風景として撮っていたつもりだった。でも編集で見直してみたら、すごく切ないシーンだったんです。
母親が琉晴の頭をゴシゴシしているのは、これまでもきっと何百回もしてきた行為なんだけど、それがあと何回できるのかなということを、子どもは気がついていないけれど親ふたりは気がついている。そういうシーンだというのが見えてきた。
あのとき、真木さんがすごく強くゴシゴシするんですよ。真木さんもお子さんがいるからよくわかっているのだと思うんだけど、強くこすらないと髪が乾かないんですよね。それで、もし僕が最初に意図していたとして――つまりあと何回できるのかなと母親が思う気持ちを意図していたとして、その意図を汲み取ると、優しく頭をなでるという芝居をされる方もいるかもしれない。でも真木さんは強くゴシゴシこすっちゃって、琉晴が「顔はやめてや」というんです。あのへんがすごくリアルでよかったなと。

リリー 琉晴もちょっと照れていて、いいシーンですよね。

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