ホーム » 趣味・教養 » <鼎談>是枝裕和 × 西川美和 × 砂田麻美~世界といまを考える

<鼎談>是枝裕和 × 西川美和 × 砂田麻美~世界といまを考える



2015年06月04日 公開

最新監督作『海街diary』が6月13日(土)に公開となる是枝裕和監督が、リリー・フランキーさん、山田太一さんら「映像」に携わる表現者と語らった対談集『世界といまを考える1』が6月3日に発売。その発刊記念として、3回に分けて内容の一部を特別公開します! 

第1回は、西川美和監督と砂田麻美監督との鼎談。話のテーマは、それぞれの出会いから、3人がともに立ち上げた制作者集団「分福」のこと、そして今後の展開まで広がり……。
では、その一部をどうぞ。

 

「映像」の表現者と、世界といまを考える

 

是枝――西川監督とは1997年、映画『ワンダフルライフ』でフリーの演出スタッフとして入ってもらってからなので、もう18年目。砂田監督とは2007年に『歩いても 歩いても』の監督助手として入ってもらってからなので、8年目になる。テレビマンユニオンから離れ、彼らと3人で映像制作者集団「分福」を立ち上げて1年が経った。緩やかに交流しながら互いを刺激し合える関係を築くというのが、事務所開設の意図だったが、いまのところはうまく機能していると思う。おのおのとの対談はトークイベントを含めて何度かあるものの、3人で語り合う鼎談は今回が初めて。それぞれのビジョンや事務所の未来のことを含め、いろいろと真面目に(半分はボケツッコミだけど)話し合えたのはよい機会だった。

 

原作の世界観を映画のなかにどう落とし込むか

砂田 ちょうど原作の難しさという話が出ましたが、今度の是枝監督の最新作『海街diary』(*1)は原作モノですよね。その難しさはありましたか。
 

*1 是枝監督の10作目の映画で、2015年6月13日(土)公開。吉田秋生の同名マンガを原作に、監督自身が脚本を書き下ろした。鎌倉で暮らす三姉妹が異母妹を引き取って4人で生活をしていく物語。主演は綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すず。

是枝 うん。原作が好きだからね。あと、6巻とはいえ膨大な長さなので、そこから何をチョイスして、しかもそれをどのように自分の映画にするかというのは、けっこう格闘しました。

砂田 それはどういう意味で?

是枝 ……自分が書いたものではないものをここまで読み込むというのは、なかなかない。原作者の吉田秋生さんの書いたものをぜんぶ読み直し、それがどう変わって『海街diary』が生まれ、そこに表現されている世界観のなかで彼女は何をしようとしているのか、これがそうなっていないのはなぜかを必死で考える。自分が書いたものもそうやって考えながら書いてはいるんだけど、こんなに考えたのは久しぶりだった。だって自分が書いているものはここまで分析しないじゃない?

西川 え?(笑) 分析しない?

砂田 分析していますよね。

是枝 いや、たとえば『海街diary』というのは腹違いの妹を姉3人がいきなり引き取る話なんだけど、引き取ることにそんなに葛藤がないの。

西川 確かに葛藤なしに引き取っていますよね。

是枝 それで、もしそういう設定で話を書きはじめたとして、3人お姉さんがいたら2番目はちょっと意地悪で妹を苛める、とか考えるじゃない?

西川 セオリー的に。

是枝 うん。そういうことが原作にひとつもない。そうすると「なぜそういう設定にしていないのか?」と思うわけ。吉田さんはあえてそうしないことが山ほどあって、なぜしてないんだろうかとずっと考える。

砂田 映画の物語のセオリーとぜんぜん違うところで書かれている。

是枝 そう。じゃあそれをどうおもしろく2時間の映画にするか。たとえばあの話は時間が緩やかに流れていくなかでいろんなエピソードを引っ張って並べていて、まさに「ダイアリー」なんだよね。それはマンガというスタイルだったら成立するけれど、同じことを映画でやったら成立しない。

砂田 そうですよね。

是枝 どこにも流れ着かない。原作は「この子おもしろかったけど、こっちの子のほうがおもしろくなったから、この子の話はちょっとやめちゃおう」とか「こっちの子のことをもう少し膨らませるために、こういう関係の人を登場させてみようかな」というようなことを5巻目で始めていたりして、たぶん吉田さん本人も全体像が最初にあるわけではないんだよね。だからこそ、枝葉の広がり方におもしろさがある。でも2時間の映画で、1時間40分で初登場の人が出てきたら……。

西川 困っちゃう。

是枝 だからそのへんも含めてぜんぶ解体して、構築しなおして、映画という仕組みのなかに原作の世界観をどう落とし込んでいくかということを必死でやったの。うまくいったかどうかは、観ていただくしかないけれど。

西川 確かに『海街diary』の脚本を読んだとき、ここ何作かの監督のオリジナルの脚本の流れとは明らかに違うなと思いました。

砂田 違いますよね。

西川 監督、この原作がすごく好きじゃないですか。原作のファンゆえに捨てられないものがすごく脚本に見えたんです。要はストーリーラインに関係しない無駄みたいなものが、もともとお好きですよね。

是枝 大好き(笑)。

西川 でも、そういうのを削り取るという方法を最近は取られていますよね。

是枝 『そして父になる』(*2)はずいぶん削って、ストーリーラインにエピソードをぜんぶ寄せていきました。
 

*2 是枝監督9作目の映画で、2013年9月公開。主演の福山雅治が初の父親役を好演。ほか尾野真千子、真木よう子、リリー・フランキーなどが出演。第66回カンヌ国際映画祭コンペティション部門審査員賞を受賞し、アート系映画としては異例の興行収入32億円を突破、大ヒット作となった。

西川 そのへんの割り切りが最近すごく思い切っているなと思っていたときに……。

是枝 いちばんやりたいことをやった(笑)。

西川 無駄好きがまた始まったという。だからこそ、監督らしさも逆にあるなと思ったけれど。

是枝 直線的な映画にはなっていない感じだね。

西川 うん。久しぶりに迷いがある第一稿を読ませていただいた気がしますけど、上がりは随分と美しいものになりましたね(笑)。

是枝 光栄です(笑)。

是枝監督最新作『海街diary』(2015年6月13日公開)の一場面
(C)2015吉田秋生・小学館/フジテレビジョン 小学館 東宝 ギャガ

<次ページ> 前提や制約があってこそ広がる世界

次のページ
前提や制約があってこそ広がる世界 >



著者紹介

是枝裕和(これえだ・ひろかず)

映画監督、ディレクター

1962年、東京生まれ。早稲田大学卒業後、テレビマンユニオンに参加。主にドキュメンタリー番組の演出を手掛ける。2014年に独立し、制作者集団「分福」を立ち上げる。1995年、初監督映画『幻の光』がヴェネツィア国際映画祭で金オゼッラ賞受賞。2004年、『誰も知らない』がカンヌ国際映画祭史上最年少の最優秀男優賞(柳楽優弥)受賞。2013年、『そして父になる』がカンヌ国際映画祭審査員賞受賞。2015年6月13日に『海街diary』が公開。

西川美和(にしかわ・みわ)

映画監督

1974 年、広島県出身。早稲田大学卒。在学中に是枝裕和監督作品『ワンダフルライフ』に参加。2002 年にオリジナル脚本作『蛇イチゴ』で長編映画監督デビューし、国内映画賞の新人賞を受賞。続く『ゆれる』も第61 回毎日映画コンクール日本映画大賞、読売文学賞の戯曲・シナリオ賞など多数受賞する。ほかに『ディア・ドクター』『夢売るふたり』。小説『ゆれる』と『きのうの神さま』が文学賞候補になるなど、執筆活動も注目される。

砂田麻美(すなだ・まみ)

映画監督

1978 年、東京都出身。慶應義塾大学在学中よりドキュメンタリーを学び、卒業後はフリーの監督助手として是枝裕和監督らに師事。2011 年、がんを患った自身の父の最期に迫ったドキュメンタリー映画『エンディングノート』で監督デビュー。第62 回芸術選奨文部科学大臣新人賞など多数の新人監督賞を受賞。13 年、第2 作『夢と狂気の王国』が日本を始め香港・北米等で公開。小説『音のない花火』など執筆活動も行っている。

関連記事

編集部のおすすめ

計算ずくで撮ったものが、はたして『映画』といえるのか

三池崇史(映画監督)、聞き手:五十川晶子(編集者/フリーランス・ライター)

新藤兼人、100歳を生きる

新藤兼人(映画監督)

仲代達矢が語る日本映画黄金時代

春日太一(映画史・時代劇研究家)

井上ひさし ふかいことを おもしろく

井上ひさし(作家・劇作家)

野村萬斎・宿命を力に変える狂言師の矜持

野村萬斎(狂言師)

2月開催!!ハッピーウーマンオンラインセミナーシリーズ-Dr.クリスティンペイジ

WEB特別企画<PR>

アクセスランキング

WEB特別企画<PR>

2月開催!!ハッピーウーマンオンラインセミナーシリーズ-Dr.クリスティンペイジ
  • Facebookでシェアする
  • Twitterでシェアする

ホーム » 趣味・教養 » <鼎談>是枝裕和 × 西川美和 × 砂田麻美~世界といまを考える

×