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社会

盛岡の小さな書店が出版社の熱視線を集める理由

田口幹人

2018年07月26日 公開 2022年08月08日 更新

 

本の魅力を最大限に感じてもらう棚づくり

朝の荷開けから、品出し、客注対応、注文電話、返品処理など、「本のゆりかごから墓場まで」すべてをやらなければいけないのが本屋です。

それこそ、やらなければいけないことをすべてやっていると、あっという間に一日が終わってしまうという現実は、本屋で働いている人以外には知られていないことかもしれません。

そうした中で、「一冊の本を売る」という情熱を持ち続けることは、案外難しいものです。手をかけるには、時間がないし余裕もない。

そこで、機械化やシステム化が進む本屋もあるわけですが、そうすると今度は、逆に人はいらない状況になっていく。なんとも難しいのです。

ただ、間違いなく言えるのは、自分たちがアクションを起こせば、ほんのちょっとのことでも、お客さまから確実に反応が返ってくるということです。

ただ本を置いておくだけでは、やっぱり売れません。これぞと思った本にどう手間をかけるか。その本をどのくらいのタイムスパンで売るか、時間軸を考えながら売ることが何よりも大切だと思っています。

お客さまがその本とどのように出会ったら、本の魅力を最大限感じることができるのか。あくまでも棚をつくる側の推測でしかないのですが。

かつて読んだ本と、これから出会う本の間を、お客さまと共に耕すことをしていると、だんだんその感覚を摑めるようになります。ただ、今の本屋は求める結果にたどり着くまでの時間軸が短くなった気がしています。

出版不況と言われながらも、書籍の発行点数は毎年増え続け、年間約8万点の新刊が出版されています(2015年現在)。

どんどん新刊が送り込まれてきて、時間もスペースも限られている中で、「売れる」という結果を出さないと、店頭にその本の居場所を残すことができません。

どうしても動く可能性の高い本が優先された棚になっていきます。一方、動かない本は「不稼動在庫」という不名誉な名前を付されて返品されてゆく。

価値観は人それぞれ、どう売っていくかという考え方も人それぞれです。それを考えるのが、まさに書店員一人一人の仕事だと思っています。

たとえば僕たちの店でいうと、これぞと思った本は店のあちこちに置かれていたりします。複数の箇所に、同じ本が置かれているのです。

実用書のコーナーにもあり、ビジネス書のコーナーにもあり、郷土書のコーナーにもあったりする。

ですから、僕たちの店では担当者同士でスペースの取り合いが起こります。ぐずぐずしていると、あっという間にスペースが取られてしまう。別のコーナーの担当者が、いつのまにか自分のコーナーに本を置いてしまったりします。

いかにすばやく、自分の「これだ」と思う本を決めて仕掛けられるか。それが問われてきます。

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「ここにあるから来てください」ではなく、こちらが行く

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